第9話 交換所③

 何だ、これ?

 見たこともない紙幣を渡されて、あわてて、窓口の男に詰め寄る。

「すみません、何ですかこれ?」

「何ですかって、お金だよ。五百円札だよ」

 五百円札だなんて、そんな馬鹿な。 

 男の視線は冷ややかだった。

「少ないなんて、文句を言っても駄目だよ、それは五百円だ。はい、次の人」

「あんた、とっとと、退いてくれないか。」


 後ろから押されて、有無うむを言わさず列から弾き出された。愕然がくぜんとしていると、ポンポンと肩を叩かれた。さっきのおじさんだった。

「まあ、こればかりは、どうしようもないよ。でも、それだけあればバスには乗れるよ」

 おじさんは慰めるように言って、バス停まで戻ろうとうながした。


 いや、そういうことではない。

 小さな違和感が、頭の隅をちくちくと突つき出した。思い返せば、今までのことはどこか不自然だ。始めから何かがおかしかった。


「急がないと乗り遅れるよ」

 おじさんが言った。

 ともあれ、ここに居てもどうにもならない。釈然しゃくぜんとしないまま、交換所を後にした。

 まずは、この村を出ることだ。

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