せんせー金森が異世界こわしたー〜バグと謎ミュージカルで異世界革命!?〜

供養

序 人のステータスで鼻をかんではいけない

こんぺいとうが、降ってくる。


彼は自分の腹から流れ出る血の上に寝そべったまま、ぼんやりとそう思った。

仰ぎ見る曇天の空から、色とりどりの星型をした粒が雨のように降り注ぐ。

そこは異世界のはずだった。

中世ヨーロッパ風の街並み。

そこを行きかうのは人間だけでなく、エルフやノーム、ドワーフなどの亜人たちもいる。魔法が日常的に扱われ、見知らぬ言葉や文化が飛び交う。

酒場では自らが狩ってきたモンスターの遺骸を片手に、意気揚々と自慢話を語る冒険者たちの姿。ここはそういう場所のはずだったのだ。

しかし、今はどうだろう。

レンガ造りの建物は無残に崩れ去り、代わりに奇妙奇天烈なパレードが練り歩く。ショッキングピンクの象。毒々しい斑点模様のキノコ。そしてなぜか、派手な衣装のサンバダンサー。この世界にはおおよそ似つかわしくない形をした巨大なパレードカーが、イルミネーションを輝かせながら巡行していく。

その下では、色とりどりの衣装をまとったモンスターたちが踊り狂っている

。60年代ロックスター風の革ジャケットを着こんだオークがツイストを踊り、その横でレザー服をまとったサキュバスがポールダンス。ゴーストが無い足でブレイクダンスをし、スケルトンは自らの骨を口にくわえてタンゴを踊る。上空ではロック鳥が七色の星屑をまき散らしながら飛び回り、辺りは色とりどりの星だらけである。

その星屑にあてられたのかは分からないが、この町の住人もモンスターに混じって踊り狂っている。人間も、亜人も、商人も、貴族も、奴隷も、冒険者も。皆一様に焦点の合わない目で、笑いを浮かべながら踊る。

イカれたた狂乱の中心で、エレキギターをかき鳴らしながら歌う男がいた。

目深にかぶったつば広の帽子に、鳥の顔をかたどったような銀色の仮面。

上下黒のシンプルな服に、その上から羽織った黒いマントをばさりと広げる。

そしてとんでもなく巨大なアンプを背に、高らかに歌い上げる。


誰からも唾を吐かれてきたの

誰からも褒めてもらえなかったの

そんな自分がいやになって

こんなセカイに飛び込んでみました

哀れなボクでも褒めてもらえて

愛してもらえるそんなセカイ


だれにも取られたくなかったよ

だれにも見つかりたくなかったよ

だけどだんだん不安になって

横取りしようと思ったのさ


転生しよう転生しよう

こんな社会飛び出しちゃって

輪廻しよう輪廻しよう

あの交差点に飛び出しちゃって


いつかはこうなるってわかっていたよ

すべてを手にするってことはこういうことなんだよ

身の丈知らずに奪い取って

こんなセカイにしてしまったのさ

愚かなボクをあざ笑って

置いてきぼりにするそんなセカイ


だれかに愛してほしかった

だれかに認めてほしかった

だから全てを失ったのさ

さまよい歩いてたどり着いた


「オラいくぞー!」

男がそう叫ぶと、白衣のポケットからタオルを取り出して頭上で振り回し始める。

すると、てんでバラバラに踊っていた聴衆たちも、同じように布を振り回しながら、ぐるぐると輪をかいて走り出す。


断罪しよう断罪しよう

こんなセカイ飛び出しちゃって

懺悔しよう懺悔しよう

あの子の前に土下座しちゃって

「fooooo!!」


延々と走り続ける有象無象の中心で、彼は相変わらず倒れたままだった。

男はそんな彼に近づき、容赦なく蹴り飛ばす。

「ぐ」

「生きてんじゃねーか」

うめき声をあげる彼を、男は容赦なくつま先でつつく。

彼は男の足を振り払い、のろのろと上半身を起こした。

腹は血でべったりと汚れているが、幸い傷は開いていない。

というか、傷そのものが存在していないようだ。

「どうせ見た目ほどは痛くねぇんだろ。さっさと立って、お前もあの子に懺悔したらどーよ」


そう言ってタオルを振り回す男の顔を一瞥して、彼はやれやれという風に立ち上がる。

そして懐から一台のカメラを取り出し、自分に向かってシャッターを切った。

出てきた写真には、自分の姿と「ステータス」が記されていた。

今の出血で、体力がどれくらい無くなっているのだろう。

『HP:www.bokusaikyooo.co....』

「あらヤダ、僕ちんの黒歴史ページ見ないでよー」

男が腰をくねらせながらイヤイヤとポーズをとる。彼は男を無視し、再度シャッターを切る。

『HP:64』

ホッとした彼の横顔へ向かって、男はそっと耳打ちをした。

「ハッパ(happa)ロクジュウシ」

「やだ~魔王様さむ~い」

しょうもないダジャレを堂々と呟く男に、セイレーンの女が甘ったるい声で突っ込みを入れる。

舌打ちをしつつ、彼はもう一度撮り直す。

『H(ome) p(arty):え?お前呼んでないよね』

撮り直し。

『H(arry) P(otter):だまれマルフォ』

撮り直し。

『H(ot) P(ants)……』

彼はカメラを地面に投げつけた。カメラは無残にも木っ端みじんになる。

「物に当たるなんて器の小さい男ね」

「あんたのせいだよ!」

おちょくってくる男に、彼は額に青筋を立てて掴みかかった。

だがこのような事態になったのは、このふざけた男のせいだけではないことを、彼は内心重々承知していた。

結局のところ、全ては自分のせいなのだ。

これまでの行いを思い出し、少しだけ気持ちがふさいだ。

しかし、背後で鼻をかむ男を見てその気持ちはすぐ吹き飛ぶ。

「コラ!人のステータスで鼻をかむな!」

男は何も言わずステータスをぐしゃぐしゃに丸めて捨てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る