#86

ファミリーレストランを出てからアミノとわかれたミックスたちは、自分たちにも何かできることはないかと、テストチルドレンがいると思われる施設しせつたずねてみることにした。


施設の場所はアミノからデータをおくられているので問題もんだいはなく。


さらにサービス本人と一緒いっしょに行けば、彼女を知る者がいればすぐにわかってもらえるはず。


――と、ジャズがミックスに考えたあんつたえた。


「さすがジャズだなぁ。よくすぐにそんなことが思いつくよ」


「このくらい誰でも思いつくわよ。それでどうなの? あんたが文句もんくないならすぐにでも実行じっこうしたいんだけど」


ミックスは、少しれながらいうジャズにもちろん文句はないと返事をした。


だが、ジャズは本当にいいのかといったうたがった表情ひょうじょうで見返してくる。


ミックスがたずねておいて何故そんな顔をしているのかをくと――。


「いやあんたにはまだ宿題しゅくだいのこっているでしょ……。だから訊いたんだけど……」


「……そういえばそうだった。でも大丈夫。宿題くらいどうにでもなるさ」


昨日きのうの進み具合ぐあいで、よくそんな自信じしん満々まんまんに言えるわね、あんた……」


「そう? でもさ、宿題も大事だけど。サービスのことはもっと大事じゃないか」


あっけらかんというミックス。


ジャズはそんな彼を見て思わずあきれてしまったが、内心ないしんで思う。


(こいつがこういうやつだったこと忘れてたわ……。でも、そこがいとこなんだけどね)


「じゃず、なんかうれしそう……」


そんなことを考えていたジャズを見上げながらサービスがそういうと、彼女はほほを赤くめてあわわと大声を出しはじめた。


両手りょうてを大きく振り、必死ひっしに何かを誤魔化ごまかしているようだ。


ミックスもニコも何故ジャズがあわてだしのかわからず、不思議ふしぎそうに彼女のことを見ている。


「な、なんでもないのッ! よ、よし、じゃあ行くわよ」


「おう~」


うわずった声を出すジャズに続き、サービスも声をあげて彼女の後について行く。


どうやらサービスは、もうジャズのことは苦手にがてではなくなっていたようだった。


はしゃぎながら彼女の手をつかみ、じつに楽しそうにしている。


「なんだかよくわからないけど。おれたちも行くか、ニコ」


ミックスとニコは、いまだにジャズが何があって慌てていたかがわからないでいたが、楽しそうに笑い合う彼女とサービスを見て二人の後を追った。


――トレンチコートの少女が街を歩いていた。


彼女の名はリーディンという。


永遠なる破滅エターナル ルーイン――かつて人類じんるいほろぼそうとしたコンピューターをたためる宗教しゅうきょう組織そしきもとメンバーであり、組織から天候てんこうあやつることができる経典きょうてんぬすんだ彼女は、周囲しゅういに気をくばりながら雑踏ざっとうを行く。


いたんだかみさわりながら落ち着かない様子ようすで歩く彼女とすれちがった歩行者ほこうしゃたちは、その挙動きょどう不審ふしん態度たいどと、わか容姿ようしには合わないトレンチコート姿すがたを見て笑ってしまっている。


「……経典から出た啓示けいじによれば、このあたりなのだけど」


リーディンは歩きながらひとごとつぶやく。


そして、トレンチコートの内側うちがわからぶあついい本を取り出した。


これこそ天候を操ることができる経典――アイテルである。


「――原初げんしょは大気。雨と風がいのちみ、それはやがてちからとなる」


リーディンが歌うように呟くと、晴天せいてんだった空をくもおおい始め、次第しだいかみなりの音が鳴り出した。


さらにその雲は雨を降らせ、周りにいた歩行者たちは慌てて持っていたものをかさわりにしている。


だが、リーディンは雨に打たれながらもけして経典を閉じずに、その表情を強張こわばらせていた。


間違まちがいない……。神の領域りょういきおか根源こんげんはこの近くにいる」


リーディンはそういうと経典をコートの内側にしまい、雨の振る街中へと消えていった

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