#79

バイオニクス共和国きょうわこく象徴しょうちょうする管制塔かんせいとうアーティフィシャルタワー。


まるこの共和国すべてを監視かんししているようにそびえ立つ、いうならば異端いたん審問官しんもんかん神殿しんでんともいうべきものだ。


その建物内たてものない地下ちかには、ガラスの円筒えんとう墓場はかば墓石トゥームストーンのようにならんでいる。


墓石トゥームストーンのような円筒の中は、様々さまざまな色の液体えきたいたされている。


その中を進むボサボサあたまの少年――ジャガーは相変あいかわらず気味きみの悪いところだと、内心ではがしていた。


地下には当然とうぜんまどはなく、ここはいつもそのカラフルな墓石トゥームストーンから出ているあかりしかないため、まるで悪趣味あくしゅみなナイトクラブのような雰囲気ふんいきだ。


「ミラーボールでもつけてみれば、ちっとは変わるかねぇ」


ジャガーはウゲッとしたを出し、さらにおくへと歩いていく。


その奥には一人の人物が立っていた。


三つボタンのスーツをカチッと着た成人せいじん男性。


着こなしや仕草しぐさからさっするに、いかにも厳格げんかくそうな人間に見える。


男の名はメディスン。


バイオニクス共和国の前身ぜんしん――はん帝国ていこく組織そしきバイオナンバーの幹部かんぶであり、その組織の全員の義父であり、リーダーだったバイオをころしたといわれている男。


現在げんざいの彼は、共和国の暗部あんぶ組織ビザールを指揮しきしている立場だ。


(やっぱ変だよなぁ……)


ジャガーはメディスンの格好かっこうを見て、引きつった笑みをかべる。


ジャガー自身も作業用さぎょうようジャケット姿すがたではあったが、自分もふくめ、やはりこういう場所では白衣はくいでも羽織はおっていたほうがさまになると彼は思っていた。


「タワー内でスーツはおかしいか? しかし、そぐわないのはお前も同じだ」


思っていたことを見抜みぬかれたジャガーは、ただ笑みを浮かべるとメディスンに会釈えしゃくする。


そして、口頭こうとう連絡れんらく事項じこうつたえ始めた。


永遠なる破滅エターナル ルーインのメンバーが共和国内に入りんだことを。


永遠なる破滅エターナル ルーインとは、かつて人類じんるいほろぼそうとしたコンピューターをあがめる宗教しゅうきょう団体だんたいであり、武装ぶそう集団しゅうだん


現在でもなおバイオニクス共和国にもストリング帝国にもテロ行為こういり返している世界中に信者しんじゃがいるテロリスト組織だ。


「まあ、正確せいかくにはもとメンバーなんすけどね」


なんでもジャガーの話では、侵入しんにゅうしてきた永遠なる破滅エターナル ルーインのメンバーは、組織を裏切うらぎって共和国へとやって来ているらしい。


メディスンはまあよくある話だと、ズボンのポケットに入れていた両手りょうてを出して両うでを組む。


「宗教団体とはいっても人間が作る組織である以上いじょう一枚岩いちまいいわではないってことだな」


「それにあそこは思想しそううんぬんじゃないですからね。生きるためにしょうがなく入ってるやつ大半たいはんですから。そりゃお手てつないで仲良なかよくとはいかないんでしょ」


大昔おおむかしの宗教に、なんじ隣人りんじんあいせというおしえがあったそうだが……」


「あ~そういう話いらないっすから。オレ、ノピアさんじゃないんで、じゃあ失礼しつれいしま~す」


ジャガーの態度たいどにメディスンはまゆをひそめた。


だが、そんなメディスンのことなど気にせずに、彼はその場を後にしようとあるき出す。


メディスンはその背中せなかを見ながらあきれる。


「そうそう。大事なこと言いわすれてました」


くるりと振り返ったジャガーは、腕に付けていたデバイスから立体りったい映像えいぞうをメディスンの前にうつす。


メディスンは見てすぐに何の映像か理解りかいしたのだろう。


ふたたび眉をひそめていた。


「ルーザーリアクターが研究所けんきゅうじょを飛び出したのか? まったく永遠なる破滅エターナル ルーインのメンバーといい、上層部じょうそぶはなにをやっているんだ」


「だから“元メンバー”ですって。それよりどうします? 動いちゃっていいすっか?」


「お前に動かれるとこっちにしわ寄せはくるんだ。指示しじがあるまで大人おとなしくし情報じょうほう集めでもしててくれ」


「う~す、舞台裏ぶたいうらはオレのステージすっからね。せいぜい死人が出ないようにがんばりま~す」


ジャガーはそうやる気なくいうと、今度こそこの場から立ち去った。


残されたメディスンは笑っていた。


ジャガーがいった“舞台裏ぶたいうらはオレのステージ”という言葉を聞き、ずいぶん上手いことをいうと思っていたからだ。


まるところ、それが暗部組織ビザールのメンバーであるジャガー·スクワイアの仕事だった。

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