第十一章第28話 聖女の審判(前編)
2022/06/16 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2022/06/17 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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「これより、聖女フィーネ・アルジェンタータ様による審判を開始いたします」
エルムデン裁判所の第一法廷でリヒャルドさんの裁判をやり直すかどうかの審判が始まった。
第一法廷の傍聴席には数多くの見物人が詰めかけてきており、なんと立ち見も出ているほどぎゅうぎゅうになっている。
「本審判はラインス商会会長リヒャルド・ラインスによる殺人事件について、冤罪の
呼ばれた私は席から立ち上がり、にっこりと微笑む。
「そして今回は、聖女様ご自身の手で公開尋問を行われます」
すると傍聴席がどよめいた。
「静粛に!」
木のハンマーのようなものでカンカンと叩き、その音に法廷はシン、と静まり返る。
「本件の判決について説明します」
それから裁判官の口から事件のあらましと、リヒャルドさんが殺人を指示したことで処刑を待つ身であることが説明された。
「本日の尋問は二名の証人に対して行われます。まず一人目は、判決を下した裁判官のパウルです」
それを聞いた瞬間、傍聴席が再びざわつき始める。
「静粛に!」
再び木のハンマーのようなものでカンカンと叩いて音を鳴らす。
「パウル裁判官、あなたは聖女様の御前において嘘偽りなく証言することを誓うか?」
「ち、誓います」
青ざめた様子のパウルさんがなんとかそう答える。
「それでは聖女様、どうぞお願いいたします」
「はい」
私は席から立つと、パウルさんの前に歩いていった。
「パウルさん」
「は、はい……」
絞り出すようにそう答えはしたものの、パウルさんは俯いて床を見ている。
「パウルさん、私の目を見てください」
「……」
じっと黙ったまま床を見ていたが、パウルさんはおずおずと私の目を見てきた。
その瞬間に私は【魅了】を発動し、同時にパウルさんが素直に話したくなるようにと念じながら【闇属性魔法】を発動した。
「あ……」
「パウルさん、すべて正直に話してくれますね?」
「……はい」
パウルさんは虚ろな目でそう答えた。
どうやらうまく掛かったようなので、私は準備していたことを聞いていく。
「パウルさん、リヒャルドさんが犯人であるという直接の証拠はありましたか?」
「……いいえ」
「それでは、どうしてパウルさんはリヒャルドさんが犯人だと断定したのですか?」
「……被告人には動機があり、もっともそれらしい人物だったからです」
「ですが、リヒャルドさんはヨハンさんに言われて実行犯の男と会ったと証言したことを知っていますよね?」
「……はい」
「どうしてヨハンさんが関わっている可能性があるとは考えなかったのですか?」
「……ヨハン殿が支援してくれたおかげで、病気の妻の薬が買えているからです。ヨハン殿がいなければ、妻の薬が買えなくなってしまいます」
「嘘だっ!」
パウルさんの爆弾発言に傍聴席から怒鳴り声が聞こえ、傍聴席が一気に騒がしくなる。
「静粛に!」
裁判官さんがカンカンと何度も音を鳴らすが、収まらない。
「鎮静」
私は法廷全体に鎮静魔法を掛けて落ち着かせる。
「ではパウルさんはヨハンさんからお金を貰っていたので、ヨハンさんが不利にならないようにしたということですか?」
「……はい」
「それはヨハンさんの指示ですか?」
「……いいえ」
「なるほど。わかりました。これでパウルさんへの尋問を終わります」
私は【魅了】を解除した。するとパウルさんはすぐに顔面蒼白となり、がっくりと両膝を床について天を仰ぐ。
「わ、私はどうしてしゃべってしまったのだ……」
そんなパウルさんに私はそっと声をかける。
「病気の奥さんは私が治療してあげます。ですから、これからも事実をきちんと話してくれますね?」
「っ!」
パウルさんの目が見開かれ、ボロボロと涙が零れ落ちる。
「せ、聖女様! も、申し訳ございませんでしたーっ!」
膝を突いている状態から無理やりブーンからのジャンピング土下座のような何かを決めた。
ええと、これはちょっと膝を突いているところからスタートしているし、採点はなしかな。
ともかく、パウルさんはきっとこれで反省してくれたことだろう。
だがまだあともう一人、重要人物が残っている。次の人の尋問に移ろう。
「パウルさんへの尋問を終わります」
「かしこまりました。これにてパウル裁判官の尋問を終了します。証人、退廷!」
裁判官が慌てた様子でカンカンと叩いて退廷を促すが、パウルさんは土下座をしたまま動く気配がない。
「聖女様、あの……?」
裁判官から遠慮がちに声をかけられ、私ははたと気が付いた。
そういえばパウルさんを起こしていない!
「ええと、神の御心のままに」
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次回更新は通常どおり、2022/06/16 (木) 19:00 を予定しております
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