御機嫌ようと笑う声は3
「メルルさんは、どうして魔法少女になったんですか?」
シモンの口から問いかけられるその言葉。その、疑問に思わず答えずらいとメルルは顔を顰めた。
「本当に聞くの……?」
飲んでいた甘い紅茶の入ったカップに口付ければ思った甘さじゃなかったのか、一息をつく。
「い、いえ、言いたくないなら大丈夫です!」
ちょっと気になっただけなので、とシモンが持っていた紅茶の入ったカップをソーサーにお置けばふるふると首と両手を振った。
その様子に思わずメルルが面白かったのか鼻で笑えば、紅茶にお砂糖を二、三粒、加えた。
そしてティースプーンでくるくると回す。
そして再びティーカップを持ち、口付ければふんわりと口に広がる甘さに満足気に笑う。
そして眉を下げてシモンの方を見た。
「そうね、私は『大切な人をもう一度写真に写したい』って願ったの」
太陽の光がメルルを照らす。
シモンが思わずメルルを見つめた。
思わずティーカップを傾けて紅茶を床へと零す。
「うわ、っ…すみませんっ…そ、そう、なんですね。それで、その人は写せたんですか?」
シモンが慌ててティーカップを元に戻しながらメルルへと問いかける。机の上をタオルで拭きつつ、苦笑いを浮かべた。
その姿にメルルが笑った。
「いいえ、彼は死んだの。大切な友人を庇ったそうよ」
その言葉に机を拭いていたシモンが固まる。
申し訳ないことをしてしまったんじゃないかと俯いた。
その反応にメルルが手を伸ばしてシモンの頭を撫でる。
「大丈夫よ。安心して?ただ、とても悔しいの」
平然を装っているが、今にも泣きだしそうなメルルの声。
その言葉にメルルを見つめれば眉の下がった顔が瞳に映る。
「なにが、悔しいんですか……?」
その言葉に何が悔しいのかわからず、思わず問いかけた。
なんでも聞くのね、と、くすり、とメルルが笑う。
「彼に庇われた人が羨ましいの……私が彼の隣に居たかったわ。ずっと一緒に笑ったり、ご飯を食べたり、一緒にお話して笑いあったり……そんなことができる日が来ないかと夢見ていたの……でも」
そういうとメルルが口を紡ぐ。
そして一息つけば頬から一筋の雫を流した。
「そんな日が来る前に彼は死んでしまったわ」
それならもっと頑張れば良かった。
そう、ぽろぽろと大粒の涙を流す。
シモンが心配そうにメルルの頭を遠慮がちに撫でた。
シモンの方を向けばかっこ悪い所を見せたわね、とふふと、メルルが笑う。そして、再び口を開いた。
「だからね、私許せないと思うの」
「許せない、ですか?」
その言葉にシモンが首を傾げた。
「そう、庇われた人を私は許せないと思うわ。だって、その人が庇われていなかったら、その人がもし、事故に合わなかったら……もしかしたらあの人は生きていたのかもしれないから」
まあ、今更後悔したところで私は何も出来ないけれど。
そう、呟くと穏やかに笑った。
シモンは何も言えない。ただ、静かにメルルの言葉を聞いている。
ぽちゃん、と先程机の上に零した紅茶の雫が床を濡らした。
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