第3話 高いから美味いのか、美味いから高いのか  の


ご飯てさ、楽しく食べるものだと俺は思うんだ。


一日の疲れを癒し、自分を含めたすべてに感謝し、恵を味わう。


これが食事だと俺は思っている。



だからさ、もっと楽しく食べようよ。少なくとも俺は楽しく食べたいよ。


そう思い俺は恐る恐る声を挙げる。ぜったいに俺は悪くないけど、俺に八つ当たりされたら敵わないからね。



「ツー姉上、ワーン兄上。どうか、おぉ、どうか無益な争いはおやめ下さい。」


「「・・・・・。」」


「食事中です。そのような互いを侮辱しあうような言葉で食卓を汚さないでください。恵に感謝して、舌鼓を打ちながら食事を楽しみましょうよ。」



しかも今日は俺の好きな迷路魚のソテーだ。マジうめぇ。金持ち最高だわ。平民の家一軒建つような飯食えるんだもん。


王族様様だわ。ビバ特権階級。ビバ生れながらの勝ち組。父よ母よ、俺を産んでくれてありがとう。


まあこういうのを好むから姉上に嫌われるんだが。



現に今も睨まれている。俺そこまで非常識なこと言ってない筈なんだけど、姉上は不機嫌を隠しもせずに俺に吐き捨てる。



「ふん。スリーよ、お前のような奴に汚されるなどいう言葉を使われたくないな。お前のせいで王都に巣食う悪が民を傷つけている。兄上も王族云々という下らない言葉を使うならコイツに向けるべきじゃないか?」


酷い。ご飯を食べようぜって言っただけなのに。毒舌すぎる。


当然華麗に無罪を主張する俺。


「ツー姉上、それは誤解ですよ。」


「ふん、悪党はいつもそういう。」


何もしてない人もそういうけどな。けど良識人たる俺は、姉上の言葉に一々噛みつかない。代わりに無罪を華麗に主張。


「確かに、私の子飼いが何かをしているかもしれません。私だって人の子です。私に気付かないようにしているかもしれません。しかし、悪さしているなら姉上騎士団が成敗しているでしょう。」



「お前が身分を使って騎士団に圧力をかけているからだろう!」



バレテーラ。でも証拠ないよね?ならうん、無罪だ。


「姉上は圧力に屈するのですか?」


「そんな卑劣な行為に屈するわけないだろう!!!」


机を激しく叩き、激高する姉上。それこそが俺が求めていた返事だ。


「ええ、その通り。姉上は賄賂だってびた一文受け取らない。なのに姉上が何も証拠を掴んでいらっしゃらない。犯罪の証拠が無いという事は私の子飼いは無実という事でしょうよ。つまり俺は無実で無罪です。」


はい論破。


「チッ。口だけは達者だな。」



酷い。もうちょっと弟に対して思いやりとか見せてくれてもいいのよ?無償の愛とか頂戴よ。家族は無条件で家族を愛するものなのにね。



俺、つまりスリー第三王子と姉上のツー第二王子との仲が悪いのコレが理由。子飼いがね、うちは悪属性が多いんだ。姉上は騎士団だから善属性が多い。つまりは相性がわるい。



姉上の部下は真っ先に忠誠を捧げるけど俺の子飼いは真っ先に賄賂を渡してくるんだ。性根が腐ってるよな。


・・・・・いや、俺だって姉上みたいに正義している奴を子飼いにしたかったよ?



でも俺に寄ってくる奴はマフィアとかギャングとか影とか商人とか腹の中が真っ黒ケッケな奴ばっかなんだ。あいつらマジで性格悪いしね。



だから俺に非は一切ないわけ。



俺は何故かそういう奴にばっか気に入られる。「その死んだ目と狂った性格、そして腐敗でこそ力を発するような生き様に惚れた。」とか野郎に言われても何も嬉しくねぇ。いや美人さんでもこんなプロポーズ嫌だわ。



物語の中なら美人が何しても「素敵!!」てなるけど、現実世界じゃ優しいお嫁さんがいい。


そう言ったら妹に「優しい嫁さんはキチがいの婿よりも優しいお婿さんを選ぶでしょうよ。」て言われた。何かの隠語ですかね?


あ、妹っていうのはフォー第四王子のことね。俺と同腹の妹、つまり母が同じなんだよね。


そして母の実家が豪商だからか、俺にはそういう関係の繋がりも多い。あと脅、コホン、話し合いの末仲良くなった貴族とかもいる。騎士団にも一応いる。



ほら、姉上敵作る性格じゃん?忖度とかしないし。だから姉上のことが嫌いな奴は俺にすり寄ってくるんだ。相手が勝手に来るんだよ。だからホラ、俺は悪くない。



しかもこれは法律違反じゃないし、そんな悪いことはしていない筈。…していないよね?


だから悪いのは俺じゃないよね、うん。


そんなことより飯だ飯。


若干自分の行いに疑問を持ってしまったが、それよりも今は飯を食いたい。



「父上も、軽率な発言でこうなったんですよ?自重してくださいよ。」



周りの誰もが注意しないので俺が一応父上に進言する。そもそもお前が変な事言わなきゃ迷路魚食ってお終いだったんだよ。迷惑かけんなって話。


政治の話は別の場所でやってくれ。


周りの使用人さんも怯えてるからね?この人達の体調悪いと飯の出来に直結するから細心の注意が必要だ。俺の美味い飯のために、平和な食卓を作ろうよ。


俺の誠意に満ちた訴えが効いたのか、父王は了承の意を込め首を縦に振る。



「うむ。済まぬな。だがスリーよ。我もお前の悪い噂は聞いている。自粛しろ。」




謝意の後の俺への批判。

・・・・さては反省してないね?


でも権力に弱い俺はそんなこと言わず素直に首を垂れるんだ。



「ええ、勿論です父上。善処いたしますよ。」



「ああ、月に100もの陳情を受け取る身にもなってくれ。」




初耳なんですけど!?


俺そこまで邪悪に見えるのかよ。地味にショック。こう見えても市民に愛されるキャラだと思っていた。



「・・・俺のいい噂は無いんですか?あとほら、感謝の手紙とか。」




「ある。しかもかなりの数がな。」




「そちらは見て頂けたので?」




「娼館、商人、不動産、影、マフィア、借金取り、暗殺ギルド、牢中の犯罪者からの感謝状を信じろと?」




信じないですねハイ。いや始め三つは信じていいんじゃね?全員合法存在だろ。残りも精査すればいいんじゃないの?職業差別は駄目よ?おてんとうさまの下に人類は皆平等よ?神様もそういっているじゃないの。



ちょっと姉上もそんな塵を見る目で見ないでよ。姉上が嫌いな職種は確かに多いけど影とか王国に仕える暗部よ。騎士団と犬猿の仲だけど信じていいのでは?



「差別よくない、駄目、絶対。」


「なら噂の真偽を調査しようか?」


「イヤー。キョウハイイテンキダネー。」


「ここ室内だぞ。」


うっさい。

まあ証拠は全部消したし、関係者もきれいさっぱり土の中でお休みしてるから調査されたところでなんだが。したければお好きにどうぞ、て感じ。



「あ、それに感謝は感謝では?」



「いいこと思いついたみたいな後付けやめろ。」



「悪い噂や告発の出所が素行の良いものからばかりだ。聖騎士からも来てるぞ。」



「屑め。」


三人ともが俺を潰しに来る。兄上ですらもだ。

ひでえや。俺には味方がいないのか。そんなに俺は悪い奴に見えるのか。




それにしても今日の食事が俺と兄上姉上だけだったというの良かったな。もし妹と弟がいたらもっと面倒臭いことになるとこだった。



アイツら俺への敬意ゼロなんだよねー。

逆に嫌悪感を隠そうとしないんだ。



思春期ってそういうものなのかな。



え?俺が悪い??


そんなわけないじゃない。だって俺は弟妹を愛しているもん。家族を愛している人間に悪い奴なんていないよ。



これ全世界の常識だよ。



家族を愛する人間は何しても許されるんだ。



愛はそれだけで尊いものだからね。

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