第十一章第32話 セブニッツへ旅路(前編)
「初めまして、聖女様! 私はレジスと申します! セブニッツまでご案内いたします!」
そう元気よく挨拶してくれた彼はこの国の若い兵士だ。
アスランさんたちが帰った後に迎賓館の職員にセブニッツがどこにあるのかを聞いてみたものの、残念ながらその場所を知っている人は誰もいなかった。
だがどうやら職員さんが気を回してくれたらしく、なんと道案内役としてレジスさんを紹介してくれたのだ。
「フィーネ・アルジェンタータです。よろしくお願いします」
「はい! お役に立てるよう精一杯がんばります!」
そう言ってブーンからのジャンピング土下座を決めた。
うーん、6点かな。ちょっと焦りすぎなので、次からはもう少し落ち着いて演技することを意識したらいいんじゃないかな。
「神の御心のままに」
いつもどおり、そんなことを考えているとはおくびにも出さずにレジスさんを起こしてあげる。
「ところでレジスさん、セブニッツの場所を皆さん知らなかったんですけどそんなに遠いんですか?」
「いえ、そういうわけではありません」
そう答えると、レジスさんは少しバツが悪そうな表情を浮かべた。
「ここリルンから歩いて十日ほどなのですが、その、あまりにも小さな村なので知っている人がほとんどいないんです」
「歩くんですか?」
「はい。何せ、深い森の中にあるので……」
なるほど、そういうことか。
「聖女様はまた、どうしてあんな何もない村に行かれるんですか?」
「はい。そこの修道院に用事があるんです」
「修道院?」
レジスさんはそう聞き返すと、少し考えるような仕草を見せる。
「……ああ、きっと教会のことですね。木造の小さな教会ですけど、素朴でとてもいい教会なんですよ! あ! もしや、噂の種をセブニッツにも植えてくださるんですか!? ありがとうございます! ありがとうございます!」
そう言ってまたもやブーンからのジャンピング土下座を決めた。
うん、6点。すぐに改善するのは難しいのかもしれないけど、さっきと同じ演技では高得点をあげることはできない。
「神の御心のままに」
さっさと起こして話を続ける。
「そうですね。立ち寄った場所には植えていますので、セブニッツにも植えていきますよ。それより、修道院ではなく教会なんですか?」
「え? あ、はい。そうですね。でも教会には小さな宿舎があるんです。そこでシスターが寝泊りしていますから、修道院とも言えると思います」
「ああ、なるほど」
ということは、アミスタッド商会会長の娘さんはそこにいるんだろう。
「ところで、レジスさん。早速出発したいのですが、今からでも大丈夫ですか?」
「もちろんです! 道中には魔物も出ますからね! しっかりお守りいたしますよ!」
「え? ああ、はい。そうですね。よろしくお願いします」
こうして私たちはレジスさんに案内され、セブニッツの村へと向かうのだった。
◆◇◆
リルンの町を出て森の中をしばらく歩いていると、だんだんとあたりが薄暗くなってきた。
「聖女様! そろそろ野営の準備をなさいませんと危険です!」
「え?」
私たちは特に疲れていないのでもう少し進むつもりだったのだが……。
うん。そういえばレジスさんは普通の人なんだった。
「ああ、そういえばそうでしたね。じゃあ、今日は早めに休みましょう。あ、あそこでいいですかね?」
「はい、フィーネ様。問題ないと思います」
「わかりました」
近くの平らになっている場所に私は結界を張ると、収納からテントを取り出してクリスさんに渡す。
するとクリスさんは手慣れた手つきでテキパキとテントを張っていき、ものの数分でテントが完成した。
「ちょっと早いですけど、食事にしますか」
「はい」
「ごはん♪」
続いて私は収納の中からスープの入った鍋とたき火セットを取り出してセットする。するとすぐにクリスさんが火打石で火をつけてくれた。
暖かい炎がスープの入った鍋を加熱し、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「え? え? え?」
レジスさんが唖然とした表情で私たちのほうを見ている。
「どうしましたか?」
「あ、いえ……」
「レジスさん、テントは張らないんですか?」
「あ! は、はい! そうでした!」
言われてようやく思い出したのか、テントを張り始めた。
うーん? 何に
「姉さま! 食べましょうよっ!」
「そうですね」
私はスープを自分の器に盛り付けた。
ちなみに食べる量がみんな違うため、最近はもう各自で欲しい量を自分で取っていくようになっている。
「いただきます」
こうして私たちは一足先にちょっと早い夕食をいただく。
そうこうしていると、なんとかテントを張り終えたレジスさんがやってきた。
「そこの鍋から欲しい量を取っていってください。パンはありますか?」
「っ! ありがとうございます! パン! あります!」
レジスさんは自分の荷物から堅パンを取り出した。それからスープを自分の器によそい、祈りを捧げてから食べ始める。
「う、うまい! 聖女様! 滅茶苦茶美味しいです! まさか野営でこんなにうまいスープが食えるなんて!」
レジスさんは大げさに感激しているが、ただのごった煮のスープだ。味付けだってお塩だけなので特別に美味しいというわけでもないだろうに。
そんなことを思いつつも、私はスープをもう一口、もう一口といただくのだった。
================
次回更新は通常どおり 2022/06/26 (日) 19:00 を予定しております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます