遺品の国
遺品の国
著・翠月馨
https://kakuyomu.jp/works/1177354054917919206
帰りたい一心で、役目を終えた物たちが最期に行き着く遺品の世界を散策しながら、大切にしてくれた少女が他界したため自分が捨てられた事実を知る、ぬいぐるみネコの物語。
物さびしいお話だった。
海外児童ファンタジー小説を翻訳したような、脚本のト書きのような、淡々とした説明っぽい文章。文末が三回以上連続で同じ語尾でおわるときは、少し変えると印象が変わるので気にしてほしい。ただ、役目を終えた物たちの遺品の国という不思議な世界のお話なので、あえてメリハリを付けない必要があったのかしらん。
文章の基本ルールや句読点で区切ったほうがいいところがあるので音読して推敲と添削を……ということは後回しにしたい。
「羽が生えた電球。其処らじゅうにあるゴミ袋。喋る古びたヨ-ロッパ調の外灯」という書き出しは、読者にこれから始まるお話は変わったところですよ、と知らせている。
ゴミ収集車が遺品の国の門をくぐり、大量のゴミが放り出しては去って行き、ゴミ袋からでてきたのは、継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみのネコ。
錆色の四角い鞄を肩にかけて大事そうに抱えていると、外灯に明かりが灯っていき「なにかお探しかい?」と声をかけられる。おどろいてネコは逃げていった。
なにかを探していく物語なんだとわかる。わかるのだけど、外灯は毎回、遺品の国にやってきた捨てられた物たちに「なにかお探しかい?」と声をかけているのだろうか。
それはなぜだろう。
わたしたち人は、生まれたときからなにかを探し求めて生きている。自身の知識欲や好奇心に触発され、やがてやりたいことを見つけて生きていく。
人生が終わった先の新たな世界でも、わたしたちはなにかを探し続けていくのかもしれない。だとすると、外灯が声をかけた「なにかをお探しかい?」という言葉は希望であり、ありふれた特別な命題ではないだろうか。
目がボタンでできた左右非対称の耳をしたぬいぐるみのウサギに声をかけられる。
「きっとこの子がしゃべられるのは体に内蔵スピーカーがあるからだろうとネコは思った」とあるが、「しゃべれる」だろう。
ネコは困り果て、「言葉がしゃべられないから相手にどこに行きたいのか伝えられないからだ」とあるところも、「しゃべれないから」だ。
クレヨンを拾っては握り、「家に帰りたい」と字で書く。
クレヨンを握って字が書けるので、擬人化された動物なのだろう。そう読み進めると、「ネコは遠い昔友達の女の子とこの本を読んでいたことを思い出した」とある。
この女の子とは「ネコ」の女の子なのか、「人」の女の子なのだろうか。ハリネズミに背中を裁縫してもらいながら、メアリーという少女に可愛がられていたころのことを思い出す。
近くの広場に停留した、百年に一度しか遺品の国にはやってこない空とぶ鯨の船にネコたちは乗船する。
百年に一度しか来ないことを知っているウサギは、少なくとも百年前に鯨の船を見ていることになる。それだけ長く、遺品の国にいるということだろう。
船内の図書館で絵本を見つける。
「凄いな……。それ天の国と地の国でしか出版されていない本だよ。どんなお話なんだろう」とウサギは表紙を見て言っている。
ネコのが書いた文字は読めるから、表紙の文字は読めるのだろう。
なぜ天と地でしか出版されていないと知っているのか。天と地の国に行ったことがあるのだろうか。
ネコは本の内容を知っており、友達が好きだった本だと筆談している。
ウサギは自分は、「とある老夫婦の体調管理ロボット」だったネコにと打ち明ける。
「正式名称は第三世代自己成長型AIロボット兎モデル。自己成長型AIという性質上新しい知識や体験、感情を学ぶようになっているんだ。この国に来てもその感覚が抜けなくてね。やっぱり学ぶことが好きなんだ。本が好きなのは老夫婦が大の本好きで僕もその影響を受けたからかな」
ウサギがものしりな理由がわかる。そして、ウサギもネコ同様、物としての楽しかった思い出をもっていた。
ネコの背中がほつれていたので、ハリネズミの修理屋へ行くことになる。修繕されながらネコは、メアリーという少女に大切にされていたことを思い出す。
子ギツネじるしのポップコーンの店でネコは、友達のメアリーがポップコーンが好きだったことを思い出す。再会したとき友達にポップコーンを上げたら喜ぶかもしれないと思い、作ってもらう。無料なのだろう。
ポップコーン屋の店先にはられていたポスターに、忘れ物を探してくれるカラスの存在を知り、そこへ向かうことになる。
道中ウサギは、ネコが友達とどうやって知り合ったのかたずねる。
クリスマスプレゼントだったとネコは筆談し、メアリーと出会ったといのことを回想する。
忘れ物屋につき、ネコは捜し物を映し出す鏡の前に立つ。
心臓が弱かったメアリーの葬儀が映し出され、すでに他界していた事実に、手からポップコーンが落ちていく。
人が天の国に旅立つとき、物たちは遺品の国にやってくる。
物たちにとって、煉獄のような場所だ。
だが、途中で出てきた百年に一度しかやってこない鯨にのれば、違う世界へ行けるかもしれない。
ぬいぐるみのネコが遺品の国に来たとき外灯に言われた、「なにかお探しかい?」の言葉を忘れなければ、希望の旅はつづくだろう。
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