第19話
いつもは社長と一緒に帰るシスだが、今日は社長が少し残業があるそうで一人で帰っていた。でも……なんか変。
私、後を付けられてる?
さっきから異常に後ろから物音がするし……。シスが恐怖に怯えながら、そっと、後ろを振り返ってみるが誰もいない。やはり変だ。誰も居ないなら物音なんてしないはず。シスは急いで社長の家に帰った後、必死に玄関の前に立ち、社長の帰りを待った。
ガチャ、と音と同時に社長の姿が見えた。
「社長っ!」
社長は落ち着いた様子だった。『だからチェギョ「わ、私多分、誰かに尾行される!」
『尾行?』
「そうなの。帰ってくるときに後ろから物音がすると思って後ろ見れば、誰もいないし。……そんなことの繰り返しで」
『じゃあ僕が明日から、シスの尾行する奴のことを尾行するよ』
「え、でもどうやって?」
『さぁ』
やっぱり不思議だ。本当に社長なんかに相談してよかったのかな。
シスが社長室に行こうと、歩いていた時、ジンホに会った。
『シス!』
「あ……こんにちは」
『何? 会社だと冷たいシスになっちゃうの?』
「いや、そんなわけではないけど」
『あのさ……あの人と、本当に付き合ってるの?』
「えっ……」
どう答えれば正解なのか、脳内をフル回転させて考えた。
「ううん、違うよ」
これが私のいきついた答え。社長もあの場のノリで言ってたと思うし、嘘は良くないし。もうそこで会話は終わったかと思った。でも……。
『じゃあ何で、二人で帰っているわけ?』
「それは……。え?」
待って待って、何で二人で帰ってること知ってるの?
「ジンホ……もしかして……」
『じゃあね』
「えっ、ちょっと!」
シスの声にも反応せず、ジンホは早い足取りで去っていった。
「嘘でしょ」
***チェギョンSIDE
アイツらか? チェギョンは、明らかに動きがおかしい二人を見つけた。こんな夜遅くに道の端を行ったり来たり……。チェギョンは早歩きをして二人に近づく。
「シスだ」
二人の視線の先にはシスがいた。合致した。絶対こいつらが犯人だ。チェギョンはすぐさま走った。走って、背後から尾行していた二人を蹴り倒した。
『痛ッッ!』 『ッッッ!?』
「おい、何してんだよ」
地面に無惨にも倒れ込んでいる二人に向かって言った。
『しゃっ、社長!?』
「あ゛? 僕を知ってんのか?」
『あ、いえ……』
よく目を凝らして見てみた。夜なので良くは見えなかったが、見覚えのある顔な気がした。
「カン……チョウ?」
そう訊くと、彼は黙ったまま下を見ている。
「だよな、そうだよな。あ~、ずいぶんすごいことしてんじゃねーの? 人のことを尾行するなんて? ……どういう始末しようかな」
『ひ、人にっ! ……頼まれたんです』とチョウが言った。
『はい、そうです』と、横にいたもう一人の奴が言った。
「誰に?」
『なんかジンホっていう男性に尾行しろって頼まれて』
「あっそう。二人、名前は?」
『カンチョウです』
『キム・タローです』
「二人とも僕の会社の人だよね? ……明日から来なくていいから」
『えっ社長!!』
「人に頼まれたからって、尾行する奴らなんてこの会社には要らない。そんな奴、社長直々にお断りだ。分かったな」
シスは家についていた。
『チェギョン! ……今日も変だったの、やっぱり尾行されてた。でも、誰かがその人を蹴ってたの』と、シスが僕のところまで走ってきた。
なんで呼び捨て? なんでタメ口?
「その誰かは、僕」
『え、え? そうだったの?』
「うん、だから
シスは興味津々に僕の目を覗き込んだ。
「ジンホだ」
けれど、その言葉にシスはあまり驚かなかった。
『やっぱり……。あ、今日ね、会社でジンホに会ったの。その時に、なんで二人で一緒に帰ってるんだって聞かれたよ。だからやっぱり……そうだったんだね』
「うん、で、何で僕のこと呼び捨てでタメ口なわけ?」
『そんなことしてないよ』
「ほら」と僕が言うと、シスは自分の言葉に驚いた。
『でも、別に会社じゃないんだから良いでしょ?』
「でも僕が社長」
『多分、私が年上だと思うけど? あなた何歳?』
800歳くらいだ、って言ったらヤバい人だって思われるだろうな。何歳ってことにしておけばいいんだろう。
「23」
僕が言った。
『えっ、23なの? 20くらいかと思ってた。でも! 私24だから!』
「だから?」
『だ、だから!? だから……家ぐらいは気抜いていいでしょ?』
「ん」
けれど、時の流れは早く、今日はシスが家に帰る日。シスと一緒に暮らしていたから家に帰るのが毎日楽しみだったのに、もう家が直ったって。もっと一緒に居たかったのに……。
『今までお世話になりました』
「気を付けて帰って。もう濡れないようにね」
『今日は晴れだよ』
シスが玄関を出たら、もう二度とここには来ないんだろうな。
『じゃあ、さようなら』
シスは、こちらに笑顔を見せた。扉がゆっくりと閉まる。ガチャン……。
シスのいない家は、小鳥のいない巣のように空っぽだった。何かが物足りない、そんな感じ。僕は毎日それを埋め尽くすのに必死だった。
花が大量に飾られている部屋。黒い服を着て、泣いている人たち。チェギョンも黒いスーツを着て、その場に立っていた。
僕の秘書が死んだのだ。
これで何回目だろう、秘書が死んだのは。チェギョンは遺族に挨拶をした後、歩きながら帰っていると、途中信号機が赤になった。チェギョンはその場に立ち竦んだ。また罪もない人を殺してしまった、僕のせいで……。だから僕は人と深くは関われないんだ。
死神にはある欠点がある。それは、「死神の近くに居る人は死ぬ」という事。世の中、よく死に近づくと死神が迎えに来るだの言っているが、真実はその逆。死神の近くにいる人が、何らかの奇跡が重なって死に至るのだ。だから死神は深く人に関われない。だから本当はシスには、近づかないほうがいいんだ。シスを助ける為なら。でも、シスの隣にいたい。そう思っている僕がいる。だからダメなんだって……近くにいたら。
今日は葬式があったから会社に行く気が失せた。僕の背後にまた死人の霊が増えたから、当分人には会えないし……。
自分の家に帰り、すぐさま自分の部屋に入りベットに腰かける。はぁ、とため息がつき、前髪をかき乱す。もう、死者を増やしたくない。そう思っているのに、増え続ける。どうしようもならない。もぅ……いったい僕はどうすればいいんだ。
『チェギョンさん!』
会社の廊下でそう呼ばれ、嫌な感じがした。前から走ってくる女性。
「あ、シス」
『チェギョンさん、もう昼ご飯食べましたか?』
「いや、食べてない」
『ちょうど良かった。一緒に食べません?』
誘われたからには断れない。嫌でもそれが好きな人ならば。
二人は会社のレストランで食事をしながら会話をしていた。
『久しぶりに家に帰ったら寂しくて。一人暮らしが嫌に感じます』
食べながらシスは言った。
「うん」
『暇な時は遊びに行きますね!』
「うん」
『いえ、冗談ですよぉ』
「うん」
『チェギョンさん、聞いてる?』
「うん? ……うん」
『変ですよ? 何かありました?』
「別に」
その後のシスとの食事の内容は何も覚えていない。僕は、どうやったら人と関わらないかを考えていた。考えながら仕事をしていたら、とっくに夜になっていた。
その後の一週間、ずっと仕事に集中していた。仕事をどんどんこなして、何も考えなかったら、絶対人とは関わらないだろう。あれ? 次の書類は何だっけ。仕事ばかりやると頭の中が破裂しそうになる。体もだるくなる。もう、一か月後の書類まで終わらせてしまった。次は……次は……。
椅子から立ち上がろうと足に力を込めて、一歩、二歩……。すると、チェギョンの視界がくらんだ。視界が回ってる?
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