第93話 一人冒険

 散々、酒を飲んだルーナは翌朝には何事もなかったような顔をしていた。


「まさか、私が酒で負けるとは思ってもいなかったわ。しかも、初めて飲んだ相手に……これは認めるしかないわね。ルーナ、あなたを酒の女王と……」


「えっ!? 女王? 私のような者が女王なんて呼ばれて良いのでしょうか? でも、女王よりも姫のほうが好きです」


 そこにこだわるんだ……酒の女王なんてアダ名は絶対に不名誉だと思うんだけど。


 ましてや、成人になりたての少女に付けていいアダ名ではない。


「よく分かっているわね。女王より姫のほうが可能性が感じると言いたいのでしょ? いいでしょう。そこまでの覚悟があるのであれば、酒姫と……」


 なんか、二人ですごく盛り上がっていて、完全に置き去りにされているんですけど……


「二人共。今日が準備が出来る最後の日なんだ。出来る限りのことをしたいんだ」


 今日はダンジョンの外縁で戦闘をすることになっている。


 ルーナが加わってから、一度も戦闘経験がないため、どういう連携が取れるかが分からないからだ。


 それと合わせて、スキルの熟練度をあげるためだ。


 一日では大して上がらないだろうが、どうせ僕の『スキル授与』スキルでは大した熟練度のスキルは渡すことが出来ない。今は☆3が限界だから、良くて☆4がいいところだろう。


 『状態異常回復魔法』、『解呪魔法』、そしてスキル屋で手に入れた『水鉄砲』スキルの熟練度を上げる。


「ねぇ、ロスティ。今日はニ手に分かれて行動しない? ルーナの装備品を揃えたいし、回復薬も買いだめしておいた方がいいわ」


 確かにそうだな。


 昨日はなんだかんだで準備をあまりすることが出来なかったしな。


 ルーナとの連携を考えておきたかったが……仕方がないか。


 まぁ、ダンジョンの外縁程度なら、僕一人の力でも問題はないだろう。


「分かった。じゃあ、お金を預けておくから、それで調達をしてくれ。ルーナの装備品についてはギルドに相談すれば、ある程度……」


「分かっているわ。ロスティは絶対に無理はしないでね。一人だと、何かあった時に対処できないんだから。私達も用事が済んだら、すぐに合流するつもりよ」


 それなら連携も考えられるかも知れないか……


 ……久しぶりの一人だ。


 いつぶりだろうか。


 常にミーチャが側にいてくれたから、それが当たり前と思っていたが……いなくなると、ものすごく孤独感を感じてしまうな。


 とりあえず、成長させやすいものから挑戦してみるか。


 『水鉄砲』スキルだ。


 ミーチャは有望と言っていたが、どうも期待が出来ない気がする。


 スキルを初めて起動してみた。


 ぴゅる……。


 指先からほんの少しの水が飛び出した。


 これは……焚き火の火も消せないぞ。


 どうしよう……。


 いや、とりあえず、使いまくるしかない。


「おお!! 岩に届いたぞ!!」


 『水鉄砲』スキルは結構面白いかも知れない。


 段々と使っていくうちに、水の勢いと量が増えていった。


 さらに狙いが出来るようにもなってきた。


 目標は三メートル先の大岩だ。


 全く届かなかった水もようやく届くようになり、もっと遠くに行けるほどになっていた。


 しかし……娯楽性は高いと思う。


 『水鉄砲』スキル持ちで、ゲームをしたら絶対に面白いと思う。


 けど、冒険者として使えるスキルとは言えない気がするな。


 だって、攻撃力皆無だから。


 まぁ、熟練度もそれなりに上がっていると思うから、こんなもんでいいだろう。


 次は『状態異常回復』スキルの番だ。


「いきなり、困ったぞ」


 このスキルの熟練度を上げるためには、状態異常になる必要がある。


 しかも、☆1の場合は痺れ限定だ。


 痺れ……。


「そういえば、痺れキノコが近くに自生していた気がするな。それを試してみるか」


 野をかき分け、木々が生い茂る場所に出た。


「たしか……この辺に……あった」


 辺り一面に生える痺れキノコ。


 しかし、ここで大きな問題が。


「痺れている間、回復魔法使えないのではないか?」


 キノコを持ちながら、自問する。


「待てよ。キノコを食べても、痺れのタイムラグがあるはずだ。痺れる前に魔法を掛ければ良いんじゃないか?」


 なんとなく、出来る気がしてきた。


 よし……食うぞ。


 実は痺れキノコは料理をすれば、かなり美味しい食材になるが……。


 パクっと食べ、飲み込んだ。


「今だ!!」


 『状態異常回復』スキルを発動し、全身に魔法を掛けた。


「がはっ!」


 痺れる……。


 失敗だ。痺れる前に魔法を使っても意味がなかった。


 動けない……


 こんな時にモンスターが出てきたら……やっぱり出てくるか。


 手も足も動かない。


 しかも、相手はオークだ。


 棍棒で何度も殴られた。


 覚えていろ!! 痺れが切れたら……。


「次は気をつけないとな……」


 オークを倒してから、やり方を考えてみる。


 痺れキノコの痺れは即効性だ。


 食べるとすぐに痺れる。


 しかも痺れが強力だ。


 やっぱり、これしかないか……


 料理による弱毒化。


 熱を少し加えるのがポイントだ。


 加えすぎると毒が消えてしまう。なかなか、火加減が難しいが、今の僕にとっては造作もないことだ。


 これで再挑戦だ。


「おお。痺れるが動けないほどではないな」


 どうやら成功のようだ。


 この状態で『状態異常回復』スキルを発動する。


「凄いな」


 痺れが一瞬でなくなってしまった。熟練度が少しは上がっただろうか。


 とにかく、ひたすらこれを続けた。


「もう食べられない……」


 しばらくキノコは見たくないな。


 さてと……最後の問題は『解呪』スキルだ。


 これをなんとかしたいが……どうすればいいんだ?


 確か、ステータスに影響を与える呪文を解除するんだったな。


 そんな呪文を使うモンスターはこのダンジョンにはいないぞ。


 いや、もしかしたら出会っていないだけで、ダンジョンにいるかも知れない。


 無謀にも単身でダンジョンに挑むことにした。


 目標は『解呪』スキルを使うこと。


 モンスターと遭遇しても、先制攻撃は絶対に行わない。


 常に相手の出方を見てから攻撃する。


 もしかしたら、呪いを放ってくれるかも知れないからだ。


 しかし、大量のモンスターを倒したが、結局、目的のモンスターは見つからなかった。 


「そろそろ体力の限界かも知れないな……一旦、戻ることにするか」


 一階層まで戻ると、少し息が上がってしまった。


 かなり疲れているな。


 ポーションを飲んでおくか……。


 すると、頭上から大量に降りかかるようにコウモリが襲来した。


 スモールバットだ。


「こ、これは……」


 スモールバットは掠るように飛んでは行ってしまう。


 その時、どういうわけか、体力を奪われてしまう。


 傷もなく、ただ体力が奪われていく……。


 ダメージは大したことはないのだが……もしや!!


 『解呪』スキル、発動!!


「やったぞ!! ついに発動したぞ!! ふっはっはっはっ!!」


 つい喜びのあまり、笑ってしまった。


 それを偶々、ダンジョン攻略をしていた冒険者に見つかり、変な噂が流れた。


 スモールバッドに襲われながら、悦んでいる変態がいると……。


 ちなみにスモールバッドの攻撃はドレインという魔法のようだ。相手の体力を奪う魔法で、どういう訳か知らないが『解呪』スキル発動の対象になったようだ。


 さらに……『解呪』スキルが発動すると、ドレインで奪われた体力が回復する。つまり、スモールバッドに襲われ続ける限り、『解呪』スキルが発動できるということだ。

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