ラブリーヘブンリー5
トン、と小さな少女に身体を押された。
ズドン、と鈍い音がこだまする。
少女を突き抜く鉄の棒。
少女の姿が己の見知った少年の姿へと変わる。
「ごめんね、佑くん」
小さな少年の瞳から溢れる涙。
その少年の腹へと突き抜ける鉄の棒。
鉄臭い臭い。
少年からじわじわと滴る紅い液体。
永富 佑は少年に付き押された反動でその場に尻もちをつく。
「
思わず彼の名前を幼き少年は理解が出来ないというように小さな声で呟いた。
どうしたらいいのか分からず小さな少年、永富佑はその悲惨な光景を見つめた。
「累っ!!」
遠くにいたショートケーキのような可愛らしい少女が少年へと駆け寄る。
すぐさま少年へと突き抜けた鉄の棒に手を触れれば柔らかく、ぐにゃり、と歪ませる。
そして柔らかくなったそれを少年の身体からずるずる、と引き抜いた。
「エミリア!治せる!?」
その言葉に、呆然と立ち尽くしていた妖精のような花冠をつけた少女がハッとして駆け寄った。
「やれることはやってみます、ブライダ、手を貸してください」
エミリアと呼ばれた少女の隣にいたウェディングドレスを身にまとった少女。名前を呼ばれればすぐさま累へと駆け寄った。
「できるか、分かりませんがやれることはやってみますわ。トルテお姉様はそこの少年の目を覆っていてくださいませ」
その言葉にこく、と頷くショートケーキのような可愛らしい少女、フランボワーズ・トルテ。
佑の瞳を手で覆えば彼の世界を暗闇で覆い尽くした。
「大丈夫、きっと、二人なら治してくれるから」
だから、安心してと佑の耳元で囁いた。
ブライダル・ベールがエミリアの両頬へと手を添える。エミリアの唇へと己の唇を重ねればふわ、とエミリアの髪が靡いた。唇が離れればエミリアが緑色の光へと包まれれる。
光を手へと集中させればそっと、累の突き抜けたお腹へと添えた。
光が腹へと集中してゆっくりと彼の腹の穴が閉じる。
エミリアの力が尽きたのかその場に座り込んだ。
「お、応急処置はさせていただきました……が、分かりません……かなり重症なので」
その言葉にフランボワーズ・トルテの顔が青ざめる。
「そんな……」
そんなフランボワーズ・トルテの声にくすくすと累の笑い声がこだまする。
「ありがとう、魔法少女のお姉ちゃん達」
ぼくの為に……と再び口元に両手を添えて笑えば、累は最後の力を振り絞って佑の元へと這いつくばって向かう。
そして、フランボワーズ・トルテが佑の瞳を覆っていた手を離した。
「たすく、くん」
累が佑へと声をかける。
「る、るい……」
累を失うかもしれないという恐怖と不安に押しつぶされて佑の目から涙が零れ落ちた。
「居なく、ならないで……」
その言葉にふふ、と彼が笑う。
「大丈夫だよ、ぼくはずっとたすくくんのここにいるから」
ポケットからお揃いで持っていたニコちゃんマークのストラップを取り出す。何故か少し薄汚れていたそれ。それを佑の手に握らせれば嬉しそうに笑うのだ。
「良かったなぁ、ぼくの願いが叶ったよ」
ずっと忘れないでね。
そう、笑うと累はゆっくりと目を閉じてその場へと倒れた。
「る、い……っ」
佑の口から声が零れ落ちる。
そして、すぐさま累の肩を掴めば身体を揺さぶった。
しかし、少年が起きることはない。
周りにいた少女達も目から涙を流す。
「う、うわあああああああああああぁぁぁ」
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