第100話 帰還
ドワーフ達を標的とした襲撃をなんとか退けることに成功した。
襲撃した者たちの殆どが逃走し、ニーダ以外の『オルフェンズ』も姿を消していた。
ニーダを含む数人が今回の襲撃の首謀者として逮捕されることとなった。
死んだと思っていたニーダもなんとかポーションを飲ませることで、半死半生と言った様子だが命を取り留めることができた。
嬉しいような嬉しくないような、なんとも複雑な気持ちだ。
護衛役の冒険者たちは皆、気絶をしていただけで命を奪われたものはいなかった。
それでも大きな怪我を負っているものがほとんどだったが、僕の料理ですっかり元気を取り戻すことができた。
襲撃者にも料理を与えようとしたが、皆の反対で止めさせられた。
再び、馬車での移動となったが、襲撃は一回のみでサンゼロの街に到着することが出来た。
もう一度襲撃があったら、と思うと背中に変な汗が出てくる。
ニーダに代わり、リーダーを努めてくれたロドに感謝を告げるために馬車を出ると、目の前にロドが立っていた。
「ロスティ。本当に世話になったな。お前がいなければ、私達は全滅していただろうな。本当にありがとう。お前の相方にも礼を言わせてくれ」
「相方って私のこと?」
ミーチャ……嬉しそうだな。
「君が馬車を守ってくれなければ、この任務は達成することが出来なかった。ありがとう」
「いいのよ。私はやるべきことをやっただけだから。それよりも感謝を言うのは、もう一人いるわよ」
後ろでドワーフ達と一緒にいたルーナはこの成り行きを見守っていたが、ミーチャが手招きをしてようやく馬車から降りてきた。
「当然だ。君もよくドワーフ達を守ってくれた。それにロスティを救った手腕は実に見事だった。君にも感謝を告げよう」
「あの……私の方こそ、馬車を守ってくれてありがとうございました」
なんて、ほのぼのとする場面なんだろうか。
再び、ロドがこちらに向き直した。
「私達はこの任務が終わったので、サンゼロを離れることになる。ところで、頼みがあるんだが……」
料理を所望されてしまった。
けが人を治療するために差し出したサンドイッチが旨かったらしく、持ち帰り用に作って欲しいというのだ。
そんな要望……お安い御用だ。
「それではギルマスのところに向かうとしよう」
ロドはそう言ったものの、サンゼロの地理には疎いため、僕が案内することになった。
馬車がギルド前に到着すると、すぐにギルマスが数人の職員と共に飛び出してきた。
そして、僕を見るや抱きつかんばかりに握手をしてきた。
「よくぞ無事でいてくれた。こちらも色々と大変なことがあって、対応が遅れてしまい、済まなかったな。早馬で事情は大体は理解しているつもりだ。とはいえ、ここで話すのは憚られる。中に入って話そう。ロドと言ったな。君も来てくれ。話を是非聞きたい」
僕達は頷いたが、気になることがあった。
「ニーダと襲撃者はどうなるんです?」
「うむ。今回の騒動を引き起こした本人として、ギルドとして厳正に処罰するつもりだ。一応、ギルド内の出来事として処理するつもりだ」
ギルド内の出来事にするってどういうことだ?
公道で起こされた事件である以上、自警団や軍に引き渡すのが通常のような気もするが。
「うむ。その通りだが……それも含めて中で話そう。だが、その前に……」
ギルマスがドワーフの二人に目を向けた。
「よく来てくれた。ドワーフの民よ。この街で是非とも、お主達の手腕を発揮してもらいたい。よろしく頼む!」
ギルマスが頭を下げた。
この行動には意外な感じがした。
だって、ドワーフって獣人と同じであまり人間からの待遇が良くないと思ったから。
「やるぅ」
「私もぉ」
ドワーフの二人は上機嫌で頷いていた。
「ありがたい。それでは職員と共に工房に向かってくれ。トリボンの街と同じ機材を揃えてある。何か足りないものがあれば、何でも言ってくれ。すぐに用意する」
すごい扱いだな。
「始祖様ぁ」
「またぁ」
そういって、ドワーフの二人はギルドの中に入っていった。
始祖様って何のことなんだ?
……あまり気にしないでおこう。
「我らも行こう」
ミーチャとルーナも同行する形でギルマスの部屋に向かった。
「改めて言わせて貰う。お前たちのおかげで、このサンゼロのギルドは救われた。色々と予想もしていなかった事が起きたのは事実だが、冒険者にとって結果が全てなのは承知のはず。結果さえ良ければ、全てはいいのだ! ハッハッハッ!!」
豪快にギルマスは笑っているが、僕達の中で一緒に笑うものはいなかった。
仲間だと思っていた冒険者の中から、襲撃者が出たのだ。
こんな状況を放置すれば、疑心暗鬼の状況になるのは目に見えている。
「無論。分かっている。まずは話を聞こう……」
今回の特別クエストの結果報告という形で、起こった出来事を全ては話した。
もちろん、ロドの方も詳細に報告をした。
ニーダが最後に口にしていた、商業ギルドという単語にギルマスが最も食いついてきた。
「我らの得ている情報とも合致するな。今回の襲撃には、かなりの確率で商業ギルドが関与していると思っている。それにしても、大きな組織とも言える集団が襲撃をしてきているところは我らとしても脅威に感じているところだ……どうしたものか……」
ギルマスが僕達が目の前にいることを忘れたかのように、考えにふけっていた。
この状況はどうするべきだ?
「ギルマス!!」
ここでミーチャの登場だ。
「まずは報酬よ! こっちは報告をして、護衛対象をサンゼロに連れてきたわ。悩むのは報酬を支払ってからにしてちょうだい!!」
おお!! すごいぞ。
ロドもビックリした表情をしている。
「う、うむ。確かにその通りだ。それにお前たちの前で我らの政治に関わらせるわけにはいかない。配慮が足りなかったようだ。報酬はすでに用意している。2000万トルグだ。帰りにでも、受け取ってくれ。それと、ロスティには特別昇級を許可する」
つまり……A級の仲間入りをしてしまった。
「今回の任務でロスティには十分にA級としての実力があることが認められた。これはサンゼロのギルマスとして特権で認めたものだ。受け取ってくれるか?」
認めてくれる人はここにもいたな。
僕としてはこの話を受けたいと思っているが……ミーチャは強く頷いている。
どうやら許可が降りたようだ。
「ありがとうございます。特別昇級の件、お受けしたいと思います」
「そう畏まるな。お前は大したものだ。これからはギルドのために力を発揮して欲しい」
ギルドのため? その言葉に少し違和感を感じたが……その時はあまり気にすることはなかった。
「良かったな。ロスティ。私のB級をあっさりと超えてしまったな」
「ロドもトリボンに戻れば、A級となる手筈だぞ」
ロドは僕の肩に手を掛けたまま、動きを止めてしまった。
「ロスティ、私を殴ってくれないか? 夢だと思うんだ」
それは勘弁して欲しい。
「おめでとう。ロド」
ロドは少し涙を流して「仲間もきっと喜んでくれると思う」とだけ言った。
本当にいい人だ。
とりあえず、話がまとまったところで、ちょっと気になったことを聞いた。
「ギルマス。そういえば、さっき大変なことがあったって……」
「ああ。実はな、『白狼』がダンジョンから戻ってきたんだ」
なるほど……つまりS級である『白狼』がダンジョンを攻略したってことか?
「いや、そうではない。『白狼』が戻ってすぐに、教会支部を襲撃したのだ」
その言葉に強く反応するものが一人。
ルーナだ。
「ど、どうしてですか!!?」
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