011
地を鳴らしながら埋もれていた脚部を無理矢理地面から引っこ抜く。
地面の中から現れた古代魔道兵器の脚部は四本の脚、二つの関節からなるバランスの取れた脚が巨体を支える。
脚部が地中から抜け出した事により更に高さが上がる。亀裂が入った胴体は奏真の届かないところまで上がってしまう。
そんな亀裂をつける程の攻撃を与えた奏真を脅威であると認識した古代魔道兵器はアサギと雪音を無視して奏真へ攻撃を開始する。
振り下ろされるアームに加え追撃の魔法が奏真を襲う。
当初の予定より遠回りになったが奏真の狙っていた通り自らが囮役になる。
「よし、これでやっとこっち向いたな」
ひらりひらりと攻撃を避ける奏真。
しかし前回のトロール戦と違うのは相手が造られた機械。
囮になる事には成功したが相手の焦ったりやストレス等による、心情による大きな動きをすることはないということ。反撃には自力で古代魔道兵器の攻撃を攻略しなければならない。
「奏真、援護しようか?」
反対側から防戦一方の奏真を見て叫ぶアサギの姿。攻撃から難を逃れ、雪音を下ろし攻撃態勢に移ろうとしていた。
「問題ない。またそっち向かれても困るしそのまま見てろ」
古代魔道兵器の攻撃を避けながらアサギに叫び返す。
古代魔道兵器は学習能力があるのか、奏真に今現在の攻撃が有効ではないと見たか攻撃方法に変化を付け始めた。
「やれやれ、本当に優秀だな。長引かせても面倒くさくなりそうだ。終わらせよう」
奏真も攻撃を開始する。
古代魔道兵器の攻撃を避けつつ攻撃用の魔法を用意する。
それはおよそ五十を超えるピンポン玉程度の大きさの炎。古代魔道兵器の頭上に展開した。
これではダメージは通らない。
そう解析したのか古代魔道兵器は奏真の魔法を確認するが脅威にはならないと踏んだのか【
あくまでも脅威の排除が優先ということらしい。
それが仇となった。
奏真が魔法を一気に放つ。それと同時に一度距離を置き巻き込まれないように離れて様子を見る。
まるで炎の雨となって降り注ぐ魔法は古代魔道兵器の至る所に着弾する。
カンッ、カンカンッ、と高音を出す。
明らかに奏真の魔法が古代魔道兵器に弾かれている音。全く効いていない証拠だ。
「…………………」
何を思うのか弾かれる様子をじっくり奏真は観察していた。
炎の雨が止み、今度は古代魔道兵器の方から距離を詰めた。
四本脚を動かし、奏真へ迫る。
「おっと、それは悪手だぜ?」
奏真は指を鳴らした。
するとその音を合図に至る所の地面に魔法陣が形成される。
あちこちにあるがそれはランダムに配置されているように見えるが共通するのは古代魔道兵器が奏真へ物理攻撃した際に出来たクレーターの上だった。
古代魔道兵器が奏真へ近付くより先にその魔法陣の魔法が起動する。
「損傷率甚大………警告」
次の瞬間には古代魔道兵器が片言に許容ダメージ量を越えた損傷を確認。
あちこちに火花を散らしたり、スパークさせ亀裂より甚大である事を表している。
「どうだ?自分自身で固めた土の威力は?」
魔法陣から放たれる魔法は土魔法。
そのまま土をせり上げ、鋭く尖らせた先で攻撃する魔法。この魔法はそのまま地面の土を利用するため固さや性質は保ったままとなる。
そのため奏真は古代魔道兵器が攻撃の際に作ったクレーターの固められた土を利用した。
とは言え土は土。奏真の魔法を軽く凌ぐ古代魔道兵器の装甲を破るには至らない。そこで奏真は出来るだけ攻撃の箇所を絞った。
最初に放った魔法、炎の雨。それは攻撃ではなく単に装甲が弱い箇所を見つける為のもの。弱い魔法と言えど多少傷に差は出る。
それを見分けて本命の魔法を繰り出した。
だいたいの損傷部分は関節や付け根に大きく現れる。損傷と言うこともあり動きはかなり鈍くなる。
鈍くなった古代魔道兵器は速度で奏真には追い付けなくなった。
「これで終わりだ」
トドメに容赦なく膨大な数の炎魔法を展開する。古代魔道兵器は足掻きに【
古代魔道兵器の【
まるで短機関銃のようだ。
地面ごとズガズガと抉り古代魔道兵器の巨体は見るも無残な姿へと変貌した。
蜂の巣になった古代魔道兵器はスパークしながら機能を停止させる。カメラだと思われる光っていたのも消えた。
「対象の機能停止を確認。討伐完了」
古代魔道兵器が確実に停止したのを確認して奏真は言った。
「まさか敵の魔法を利用してしまうとは」
倒れた古代魔道兵器の影からアサギが姿を現した。その横には同じく無傷の雪音の姿。二人は奏真の魔法の使い方に驚いた表情をしている。
「そんな事よりこの兵器知ってるかアサギ」
木っ端微塵となった兵器を指差す奏真。
アサギは首を横に振る。
「いや、知らないな。最近になって見られる魔物に近い物を感じるが………その類いではなさそうだな」
粉々の兵器を手にとってよく観察するアサギだが分からずそのまま地面に置いた。
この世界では兵器などは魔法が日常化するに連れて廃れていった。おおよそ最近造られたものではないと踏んだ奏真。地面から出てきたといいこの地下に何かあると予想する。
「場所は覚えた。一度ここから離れた方がいいのかもしれないな。戦いの中でも思ったが魔力に反応していた。この兵器が量産型だとするとまた飛び出てくる可能性がある」
この手の兵器を利用されていた時代のものと結論付ける。そうなるとまだこの地下にあっても不思議ではない。
あれだけの戦闘が起こっても後続がないと考えるならば可能性としては低いが万が一ということもある。
魔力を使わずに早急にこの森から離れる。
「ここからどこへ行くんだ?もう向かうのか中枢都市[アレクトル]へ」
歩きながら離れる三人。
奏真を戦闘に並びながら付いていく雪音、アサギ。
向かう先が気になるアサギは向かう方角的に中枢都市[アレクトル]ということもあり、[アレクトル]へ向かっているものだと予想する。
「いや、隣のただの村だ。そこで一度次の日を迎える」
「明日をか?何でまた?」
「装備の見直しと霧谷についてもう少し知る必要があるからな」
「あー、確かに。今回はわからん事だらけでこうなった感もあるしな」
「……………」
三人が隣の村へ向かう。
しばらく森を歩いて着いた村。
堀と木で出来た柵で囲まれた小さな村。建ち並ぶ家々も規模も同じく都市とは違い、建つ家もほとんどが木製、瓦のような屋根。
それでも村へ入ると人々は明るく暮らしていた。
「今日はここで一晩、宿があるか聞いてこよう」
「都市[ハルフィビナ]へ来るときに素通りした村だな。横目だけでしか見なかったがよく見るといいところだな」
村の人へ宿屋があるか尋ねる奏真。キョロキョロと辺りを見回して何かを探す探検へと勝手に向かうアサギ。
どちらへついていけばいいのか分からない雪音は一人村の道の真ん中でオロオロとしていた。
(どっちについてけばいいのかな………)
アサギの方は兎も角、奏真の方は邪魔になるような気がしてついては行けなかった。かと思えば既にアサギの姿は見当たりない。
一人ポツンと突っ立っていることしか出来ずそのままボー、としていた。
その時だった。
『…………ッ………』
雪音の耳に聞き覚えのない声が聞こえた。背筋を凍らせるようにゾッとする。
「………誰?」
奏真やアサギの声ではない。
村の人かと思い、周りを見るが誰も雪音に声をかけたであろう人はいない。皆仕事をしているか他の村の人と話しているかの二択。
更に謎の声は聞こえる。
『…………ヨ…………イ……』
今度は先程よりも鮮明に聞こえる。声の質からどこか人間とはかけ離れたような声。
雪音はその声に集中するために目を閉じた。するとまたその声が脳内に響く。
『ツヨク、ナリタイカ?』
更にはっきりと、そして不気味な声が聞こえた。まるで心を見透かされているような質問に雪音ははっ、と目を開いた。
その声には答えてはいけないような気がしてブンブンと頭を振って変な考えを追い払う。
「霧谷?………おーい霧谷?大丈夫か?」
村の人から話を聞き終えた奏真は雪音のところまで戻っていた。
様子のおかしい雪音を見た奏真が雪音の顔を目を細くして見ている。
「だ、大丈夫です。何でもありません」
「そうか?何か悩み事なら言えよ?」
「は、はい。本当に大丈夫です」
誤魔化す雪音に奏真は疑いの目を向ける。目をそらす雪音に奏真は怪しいと目を鋭くするがそれでも雪音は頑なに話さない。
「……………」
「……………」
このままでは埒があかないと奏真は話題を変える。
「……まあいい。アサギはどうした?」
奏真が戻ってきた時には既に姿を眩ませたアサギ。見当たらないその姿を雪音に問うが勿論雪音は先程謎の声に意識を裂いていたので知るよしもない。首を横に振る。
「あいつのことだからその辺にいると思うが取り敢えず放っておくか。先に霧谷に伝えておくがまずこの村に宿はないそうだ。まあ当然だわな」
特に観光名所や珍しいものがあるわけでもないただの小さな村。通行人は少なからずいるであろうがここに泊まる人などいない。
聞く前から何となく想像していた奏真は念のため村人に聞いてみたが想像通りない。
「ただ村内部の空き地に適当に簡易的に居住スペースを作っていいって言うから今日はそこで寝泊まりだ」
「わかりました」
「それからこの村で依頼を受けた。ただの駆除依頼だが………」
そこで奏真は難しい表情をした。雪音にもそれが見て取れた。何かあったのだろうと想像する。
奏真は話を続ける。
「対象は主に夜らしいからそれまでは自由にしてて構わない」
自由。奏真の言葉を聞いてすぐに雪音の頭にはあることが思い浮かぶ。
「あの、それなら魔法を教えてもらえませんか?」
「………ああ、そうしよう。前回は邪魔が入ったからな。アサギがいないのが少し不安要素だが、まず実戦的ではなく知識的な話にしようか」
「…………はい!」
二人は村の空き地の方へ移動する。
こうして夜まで奏真の授業が始まった。
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