第34話 女騎士ローズ-8

二万年が過ぎた。


75%まで問題なく適応しきった。制御も完璧であり、問題なくここからも進める。

前は一度で一年だったが、今は十年以上もかかるようになった。時間間隔がおかしくなるとはこういうことだろう。だが赤い羽根のおかげで時間は気にせずにいられる。

これが現実時間だったら寿命でジルクは……って眷属だと寿命どうなるんだ?。と。、赤い羽根に聞いたところ不老になるらしい。生命停止程度では死なないが、消滅させられると消えるとのこと。

まぁ今は現実時間は気にしなくていいから問題はない。不老になるといってもジルクさえ取り戻せるなら構わない。


赤い羽根も嫌いな性格ではないし、一緒に居られれば……。


……なんてことを考えてると赤い羽根は嬉しそうな魔力を当ててきた。心を読まれるのは分かっているが恥ずかしいところを読むのだけは止めてほしい。



三万年が過ぎた。


おおよそ100%を制御しきった。だが100%ではないし制御がまだしきれていない。この力を完全に制御しきり、姿形を元に戻せる上に全力戦闘まで可能にするともなると……まだまだ時間がかかる。

記録更新してると赤い羽根は嬉しそうだ。もう少しだと応援することすらあった。人であるなら小躍りしているとでも表現すべきだろう。


制御は50%から上手く進んでいた。が、両腕が燃えるような魔力になってしまっていた。両脚と同じ状態であり、いつの間にかこうなっていた。

両脚がそうなっているからと無意識的に適応させてしまったのだろう。幸いにも体はそうではないから問題はないが、何も問題なかったのに問題になった時と同じことになったというのは複雑な感情を抱いてしまう。


赤い羽根は戦う方法教えようかとか何やら甲斐甲斐しくなるようになってきたが、今は拒否している。まだ制御が100%に達していないことと、つけ上がりそうな気がしてならないから。



四万年が過ぎた。


100%の制御に成功し、それなりの戦闘までは行えるようになった。だが姿形を自由自在に変貌させての戦闘ではない。翼を生やし、四肢を燃える異形に変えての戦闘だけだ。普段の姿での戦闘や、全力衝突といった戦闘、全力を超えようとしたときの戦闘はまだ行えていない。


戦闘には赤い羽根が協力してくれた。強さ的には私と同等の私のコピーを作成し、それと戦わせるという方法だ。技術や魔力も完全に同じであり、私が技術的に成長したらあちらも成長する。自分自身の戦闘方法や全力を知るには一番だということらしいが、確かにその通りだった。


何より戦闘方法が以前とはまるで違うというのが一番大きい。槍こそ使うものの、それ自体が私の魔力で生成したものであり、切れ味や長さは自由自在。魔術の触媒にもなる。

そして制御がちゃんとできていない状態で無意識に魔力を垂れ流すと周囲がマグマに変わっていく。魔力を現象に変えるという技術だが、これほど凶悪な現象に変えるのは聞いたことすらなかった。

これをちゃんと制御できるようになるのにも時間をくった。


だが全力戦闘も、全力を超えるような戦闘もできるようになった。赤い羽根が大量に増えて飛び回っているのは100%制御に成功し、眷属となったからだろう。初めての眷属だったらしく、そりゃもう嬉しくて仕方ないらしい。




五万年が過ぎた。


扉が開き、ローズはその内包する力を別次元のものにして帰ってきた。衣服といった装備も依然と変わっていないように見えるが、その中身は全てローズの魔力で構築されている別物だ。


(準備はもう十分ですね)

「ああ、これで十分だ。赤い羽根の力も完全に御しきった。これでジルクを取り戻せる」


拳を握り、燃える魔力を纏う。部分的にだけ解放された力が空に舞う黒煙を吹き飛ばす。そして拳を開き、一本一本指を燃える魔力を散らしながら戻していく。細部の一部分だけの解放さえ可能になったことは完全に御しきったと言い切れるには十分だった。


ひらひらと飛ぶ赤い羽根が嬉しそうだ。この時を待っていたかのように言葉が流れる。

(ローズ。あなたに眷属のしるしを渡します)

「しるし……?」


ローズの頭に浮かんだのはヤギとジルクの姿。眷属がどうたらと言った時にあげたものは……。


(名前です。眷属は以前とは別の存在だと示すために、名前を別のものにするのです)

「……ジルクとシアか」


イメージする者がそれらだからか嫌な感情しか出てこない。だが今や私は以前とは別のもの。ならば名前も変えた方が気分的には嬉しい。


(ええ。……いやですか?)

「いや、お願いしよう。最早人ではない身、なら貴方に新しい名前を貰いたい」


一呼吸の間をおき、赤い羽根がローズの頭に響かせた。


(あなたの元々は残しましょう。名前は……ローズ・アリッサ。呼ぶときはローザリッサと呼びなさい)

「ローザリッサ。それが私の名前か、悪くない。……ローズ・アリッサというのは?」

(あなたが私を呼びたい時に呼びなさい。貴方とは既に魂で繋がれています。名前を呼べば一瞬の時間すら要らずに現れますよ)


その言葉に言いたいことはすぐに理解できた。眷属となったローズであっても届かない相手はいる。目の前の存在がそうであるように。

もし奴がそれに連なるならば……ということだろう。


「そうか。ならばすぐに使う名前だな」

(ええ。本来ならば私の名前も教えたいところですが……あなたの身では聞こえないでしょう。レ■ィ■■■■■という名前を)

「聞こえないな。ならこれまで通り赤い羽根と呼ぼう。それでは一時の別れだ」

(明日の日が落ちるくらい程度の別れでしょうけどね)


赤い羽根の茶化すような言葉を最後に、ローズ……ローザリッサは背中に自分の背丈ほどの蝶の羽を生やし、火口の外へと飛び出す。

数秒程度で死ぬような目にあった火口への道を抜き去る。かつての自分が懐かしさと共にフラッシュバックする。


だがそれも思い出に過ぎない。ローズとしての思い出だ。


「久しい空だ。まずはルダクノまで行くとしよう」


ローザリッサはそう言葉に出し、空を飛んでいった。

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