それは閉ざされたおもちゃ箱2
放課後、標は急いで温室へと向かう。
今日はリリーは居るだろうか
そんなことを考えて標は全速力で走っていた。
勢いよく温室の扉を開ける。
バタンッ
大きな音が温室に響き渡った。
空気が震える。
標が温室の机へと顔を向ければ、一人の魔法少女がそこに立っていた。
どうやら、リリーでは無いようだ。
「え、わ、…び、びっくり…した」
瞳をくりくりとさせた少女。大きな音に驚いたのかその場に立ち止まって温室に入ってきた標を見つめている。
見覚えのない標の姿。怯えたように彼に問いかける。
「え、あ……誰かな、キミ…」
初対面の人間。しかも、魔法少女じゃなく普通の男子高校生が入ってきたことに驚いたのか、警戒したように標を見つめながら魔法少女が問いかける。
そんな彼女の姿に害はありませんと言うように首を横に振った。
そして、申し訳程度にゆっくりと優しく扉を閉める。
「え、と…標です。俺、双葉標って言います!えっと、一年生の魔法少女です!よろしくお願いします!」
驚かしてしまってすみません!と大きく頭を下げた。
そんな標の姿に害はないと彼女は悟る。
とんでもないと彼女は手と首を横に振った。
「だ、大丈夫だよ。ごめんね、ここは魔法少女しか入って来れないって言われたからびっくりしちゃった。ここに来れるってことは…キミも魔法少女なんだね?」
顔を上げてよと魔法少女が問いかける。
顔をあげれば暗い琥珀色の瞳と目が合った。
哀しそうな瞳。
そう、標は感じる。
片眼鏡は曇っており、まるで視力を失っているかのように目に光が灯っていなかった。
温室の窓から零れ落ちる光。その光が注がれた薄いベージュピンクの髪。そこから生えたふわふわとした、まるでぬいぐるみのようなくまの耳。
クラシカルな服装は、薄黄色の胸元のリボンがゆらゆらと風で揺れていた。
遠慮がちそうに微笑む彼女に標が頷く。
「はい!今は変身してないっすけど、魔法少女の時はシモンっていいます。よろしくお願いします!」
頭を下げれば、勢いよく手を差し出した。
そんな標の姿に元気だねとくまのような魔法少女が笑う。
「うん、よろしくね。テディは、ステラ・ザ・テディアイだよ。二年生の魔法少女なんだ。よろしくね。えっと、標くん?でいいのかな」
差し出された手を取れば瞳を細めてにこり、と笑った。
標は彼女の手を握り返す。
そんな彼女は、何故か分からないけれど、どこか温かくて懐かしい気がした。
標はぎゅ、と胸元を握り締める。
何故か分からないけれど泣きそうだった。
どこからともなく風が吹く。
温室の花々が風でそよそよ、と揺れた。
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