ラウドナオーブオリース2
コンコン、と扉が叩かれたのか音がする。
どうぞ、と要舞は返事をした。
「入るよ、イル」
その言葉が聞こえたのか、在舞が紅茶とマフィンをお盆に乗せて、それを片手に部屋へと入ってきた。
要舞がヘッドホンを外すと後ろを振り向く。
「ありがとう、アル」
嬉しいな、助かるよ。そう、在舞へと微笑みかけた。
そんな姿に嬉しそうに要舞へと掛けよれば彼の机の上にあるパソコンを見つめる。
パソコン画面は、いつもの曲を作っていた編集画面ではなく、音楽サイトの投稿画面となっていた。
「わ、イル!出来たの?」
お盆を机の上へと置けば、子供のように在舞は思わず手を叩いてはしゃぐ。
その言葉に要舞が頷いた。
はしゃぐ彼の姿にクスクスと笑う。
そんな要舞の姿に在舞は嬉しそうに顔を綻ばした。
要舞は手に持っていたヘッドホンを机へと置けば手を拭く。机の上に置かれたお盆の上から在舞手作りのマフィンを手に取った。ペリペリとカップを剥けばがぶりつく。
バターの風味に包まれて、ほんのりとした甘さが口いっぱいに広がった。
思わず頬が緩む。
「美味しい……甘いものは得意じゃなけどさ、……アルのなら不思議と食べれるよ」
ありがとう、と要舞が笑う。
その言葉に嬉しそうに安堵しつつ、在舞が顔を綻ばせた。
「わ、本当!?よかった……僕さ、イルのためにイルに作る料理はいつも甘さ控えめにしてるんだよね。喜んでくれて嬉しいや」
ありがとうと嬉しそうにティーポットを持てばティーカップへと紅茶を注ぐ。
とくとく、と紅い液体がティーカップへと流れ落ちていく。
茶葉のいい匂いが部屋へと広がった。
「えっ、そんな気遣いをしてくれていたんだ……知らなかったや。ありがとう、アル」
気を使ってくれてありがとう。嬉しくなったのか、在舞の頭へと手を伸せば優しく撫でた。
懐かしい兄弟の手。そんな優しい温もり。
頭を撫でられればふいに、在舞は一筋の涙を流す。
頬につぅ、と涙が伝った。
そんな彼の反応に要舞が瞳を大きく開く。
「え、あ、だ、大丈夫……?」
在舞の姿にどうしていいのか分からず、戸惑った。
申し訳なさそうに眉を下げれば、頭からごめん、と手を離す。
そんな彼の反応に在舞は大丈夫だと言うように首を横に振る。
「大丈夫…えっと…ね、その、嬉しくて。イルが頭を撫でてくれたことが」
ありがとうと何度も在舞が礼を述べた。指先で涙を拭いながら再び笑う。
在舞にとって、要舞が前の優しかった兄弟に戻った様な気がした。
雨雲か過ぎ去ってきたのか、外の雨が徐々に弱まっている気がする。
風の音がしなくなった。
このままずっと僕だけのイルでいてくれたらいいのに。
在舞は胸元をぎゅ、と強く握り締めれば、そう心の中で呟いた。
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