第十三章最終話 出発
一夜明け、捜査はかなり進展していた。
まず男の証言を受け、ラージャ三世はタルール祭事副長官を逮捕した。それと同時にタルール祭事副長官の自宅にも強制捜査が行われ、盗まれた種のうち三つだけ取り返すことができた。その際、彼の給料では到底貯金できるはずのない量の金貨が押収されたと聞いている。
まだ疑惑の段階でしかないが、おそらく彼は恒常的に汚職に手を染めていたのだろう。
また、証言にあった種泥棒の実行犯も逮捕された。彼らは出身の寒村に植える種を帰省の際に貰えるという口約束を信じて犯行に及んだようだ。ちなみに彼らはまだ手を下されていないだけで、いずれ口封じのために殺されたのではないか、というのがもっぱらの見解だそうだ。
もしそうならば、ここで捕まったのは逆に良かったのかもしれない。
さて、回収できなかった数十粒の種だが、これはすでに闇市場に流されており、完全に行方が分からない。
ラージャ三世は今回の事件に関わった闇市場関係者も全員逮捕すると息巻いており、盗まれた種の売買や使用だけでなく、持っているだけでも罪とすると宣言した。そのためいくらかは取り戻せるかもしれないが、それには捜査の進展を待つしかないだろう。
とまあ、そんなわけで種の大部分は未だに行方不明のままだ。あまりスッキリはしないものの、もはやこれ以上私たちが口出しする問題でもないはずだ。
そう考えた私たちは予定どおり、ヴェダを出発することにした。
「それでは、お世話になりました」
「聖女様、この度は我が国をご訪問いただきありがとうございました。また次回、ご訪問いただくまでには腐敗を一掃し、瘴気を生み出さない国に生まれ変われるようにいたします」
「はい。期待していますね」
私はニッコリと微笑みながらそう答えると、馬車に乗り込んだ。すると馬車はゆっくりと動き出す。
馬車はお城を出るとヴェダの町中をゆっくりと進み、沿道では私たちの出発を市民たちが手を振りながら見送ってくれている。
そんな彼らに私は馬車の窓から手を振り返すのだった。
◆◇◆
ここは魔大陸にあるベルードの城の中庭。そこには高さが一メートルほどの枯れ木があり、その周りをベルードとヘルマンが囲んでいる。
「……瘴気が本当に消滅しているな。枯れたからといって瘴気を吐き出すこともなさそうだ」
「そのようです。やはり今代の聖女は瘴気を滅する術を持っていると考えて間違いなさそうです」
「そのようだな。種の残りはいくつだ?」
「残りはあと一つです」
「そうか。聖女は一日でどれほどの種を生み出せるのだろうな? 嵐龍王から奪った瘴気を消すには数百、いや数千は必要かもしれん」
「聖女は種を植えて回っております。ですのでそれを見つけ、瘴気を与えて回ればよいでしょう」
「そうだな。あとは人間どもの生み出す瘴気と聖女が消せる瘴気の量が釣り合うかどうかだな」
するとヘルマンは難しい表情になった。
「ヘルマン、どうした?」
「ベルード様、やはり人間どもの数は減らしておいたほうが良いのではありませんか? 人間の繁殖力は中々のものですし、早いうちに間引いてしまったほうが……」
「くどいぞ。親を殺せば子が、子を殺せば親が絶望し、恨み、それが瘴気となる」
「ですが、聖女の力さえあれば人間の心の光に頼る必要はありません。人間を生かしておく必要が一体どこにあるでしょう?」
「……」
ヘルマンの言葉にベルードは表情を変えず、じっとヘルマンの顔を見つめる。
「ベルード様、どうかご許可を」
「……いいだろう。ただし、聖女の力の限界がまだはっきりしない。特に瘴気を生み出しそうな人間に限り、暗殺を許可する」
「はっ!」
するとそんな会話をしている二人のところに深淵が近づいてきた。
「嵐龍王の龍核を手に入れたそうではないか」
「……深淵か。何か発見があったか?」
「いや、天魔の首飾りの様子を見に来たのだ」
深淵はそう言うと、ずいと無遠慮にベルードのほうへと右手を伸ばした。するとベルードは天魔の首飾りを深淵に手渡す。
「……順調だな。瘴気もきっちり貯められている」
深淵はそう言ってニヤリと笑うとベルードに天魔の首飾りを返した。
「次はどうするのだ?」
「次、か。そうだな。やはり水龍王か? となるとあの吸血鬼のところだが……」
「聖女との約束があると言っておりましたので、彼の地で水龍王と戦うことは許可しますまい」
「あれを敵に回すのは厄介だな。できれば穏便に済ませたいが……」
ベルードは心底面倒くさそうに表情を歪めた。
「ならば別の龍核を手に入れればいい」
「深淵、どういうことだ?」
「天魔の首飾りの力を高めれば、水龍王の持つ瘴気など容易く奪えるようになる。そうなれば水龍王はただのトカゲ。貴様の相手ではないだろう」
「……だが、他の龍王は行方不明だ」
すると深淵はニヤリと不適な笑みを浮かべる。
「何を言っている? 冥龍王の居場所が分かっているではないか」
「冥龍王? 馬鹿なことを言うな。冥龍王は白銀の里に封じられており、あそこへはエルフでなければ入れん。いくらなんでもエルフと正面から敵対するつもりはないぞ?」
「何を言っているのだ。我々にもエルフがいるだろう。いい加減、あの者にも役に立ってもらう時期が来たのではないか?」
するとベルードはピクリと眉を動かした。
「大人しい魔物たちがどう生きていくのか、その実験の先頭に立っているだけでも十分役に立っている」
「だが、瘴気の問題を解決することのほうが大事ではないか?」
「……そもそも彼女はひどく傷つけられたのだ。無理強いをするつもりはない」
「そうか。ならば何も言うまい」
深淵はくるりと踵を返し、そのまま立ち去っていったのだった。
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お読みいただきありがとうございました。これにて第十三章は完結となります。
本章ではゴールデンサン巫国を出てまだ行ったことのなかったグリーンクラウド王国に渡り、種を配りつつ食事と観光をして過ごしました。
瘴気の問題をどう解決するのかという問題にはまるで答えを出せていませんが、ただでさえ強いシズクさんがエロ仙人のおかげで覚醒し、さらにビビという新たな仲間を加えることができました。
次章では行方の分からない地龍王の封印された場所を求め、ホワイトムーン王国を経由してブラックレインボー帝国へと渡ることになるでしょう。
果たして地龍王の封印された場所は見つかるのでしょうか?
そして瘴気の問題を解決する方法を見つけることはできるのでしょうか?
また、天魔の首飾りを手にしたベルードによって嵐龍王が解放されました。ベルードたちはミヤコに封印された水龍王や白銀の里に封印されていた冥龍王の龍核も狙っており、そちらについても予断を許さない状況になっています。
さて、この後はいつも通りフィーネちゃんたちのステータス紹介と設定のまとめなどをお届けいたします。
なお、第十四章は現在執筆中であり、連載再開には少々お時間を頂戴する予定となっております。お待たせして大変申し訳ございませんが、ご理解いただけますと幸いです。
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