#24

それからジャズは道行く人にたのみ、ミックスを医療いりょう施設しせつへとはこんでもらえるように手配てはいしてもらった。


数分すうふんもしないうちに医療ドローンがあらわれ、ミックスに応急おうきゅう処置しょうちを施し、彼はそのまま病院びょういんへと運ばれた。


もちろんジャズも一緒いっしょにだ。


すでに気をうしなっていたミックスの身体からだは、もとの人間の皮膚ひふへともどっていた。


「ジャ、ジャズ……ジャズ……」


移動中いどうちゅう救急車きゅうきゅうしゃの中で、彼女の名をび続けるミックス。


そんな彼を見たジャズは――。


「あんた……こんなになってもまだ……。どうしてなんだよ……。本当に……バカだよぉ……」


その手をにぎりながら、泣きそうな声でつぶやいていた。


その後、病院に到着とうちゃくし、ミックスの持っていたエレクトロフォンでアミノへと連絡れんらく


何が何やらわからなかった彼女は、学校の授業じゅぎょう中断ちゅうだんさせ、ミックスとジャズのもとけ付けてくれた。


「い、いったいなにがあったんですかッ!?」


身体に包帯ほうたいかれてているミックスの姿すがたを見たアミノは、あわてながらジャズにたずねた。


だが、ジャズは何も言わずにただ泣きそうな顔でうつむいている。


アミノは彼女の気持ちをさっしたのか、それ以上いじょう話をするのは止めて彼女にそっとう。


「ごめんなさい……あたしのせいなんです……。本当にごめんなさい……」


今にも泣き出しそうな声でいうジャズ。


そんな彼女に寄り添っていたアミノは、そのあたまやさしくでる。


大丈夫だいじょうぶ、大丈夫ですよ。ミックスくんはこんなことくらいでジャズちゃんをきらいになったりしません」


そして、なぐさめるようはげましの言葉をかけるのであった。


それからミックスが目をましたのは、つぎの日だった。


彼が病院のベットから身体をこすと、そこにはアミノと、彼女にかれていたニコがの姿があった。


「ここは……? うッ!? イタッ!」


「ダメですよ、まだ起きちゃ」


腹部ふくぶを押さえ、苦痛で表情をゆがませるミックス。


アミノがそんな彼へまだよこになっているようにいうと、ニコも心配しんぱいそうにいている。


ミックスはそんな彼女たちの言うことなど聞かずに、まどへと顔を向けた。


すでに夕日ゆうひしずみかけていて、街灯がいとうが付き始めている。


自分がアリアと会ってから少なくとも数時間は経過けいかしているなと、ミックスは思った。


「もう、昨日きのうのこの病院に運ばれてから丸一日眠っていたんですよ」


「丸一日ッ!? そんなに寝てたんですか、おれッ!?」


「いろいろ大変だったんですからね。ミックスくんのために授業じゅぎょう自習じしゅうに変えたり」


今の状況じょうきょうを聞かされたミックスは、すぐにあることを思い出していた。


そう――。


アリアが言っていた、明日の夜にバイオニクス共和国きょうわこく象徴しょうちょうとされる管制塔かんせいとう――。


アーティフィシャルタワーを爆発ばくはつするという話を。


(じゃあ、もうアリアたちが動き出してるってことじゃないか……)


横で話を続けているアミノの言葉など、今のミックスのみみには入ってきていなかった。


「アミノ先生ッ! ジャズはッ!? ジャズは今どこにいるんですかッ!?」


話の途中とちゅうでいきなり訊かれたアミノは、少しムスッと不機嫌ふきげんそうにすると、ジャズのことを渋々しぶしぶ話した。


なんでも今彼女は、バイオニクス共和国にいる友人に会いにいっているらしい。


だから安心して眠っているようにと、アミノは言葉を続けた。


それを聞いたミックスはあわててベットからりようとする。


「なんだって……? こうしちゃいられないッ! うッ!?」


だが、腹部に激痛げきつうが走る。


き出しの鉄筋てっきんが腹をつらぬいたのだ。


いくらなんでも無理に動けば、身体がいやがるに決まっている。


「ほら、だからまだ動いちゃダメですって。もう、いくらジャズちゃんに会いたいからって、その身体で無茶むちゃはいけませんよ」


アミノはそういうと、すわっていたイスから立ち上がった。


そして、ニコを抱いたまま病室から出て行こうとする。


面会めんかい時間がもう終わっちゃうので先生は帰りますけど、ちゃんと安静あんせいにしていてくださいね。担当たんとうの先生にはミックスくんが目に覚ましたことをつたえておきますから。きっとこれからばんご飯を出してくれますよ」


「先生、俺はッ!」


「何はともあれミックスが無事ぶじだったので先生はうれしいです。それじゃ、また明日あした来ますからね」


アミノは、ミックスが何を言おうとしているのかなど聞かずに、手を振って病室を出て行った。


抱かれていたニコも彼女のマネをして、そのみじかい手を振っていた。


一人病室にのこされたミックスは、着ていた病衣びょういてた。


はだ露出ろしゅつし、巻かれた包帯の上からでもわかるが、はげしく動いたらまた傷口きずぐちが開いてしまいそうだ。


だがミックスは、そばにあった学校指定してい作業さぎょうようジャケットにそでとおす。


「心配ありがとう、アミノ先生……。でも俺は……寝てなんかいられないんだよ」

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