第68話 置土産

 ローズさんを連れ立って、新しく出来たスキル屋に出向くことにした。


「やっぱり来たか!! おまえさんの顔がちらっと見えたから、もしかしてって思ったんだが。案の定だったな。教会内では、お前が『買い物』スキルを☆6で手放したって、話題になっていたんだぞ」


 どういうことだ?


「それでな、俺のところに照会が来たんだよ。『買い物』スキルを売ったのは俺の販売店だったからな。間違って☆6を売ったんじゃないのかって。『ふざけんじゃねぇ!!』って言ったら、ここに左遷させられちまったんだよ」


 つまりは、教会を通じてスキルを交換すれば、全て筒抜けになってしまうってことか?


 それに教会はすでに僕に何らかの疑いを持ち始めている?


「それって、結構マズイことなんですか?」


「別に大したことはねぇ。どうせ、数年もいれば元の場所だ」


「いや、左遷の話ではなくて……☆6のスキルを売ったことです」


「あ? ああ。そうだな。問題はそこじゃねぇな。教会を通じて、適正の額が寄付されていれば、誰も文句は言わねぇ。ただな、短期間で☆1が☆6になったことに疑惑があったってことだ。まぁ、そんな事は考えられねぇから、おめえさんが元々『買い物』スキルを持っていたってことで話はまとまったな」


 そんな嘘はすぐにバレそうな気もするけど。


 だって、スキル屋なら『買い物』スキルを買う時に僕のスキルの状況なんて分かっているはずでは?


「なるほどな。それは間違っているぞ。スキルを見るためには、そのためのスキルが必要になるってことだ。俺にはそんな大層なスキルはねぇからな。それは教会も一緒だ。」


 ほう。


「もっと言えば、教会は☆3以上の交換って感じだな。スキル屋は基本的に☆1と☆2しか扱っていねぇからな」


 教会とスキル屋でスキルの交換をするのに、そんな違いがあったのか。


 たしかに思い出してみれば、スキル屋でスキルの一覧を覗いていた時も☆1しか見かけなかった気がする。


 もっとも、それでも法外な値段で熟練度に目が行くことは殆どなかったけど。


「ちょっと、二人で話してばっかりいないで私も話に加えておくれ」


 ローズさんの存在をすっかり忘れていた。


「もしかして……あんた、ローズさんか?」


 おや? ヤピンはどうやらローズさんとは面識があるようだ。


「そういうあんたは……誰だっけ?」


「へへへっ。無理もないですね。俺が配属されたときの教育係がローズさんってだけだったんですから。もう二十年以上前の話ですから」


 ……なんだろう。この空気感は。


 片方が知っていて、もう片方が知らないってだけで空気ってこんなに重くなるものなのか?


 誰かが、この雰囲気を壊して欲しい。


「ああ!! 思い出したよ。あれだろ? あれ?」


 おお!! ローズさんが思い出してくれたが……本当かどうか、かなり怪しい。


 ヤピンが首を傾げたり、苦笑いが多かったから多分、ローズさんは適当なことを言っている。


 それくらい、分かる……。


「さすがはローズさんだ。俺は嬉しいですよ。こうやって一端のスキル屋をやれるのはローズさんのおかげなんですから」


 あれ? 話が通じていたんだ……ああ、そうですか。


「それで神官長は元気かい?」


 出たよ。


 毎回、話に上がる神官長。


「それが今回、この街に赴任してきた神官長様で……」


「なんだって!! ロスティ、はやくしな!! さあ、ヤピン。私のスキルをこの坊やに」


 ヤピンは何がなんだか分からない様子だったが、説明をすると理解はしたが怪訝な顔を崩さなかった。


「よろしいんで? ローズさんが五十年もかけて育てたスキルじゃないですか。手放しちまっても」


 やっぱり、ヤピンもそう思うよね。


 本人はゴミスキルだと言って、あまり執着はしている様子はないけど、スキルは本当に重要なものだ。


 スキル無し……いわゆる無能者はこの世界で生きることは出来ない。


 金を稼ぐ手段もないし、慈悲を与えてくれる人もいない。


 神に愛されない子供……


 そう思われているんだ。


 それはスキルを売った人間に対しても同じような境遇が与えられる。


 スキル売買は自由だ。


 それは原則だが、やはり神から授かったスキルを手放すということにいい顔をする世界ではない。


「構わないよ。坊やが、これからの人生を生きていけるだけの金で買ってくれるっていうんだから。今までだって、誰にも頼らずに生きてきたんだ……これからも誰にも頼らずに……」


 それは違う気がする。


 一人で生きられる人なんていない。


「ローズさん!! 僕はこれからもドブ攫いをします。だから、誰にも頼らないなんて言わないで下さい。僕を頼って下さい!!」


「ロッシュ坊や……ふっ、そうだね。ドブ攫いはさすがに私の手には余るね。だったら、お願いしようじゃないか。でも、報酬は安いよ?」


 ぐっ……報酬が下がるのか……それは少し悩むな。


 こういうときは、ミーチャさん!!


「どうして、私に振るのよ。ロスティの好きにしたら良いんじゃない? でも、ローズさんは今の家に住み続けるわけではないのよね? ドブ攫いの話なんて、もうないんじゃないかしら?」


「ふっ。ロスティ坊やはいい奥さんを持ったじゃないか。そうさ。私が坊やに頼むことなんて二度とないだろうね。だけどさ、繋がりは欲しかったんだよ。坊やみたいな、いい子とはね……」


 なるほど、そういうことだったか。


 だったら、報酬の話はしなくても良かったのでは?


 それがなければ、僕だって気付けたはずだ。


「おい。それで? ローズさんは本当に良いんですね?」


「もちろんよ」


「わかりました……一応言っておきますが、スキル屋は原則☆2までです。それ以上は教会で頼んで下さい。熟練度が下がったなんて文句を言われたら敵いませんから」


「誰に言っているんだい? 私も50年、教会で働いたんだ。それくらい分かる」


 ☆2か……それでも僕にとっては十分だ。


 スキルごとに熟練度をあげる方法が異なる。


 それをしっかりと見定めれば、かなりの早さで熟練度を高めることが出来るはずだ。


 僕の『錬成師』スキルで。


「ちなみに文句を言わないって約束すれば、☆3以上でも交換してくれます?」


「おいおいおい。そんなバカな話があるか? 熟練度の差はかなり大きいのは知っているだろ? それに☆3ともなれば、一代で出来るかどうかって話だ」


 そうだったのか。


 どうやら☆1から☆3までが一世代で出来る限界と言われるものらしい。


 さらに☆3から☆4で一世代。


 ☆4から☆5で二世代。


 ☆5から☆6は分からない。途方もない時間が必要だってことだ。


 そういわれると、改めて『錬成師』スキルが常軌を逸しているのがよく分かる。


 この事はやはり信頼できるもの以外に知られる危険だな。


「まぁ、文句を言わねぇっていうなら、やってやるけどな。でも、そんな奴いるのか? 売り値だって☆1違うだけで、十倍は軽く変わってくるからな」


 なるほど。


 それならば文句が出来ても仕方ないが……


「じゃあ、よろしくお願いします。一応、文句はいいませんから」


「へへっ。あいよ。ローズさんのスキルは☆3で間違いないんだな? まぁ、文句を言わねぇって言うなら聞く必要もねぇがな。どれ、やっちまうか」


 ヤピンはどうやら二つのスキルがあるようだ。


 『スキル授与』と『スキル受領』だ。


 『スキル授受』と同じ働きをすることが出来る。


 ただ、経験値ともいうべきか、熟練度の伸びの悪いようだ。


「スキル交換料金は☆3って言いたいとこだが、スキル屋は☆2までだ。だから500万トルグでいいぜ。神殿なら☆3で1000万トルグだからな。☆2になっても文句言うなよ」


 ローズさんの『スキル授与』スキルは簡単に手に入れることが出来た。


「これでお別れだね。私は神官長を一発ぶん殴ってから、すっきりとした気分で旅に出ることにするよ」


 どうしてもぶん殴りたいのね……


 ならば願おう……どうか、ローズさんが捕まりませんように……


 ローズさんは意気揚々と教会に向かって歩いていった。


 ちなみにスキル代はなんだかんだローズさんに吹っかけれれて、三千万から五千万に釣り上げられていた。


 ボケた振りをした、本当に素晴らしい役者だったよ。


 さらば、ローズさん。


所持金 3億6500万トルグ


所持スキル 

『戦士』☆1 ⇒ ☆?

『スキル授与』☆3

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