第3話






 ある日の朝。珍しく、小鳥が美しく鳴いていた。いつもなら、汚らしい鳥しか鳴いていないのに、今日は違った。


「君、今日は命拾いしたな」 

 僕が呟くと、その鳥は逃げるように飛び立っていった。いつもなら怒りのあまり、その鳥を殺してしまうが、今日はそうしないでおこう。



 会社へ行くと、いつも通り、人がいすぎて気持ち悪くなる。騒がしい……。不愉快……。ああ、早く仕事終わらせて帰りたい……。すると、見覚えのある顔が近付いて来た。

                       

『社長。今日は、こちらからお出ましですか?』 

 面長おもながで、ごつい顔。副社長だ。この、にやけ顔がじつに気持ち悪い。


「今日は気分がよかったから、皆と同じところから入ろうとしただけ。人が多すぎる……やっぱり裏からにする」


『どうぞ、どうぞ』と、副社長が避けて道をつくってくれている。


イラつくな、あの態度。心の中が見え見えだ。こんな行動だけで、僕がお前を高く評価するとでも思っているのか。絶対そうするものか。


「なぁ、秘書」と、副社長が去った後に僕が言う。


「はい」

 後ろにずっといた女性秘書が言う。


「今日はあの副社長の顔は見たくない」


「分かりました。では、副社長に今日は社長の前に現れないよう言っておきます」


 ああ、と僕は返事をする。社長と言うのは少し楽でいい。社員の時はやってられないくらいだった。だから社長を殺し、社員たちの社長像を僕に変え、僕が社長になった。周りをこき使えるし、みな僕に従う。貴族の時みたいだった。


「今日は御存じの通り、社員面接です」

 秘書が言った。


「知ってる」

 前を向き、無表情のまま、僕は言う。


「そうはおっしゃいますが、この前の面接も、不愉快だからと途中で抜け出したじゃありませんか」    


「あぁ……それは、不愉快だったから」


「はぁ……」


僕は小さなため息に反応し、後ろにいた秘書を見る。「お前、社長にため息をついたか?」


「す、すみません。でも今度は途中で抜け出されても困りますから、お願いしますよ」


「保証はできない」と表情一つ変えず僕が言う。


「あの件から会社の評判が下がり続けています」


「あーそう」


「評判を変えられるのは社長だけですよ? 御存じのはずでは?」


「……お前の顔も今日は見たくない」


「そうおっしゃられても、私は秘書です」


もう、うるさいな、黙ってほしい。本当に人っていうのは嫌いだ。


「不愉快」


チェギョンが後ろを振り返って秘書に言った。




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