月の都に誘われて2

それは夜。

生き物が寝静まった深夜の出来事。

エンジェフラワーはこそこそと、誰にもバレないように温室へと向かっていた。

理由は簡単、メリルに会うためだ。

しかし、その理由も一人の魔法少女の声で呆気なく砕け散る。

「エンジェ先輩」

背後から声を掛けられた。

エンジェフラワーが不快そうに顔を顰める。

そして、声の主の方をエンジェフラワーは首から上だけ向けた。

そこにいたのはエンジェフラワーにとって見知らぬ魔法少女。

そんな魔法少女が己に話し掛けてくる。

不快でしかなかった。

「あらぁ、どなたですか?」

魔法少女に問いかける。

その言葉に魔法少女が眉を下げ、笑顔を頑張って作る。

「そっか、私の存在を消したから、私の存在はアナタに認知されないのですね……」

哀しそうに魔法少女が呟いた。

魔法少女は言う。

「一つ、提案があるんです」

その言葉にエンジェフラワーは首傾げて魔法少女の方に身体を向けた。

「なぁに、見知らぬ可愛い魔法少女ちゃん。まあ、エンジェは知らない人の言うことなんて聞きたくないけどぉ、特別に聞いてあげますよぅ。だって、こんなに夜中に起きて声を掛けるなんて君くらいですもん」

仕方ないですねぇと腕を組むエンジェフラワー。

その瞬間、魔法少女がエンジェフラワーの手を掴む。

驚いて身体を仰け反ろうとした瞬間、魔法少女が耳元でナニカを呟いた。

「______」

その言葉にエンジェフラワーの動きが止まる。

遠くから鈴虫の鳴き声が聴こえてきた。

思わずエンジェフラワーが口許に笑みを浮かべる。

「ふふふ、ふーん、へぇ、……それは、とっても面白いですねぇ。……うーん、良いですよぉ、それならエンジェも提案に乗ってあげちゃいます♡だって_」

そう言うと、くる、とその場でターンをして両手を広げた。月がエンジェの背中を見守っている。

「エンジェもぉ、同じこと考えてたんですもん♡」

夜はまだ明けない。

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