第74話 目的

 結構な時間がかかってしまったが、『料理』スキルのおかげでレシピを獲得することが出来た。


 武器も新調した。


 食材も十分に得ることが出来た。


 これでダンジョン攻略の準備は大体終わったことになる。


「ミーチャ。そろそろ、ダンジョン攻略をしようか」


「ついに来たわね!! でも、回復魔法師の事はいいの?」


 教会が来てから、数週間という時間が流れた。


 それでもギルマスと教会支部のいざこざはまだ沈静化する気配を見せない。


 やはりダンジョンでの冒険者失踪が尾を引いているようだ。


「回復魔法師は今は諦めよう。その代わりに、多めに回復アイテムを持っていこう。普通の冒険者はそれでなんとかやっているんだし」


「折角なら、回復魔法師っていうのをパーティーに入れて、実戦を経験してみたかったけど、残念ね。回復アイテムなら、ギルドで手に入るわ」


 とりあえず、ギルドに向かおう。


 ダンジョン攻略はボードに載っているようなクエストではない。


 そのため、報奨などは一切ない。


 しかし、ダンジョンから得られたドロップ品などは全て冒険者に帰属する。


 そのドロップ品を換金するだけでも、かなりの金額になる。


 人によっては一回の探索で一億トルグほど稼ぐ強者がいるらしい。


 話は戻すけど、クエストではないからと言って、ギルドを通さずにダンジョン攻略は出来ない。


「あら。ロスティさん。今日は残念ながら、ドブ攫いはありませんよ」


 ちょっと残念だ……いや、そうではないな。


「いや、あの……ダンジョン攻略をしようと思うので、登録をお願いします」


 受付のお姉さんはいつも笑顔だが、この時はあまりいい顔はしなかった。


「そう、ですか……ロスティさんも行かれるのですね。ここのところ、冒険者の帰還がかなり減っていまして……その原因がまだ分かっていないんです。忠告というほどでもないのですが、『白狼』が報告に戻ってからダンジョン攻略をするというのは、どうでしょうか?」


 そんなに深刻な問題になっていたのか……


 話を聞くと、どうやらガルーダ隊も戻ってきていないらしい。


 結構、ヤバくないか?


「ちなみに、どの程度攻略されているんですか?」


 攻略情報は冒険者によって公開されている。


 個人の栄達よりも冒険者の身体の安全が優先された結果なのだろう。


 ……地図を見てみたが、なぐり書きのような絵ですぐに理解が出来ない。


 ちなみにここのダンジョンはエリアタイプ。


 つまり、平面に広がるダンジョンということだ。


 その中心地に向かって、強いモンスターが蔓延り、また得られるドロップ品が貴重になっていく。


 地図ではその中心地の特定はされているようだ。


 かつて鉱山として使われていた山。


「その山の中にもダンジョンが広がっているということが分かっています。現在、地下20層までは発見されているという状況です。いわゆる複合型ダンジョンということになっています」


 立体的に展開しているダンジョンが地下タイプと呼ばれる。


 エリアタイプに地下タイプのダンジョンがあるのは、あまり珍しいことではないらしい。


 ただ、複合型はとにかく攻略の難易度が高い。


 しかも、ここは失踪事件が多発するほどだ。


 難易度は想像を絶するものとなるだろう。


 受付のお姉さんの言うことも尤もなだけに、悩んでしまうな……


 すると、後ろからぶつかるように割り込んできたのは、赤髪の冒険者だった。


「おっと、ごめんよ。話が終わったものとばかり思ってな」


 たしか……A級冒険者の『オルフェンズ』の……ニーダと言ったな。


 相変わらず、派手派手しい格好だ。


 悩んでいただけだから、その場を離れようとすると、呼び止められた。


「お前は……たしか、B級冒険者だろ? なんでダンジョン攻略を怯んでいるんだ?」


 この人は何も知らないのか?


「お前はバカか? どんな事情があるにしろ、ライバルが減っていることを喜ばないとは。攻略をするために冒険者になったんだろ?」


 喜ぶ?


 この人は何を言っているんだ?


 冒険者たちがいなくなっているんだぞ。


「なんだ、その顔は? もしかして、他の冒険者に下らない仲間意識でも持っているのか? だとしたら、甘ちゃんだな。悪いことは言わねぇから、とっとと辞めちまえ?」


「ふざけんじゃないわよ!! さっきから聞いていれば、偉そうに!! 冒険者たちが失踪しているのよ? ずっと一緒にやってきた冒険者だっているんじゃないの?」


 ニーダはミーチャをぎらりと睨みつける。


「揃いも揃って下らねぇ。冒険者にとってダンジョン攻略は全てだろ? まぁ、お前らみたいにまごついている間に、俺達が攻略してやるからよ。俺たちのあとでも追いかけて、残りカスでも拾って歩くんだな」


 そういうと颯爽といなくなった。


 ミーチャは相当腹が立ったみたいで、地団駄を踏んでいた。


「ロスティ。私達も攻略に行くわよ。あんなやつらにバカにされて、耐えられないわ」


「僕もだよ。冒険者は助け合っていくものだと思う。そんなことも分からない奴らにダンジョンを攻略させるわけにはいかない。でも、失踪したみんなを助けに行くんだ。それだ第一の目標だよ。いいね?」


「もちろんよ」


 闘志に燃える二人だった。


「あの……本当に行かれるのですか?」


 受付のお姉さんは最後まで心配してくれたけど、僕達の心は決まった。


 ダンジョン攻略の登録を済ませた。


 ギルドには回復用のポーションや解毒薬などの状態異常の回復薬も置いてある。


 ただ、種類はかなり少ない。


 体力を回復させる薬という物だけでも、発見されているので数十種類はある。


 単純に回復量が違うものから、効能が複数になるものまで……


 しかし、ギルドには体力を回復するポーションが一種類だけ。


 毒に対しても解毒薬だけ。


 世の中には全ての状態異常が治るという幻の薬があると言う。


 また、状態異常を一定時間受け付けない薬というものもあるらしい。


 そんな薬があれば、ダンジョン攻略もかなり捗ることだろうな。


 『無限収納』のおかげで、薬を大量に買うことが出来た。


 もしかしたら、失踪した仲間たちを見つけることが出来るかも知れない。


 その時は必ず薬が役に立つはずだ。


 受付のお姉さんは最後まで心配そうな顔を変えなかった。


「それでは行ってきます」


「気をつけて行ってきてくださいね。危険を感じたら、すぐに撤退ですよ」


 本当に心配をしてくれるんだな。


「ありがとうございます」


 準備は全て整った。


 僕達はダンジョンの外縁に向かった。

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