叶えたくてられなくて3

幸福は香水ごときものである


誰かが言っていた気がした。

確か、人に振り掛けると自分にも必ず降り掛かるんだったかな。

現代語の授業中。

そんなことをぼんやりと考えながら標は授業を受けていた。

ノートを取りながら小さく溜息をつく。

「なんか、はぐらかされた気がするんだよな……」

この間リリーに会った時の事を思い出しながら思わず不服そうに顔を顰めた。

手に持っていたシャーペンをくるくると回す。

本当ならあの時、魔法少女について、ドリームイーターについて、もっと詳しくリリーに教えてもらうつもりだった。

でも、リリーは簡素に言葉を紡いで終わってしまった。

それが標にとってはとても不満だ。

皆を守るため、強くなるためにドリームイーターを知りたかった。

でも、教えて貰えなかった。

はぐらかされるだけだった。

思わず叫びたくなる気持ちをぐ、と堪える。

考えすぎて頭がショートした。

思わず机に突っ伏す。

標。云わばシモン達一年生はドリームイーターについて敵だということしか教えて貰えていない。

だからこそ、倒さないと行けないという使命感に駆られ日々、ドリームイーターを倒していた。

でも、よく良く考えれば、ドリームイーターを倒す理由を知らない。

ただ、悪だから叩きのめす。

それしか知らなかった。いや、知らされていない。

だから、どうしてあの奇妙な生き物がなんなのか知りたかった。

きっと知る権利はある。

「うー、あー、モヤモヤするぜ……」

ノートに顔を擦り付けつつ思わず呟く。

このままでは勉強も身に入らない。

之彦やゆうき、それに子音だって自分で考えて動いている。

なのに自分は何もしていない。

魔法少女になって、標が分かることといえば、シモンになる時に誰かの記憶。なんというか、自分の知らない記憶が良く流れ込んできているということだけ。

でも、その流れてくる内容は何一つ理解できなくて。

唯一分かるのは、その記憶の主には親友が居たということだ。

しかも、その記憶の主は親友に絶対にバレたくない秘密を抱えていたらしい。

しかし、標に戻ると大半のことは忘れたてしまう為、役に立つことは無かった。

シモンの時に日記を付けた方が良いのだろうか。

そう、考える。

ココ最近ずっとモヤモヤしっぱなし。

そんなのは標のプライドが許さなかった。

そうとなれば、何か出来ることはあるだろうか。

そうだ。ひとまずは、もう一度リリーの元に行こう。

そこから考えよう。

標は固く決意する。

天気の良い空には渡り鳥達が大きな翼を広げて羽ばたいていた。

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