第103話 もうあんなことしちゃ、駄目だよ?

「ん……」


 重い瞼をようやく開けるとそこには良く知っている天蓋と天井がいつものようにあります。

 まずは安心ですわね。

 さて、何があったのか、一向に追いついてこない頭を必死に働かせなければ、いけませんわ。


 駄目ですわね……。

 とりあえず、分かるのは一点だけ。

 今いる場所がアルフィンの自室のベッドであることは間違いないのです。


「レオ?」


 不安げに揺れる赤い瞳に見つめられていました。

 体温が感じられる距離でずっとついてくれてましたのね?


「ごめんなさい」

「いいんだ。リーナが無事なら」


 そう言って、抱き締めてくれるレオの腕はいつもより、力強くて。

 まるで私が消えていないのかと確かめているみたい。


「大丈夫……ですわ。ちょっと失敗しただけですもの」


 レオの背に腕を回して、負けないくらいに強く、抱き締めました。

 彼がもう不安を感じないように……。


「もうあんなことしちゃ、駄目だよ?」


 雨に打たれて、元気がなくなった仔犬のような弱々しい瞳で見つめられるとただ頷くしか、ありませんわ。

 それでようやく頭がまともに回転してきて、思い出せました。

 暴走するク・ホリンから、元凶となっているベリアルの魔力の澱をフリアエで取り除いたところまでは問題がなかったのです。

 魔動騎士アルケインナイトには不死族ノスフェラトゥの再生能力に似た自己修復機能が備わっているので、ある程度の損傷はものともしません。

 つまり、大破に限りなく近いものの中破の状態にあるク・ホリンですが時間をかければ、元通りに戻るのです。

 全身に火傷のような損傷を負ったヤマトもじきに直るでしょう。

 しかし、それは騎士ナイト同調シンクロする受容者レシピエントの存在を無視して、考えられた設計上の仕様。

 机上の空論だったのです。

 実際には騎士ナイトがダメージを受ければ、同調シンクロしている受容者レシピエントに痛みがフィードバックされています。

 ヤマトのあの状態から見て、ターニャにかかっている負荷は相当なものでしょう。


 だから、フリアエを介した広範囲の神聖治癒ディバインヒールを使ったのですけど……思っていた以上に魔力が流れてしまい、意識を失ったというのが真相でしたわね。


「あっ……レオ」

「何も言わないでいいから、暫くこのまま。いいよね?」


 それから暫くの間、互いに抱き締め合いながら、ただ横になっているだけという静かな時間を過ごしました。

 ただ、抱き締め合っているだけなのに何だか、心地良く、微睡みながら意識を静かに手放すのでした。


 🦁 🦁 🦁


 それから、二人でどれくらい眠っていたのでしょう。

 分かることは目を覚ますと目の前にレオがいて、寝顔がかわいいの……ん?

 ええ?

 いつ着替えたのかしら?

 ちゃんとドレスを着ていた記憶があるのですけど、下着とその上に薄絹を羽織っているだけに……おかしいですわね。

 レオかしら?

 そのままで寝かせてはいけないと思って、善意でしてくれたのだわ。


 でも、いくら頭の中で理性的かつ合理的に考えようとしても恥ずかしいものははずかしいですわ。

 あれだけ、愛を交わし合う行為をしていますし、散々見られているのですけど……それはそれ、これはこれですわ。

 乙女の恥じらいというものなのです!


「おはよう、リーナ」


 現実逃避している間に目を覚ましたのね?

 ジッと見つめるルビーのようにきれいな淀みない瞳に宿る光はメラメラと燃える炎のようで……。

 あっ、これはもしかして、もしかするのかしら?


「良かった、元気になったみたいで」


 そう言って、彼は微笑むと下唇を舌なめずりしながら、私の下着を手慣れた様子で脱がしていきます。

 茫然としていたら、あまりに手慣れていて、あっという間だったのです。

 どうせ脱がせるのなら、夜着を着せなければよかったのではと考えていたら、やや焦るかのように乱暴に唇を奪われて、何も考えられなくなりました。

 そのまま、息が止まるくらい長いキスを交わして……。


 そこまでは良かったのですわ。

 『リーナの身体が心配だから』とまさか、舌だけで何度も……コホン。

 その時点で『もう体力は残り少ないですわ!』と訴える余力も気力もなくなりましたの。

 ええ、それは嘘でしょうって?

 なぜ、分かりましたの?

 自分から求めるように『レオを感じたいの』と口走ったのがなぜ、バレたのかしら?


 何度、達したのか、分からないくらい激しくイかされて。

 溢れるくらいに大量に熱いモノを注がれて。

 それで終わりと思いますでしょう。

 違いますのよ?

 身体中がべたべたしていますし、腰をちょっと上げるとレオに注がれたモノが溢れてきそうです。

 レオのでいっぱいになったので仕方なく、達する直前に抜いて、浴びせるようにかけるものですから、べたべたになったのが真相なのですけど。

 髪にも顔にもべったりと白濁でパックしたようになっていますし、レオは胸が好きなので胸はもっとアレな有様になっています。


 ですから、お風呂に行くのは当然の流れですわね。

 想定外だったのは着いた途端に『きれいにしないといけないよね』って、レオの腕の中に収められたことですわ。

 一晩中、弄ばれ、敏感になっていたところを執拗に責められて『ひゃぅ。それ、ダメだからぁ』なんて、私の悲鳴を肴にまた、美味しくいただかれました。

 おかしいですわ。

 休もうとして、かえって疲れているんですもの。


 夕食の宴でもぐったりしていて、皆に心配されたのは言うまでもありません。

 でも、その原因はフリアエとの同調シンクロに慣れないせいではなく、レオに愛されすぎているせいなのですけど。

 恥ずかしくて、言えませんわね。

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