#43

それからウェディングがチョコレートケーキとドリンクバー、ニコとスノーは枝豆えだまめ注文ちゅうもん


ミックスとジャズはドリンクバーのみで、クリーンは天ぷらうどんをたのんだ。


「ニコはロボだからいいけど、スノーは枝豆なんか食べて大丈夫だいじょうぶなの?」


「この子は特別とくべつなんです。塩分えんぶんおさえればさして問題もんだいはないと思います」


メニューひょうであるバーチャル画面がめん――ちゅういているタッチパネルには塩分ひめえめという項目こうもくがあった。


注文するときにこの表示ひょうじを押せば、えらばれたしな反映はんえいされるのだろう。


それにしてもなぜひつじと犬が枝豆を選んだのか。


ミックスは羊は草、犬は肉じゃないのかと考える。


(う~ん、俺がへんなのかなぁ。動物のことはよくわかんないや)


結局けっきょうよくわからないまま彼はドリンクを取りに向かった。


そして、ジャズのぶん紅茶こうちゃと自分の分のココアを持ってせきへともどる。


「ついでにジャズのも取ってきたよ。って、なんだこりゃッ!?」


席に戻ったミックスは驚愕きょうがくした。


なぜならば先ほどはなかったはずのはちが、山のようにみ上げられていたからだ。


「ごちそうさまでした」


丁寧ていねいにおじきをしてはしを置くクリーン。


どうやらこの鉢はすべて彼女の食べたうどんのもののようだ。


ミックスが顔を引きつらせながら、クリーンはいつもこんなに食べるのかとたずねた。


するとクリーンがこたえる前に、ウェディングはうれしそうに声をあげる。


「クリーンの本気ほんきはこんなもんじゃありませんよッ! この子はこんなレストランくらい余裕よゆう閉店へいてんにできますッ!」


「そうなのか……。おれはそうとは知らずに、いくらでも食べていいとかいっちゃったよ……」


「いや~たくさん食べる女の子って最高さいこうにカワイイですよねッ!」


ミックスは思う。


大人おとなしそうに見えてもやはりウェディングの友だちだ。


このくらいのことは予測よそくしておくべきことだった。


「ああ……これでまたほしかった調理ちょうり器具きぐが買えなくなっちゃったよぉ……」


「ふん、見栄みえるからよ」


ジャズはそういった後に、さりげなく紅茶を持ってきてくれたことをお礼を伝えたが、今のミックスの耳には入っていなかった。


テーブルの上に積み上げられたからのうどん鉢を見ながら、今にもたましいけてしまいそうになっている。


「でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」


そして、つぶやくようにそう言い、いつものかわいた笑みをかべる。


そんな彼を見ていたジャズは、またふんっとはならすのであった。


それから今さらながら、ようやくクリーンとスノーの自己じこ紹介しょうかいに入る。


彼女のフルネームはクリーン·ベルサウンドといい、ウェディングとは今のかよっている中等部ちゅうとうぶで一年生のころからの付き合いらしい。


「彼女との出会いは、爆弾ばくだんが落っこちたときみたいに大事件だいじけんだったんですよ!」


ウェディングは声をり上げ、彼女との出会ったときのことを話しはじめた。


ジャズはすでにクリーンのことを聞いていたようで、「また話すのか」という顔でウェディングを見ている。


――それは今からやく二年前、ウェディングが今もりょうでのことだった。


寮には、屋内おくないプールがあり、コンピューターが管理かんりしているのもあって、二十四時間使用しよう可能かのうのなのだそうだ。


ウェディングは寮での消灯しょうとう時間後に、誰もいないプールで思いっきり楽しみたいと考え、こっそりとおよぎにいった。


さすがに照明しょうめいは消されていて薄暗うすぐらあかりだけの状態じょうたいだったが、むしろナイトプールみたいだとウェディングはよろこんで水面すいめんへと飛びむ。


それから一人で楽しんでいると、目の前にうつぶせになっていている人間が見えたそうだ。


それはまったく微動びどうだにせず、ただそのまま水面をプカプカとただよっていた。


ウェディングはまったく動かないそれを見て死体したいだと勘違かんちがいし、共和国きょうわこく治安ちあん維持いじする組織そしき――監視員バックミンスター通報つうほう


だが、それは死体ではなく、この寮――ウェディングと同じ学校に通うこととなったばかりのクリーンだった。


勘違いだったことを安心していたウェディングだったが。


当然とうぜんそんな時間にプールを使用していた彼女はクリーンと共に大目玉おおめだまらい、それがきっかけでよく話すようになったそうだ。


「う~ん、とてもウェディングらしいそそっかしいエピソードだなぁ……」


「前に聞いてあたしが気になったのは、プールで泳がずにただ浮いていたクリーンのほうだったわ……」


話を聞いたミックスは、ジャズと共に乾いた笑みを浮かべていた。


「いや~そういわれるれますな~」


「あたし、ぜんぜんめてないんだけど……」


「うん……なぜ今の反応はんのうので自分が照れたのかを考えてみよう、ウェディング……」


クリーンはそんな三人のやりとりを、じつに楽しそうに見ているのだった。

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