勘違い
勘違い
著・saw
https://kakuyomu.jp/works/1177354054920995924
かつての想い人だった田端と映画にいく、同性を恋愛対象としているのを隠している裕翔の物語。
主人公の一人称を極力省くことで読者に与える情報を制限し、性別のミスリードを誘った、うまい作品だ。
田端という男友達と映画に行く主人公。
「――いや、私から見れば田端は友達ではないか。本音を言ってしまえば、その田端というのは私の想い人だった」
これだけ読んで、主人公は女の子かなと思う。
「叶わない恋ではあるが、こうして遊びに出かけられるだけで幸せだった」
ここでおやっ、どういうことだろうと思った。
普段着ているシンプルな服がおしゃれであり正解だと自分に語りかけながら、でかけていく。
映画を見た後でショッピングモールに向かい、服を見て店をまわっていると、主人公はある店に飾られていたフレアスカートを着ているマネキンに目が留まる。
田端に声をかけられたときの反応や、昼食をともにしているときに「最近暗い顔してる事多いから悩み事でもあるのかと思ったんだけど」と声をかけられるときなど、主人公になにかあるのがわかっていく。
帰宅して部屋に戻ったとき、決定的だった。
タンスの中にあった女物の服と口紅を、母親がみつけたのだ。
彼女にあげるプレゼント、口紅は彼女のものが間違ってかばんに入ったから返すつもりだといってごまかした。
ここでようやく、自分のことを「俺」と表現した。
すると「なんだ言いなさいよ、裕翔が変な道に行っちゃったのかと思って頭真っ白になっちゃったわ」といわれる。
このとき、母親の強張っていた表情が緩んだとか笑みが浮かんだとか、描写があるとよかった。
母親は笑い、主人公「固まった笑顔で作り上げた嘘を吐く」となる。頭が真っ白になっていたのは彼も同じだった。
「次は絶対怖い映画見に行くぞ」という田端からスマホに届いた文面が、楽しかった時間を思い出させると同時に、彼の現実が暗くなっていく。おそらく優しい田端は、主人公が想いを寄せていることや同性愛者であることも知らないのだ。
打ち明けたら気味悪がられるかもしれない。
同性を好きな主人公は、母の先程の強張った表情で送った視線と「変な道に行っちゃったのかと思った」という声を思い出すと、なおさら暗くなるだろう。
冒頭の明るい雰囲気から一転、ラストは文字通り「ただ暗闇のみが広が」るばかりの結末だった。
次があるなら、彼が明るくハッピーな結末を迎えられるようにしてあげてほしい。
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