第十一章第11話 爆発する岩(前編)
突然の爆発に、会場は騒然となった。
「会場の皆さん! どうぞご安心ください! 現在係員が状況を確認しています! 落ち着いてご着席ください!」
司会の人がアナウンスしているが、逃げようとする人々を落ち着かせることはできていない。
「ご安心ください! この会場には聖女様がいらっしゃいます! 歴代最高の聖女であるフィーネ・アルジェンタータ様のいらっしゃるこの会場がもっとも安全な場所です!」
それを聞いた人々は落ち着いて席に戻る……かと思われたが、なんとパニック状態のまま私のいる貴賓室のほうへと押し寄せてきた。
このまま近寄られたら結界を張ることになってしまい、そうなればアイロールの二の舞になってしまうかもしれない。
「ええと、鎮静」
私はパニックになっている人たちに鎮静魔法をかけた。すると人々は一斉に立ち止まる。
「ううん、ここにいると逆に危なかったりしませんか?」
「そうですね。我々も森の中へ向かったほうがいいでしょう。もしかすると怪我人が出ているかもしれません」
「……姉さま、どうするんですか?」
ルーちゃんは買ってきた食べ物と私を交互に見ながら尋ねてきた。
「そうですね。ここにいてもパニックになった人が来たら大変ですし、戻ってきたら食べましょう」
私は収納に食べ物をしまうと、席から立ち上がった。
「出番でござるな」
そう言ってシズクさんはすぐさま貴賓室から会場へと飛び降りた。それに続いて私も飛び降り、クリスさんとルーちゃんが後に続く。
「えっ? 聖女様!?」
着地した先にいた係員の人が私を見て驚いている。
「ちょっと森の様子を見てきますよ」
「ええっ!? 聖女様、いけません!」
そう言って止めようとしてくるが、私のAGIは並みの人間をはるかに上回っている。そんな私を止めることなどできるはずがない。
サッと脇をすり抜けると、シズクさんの後を追って森へと向かうのだった。
◆◇◆
爆発現場に到着したが、どうやらかなりの規模の爆発だったようだ。
爆心地と思われる場所は小さく抉れており、爆発の影響で円状に草木がなぎ倒されている。
「これは一体?」
「どうなっているでござるか?」
ドォォォォン!
わけのわからない状況に困惑していると、再び爆発音が聞こえてきた。
慌てて伏せて爆風をやり過ごすと、クリスさんたちが追いついてきた。
「フィーネ様! ご無事ですか?」
「はい。なんとか」
クリスさんは安堵の表情を浮かべ、周囲を警戒する。
だが爆発を起こした犯人は分からない。
「……え?」
ルーちゃんが一人で困惑した表情を浮かべた。
「ルーちゃん?」
「あ、はい。えっと、魔物がいるみたいなんです。それで、その魔物が自爆してるって精霊が……」
「自爆?」
「はい。たくさんいて、このまま爆発されたら森が……」
自爆する魔物?
「それはもしや、マインロックのことか?」
クリスさんが難しい表情でルーちゃんに尋ねる。
「マインロック?」
ルーちゃんはその言葉に聞き覚えがないのか、キョトンした様子で聞き返す。
「ああ、そうだ。人の顔ほどの大きさの岩の魔物だ。地面の上を転がって移動し、人が近くを通ると自爆するという伝説の魔物だ。大魔王のいた時代に存在したと伝えられていて、てっきり想像上の魔物だと思っていたが……」
「特徴が一致するでござるか?」
「ああ、そうだ」
クリスさんが神妙な面持ちで頷く。
「……えっと、はい。岩の魔物が爆発しているみたいです。人間が近くを通ると、爆発しているみたいです」
な、なんて厄介な魔物なんだ。
「ルーちゃん、どれくらいいるか分かりますか?」
「え? えっと……いっぱいいるみたいです」
な、なるほど。少なくとも一匹や二匹というわけではないようだ。
となると、選手を早く会場に戻さないといけないだろう。
あとはどうやって倒すかだけど……とりあえず結界で包んでおけばいいかな?
「ルーちゃん、その魔物のところに案内してもらえますか?」
「えっ? あたしたちが近づいたら自爆されるんじゃ……」
「結界でどうにかなりますよ」
「……はい。わかりました」
それからルーちゃんに案内してもらい、森の中を進んでいく。やっぱり精霊の助けを借りられるルーちゃんがいると森での移動は本当に楽ちんだ。
そうして歩いている間にも、森のあちこちで爆発が発生する。
きっと犠牲者が出ているのだろう。
だが聞こえてくる声から察するに、どうやら選手たちは自主的に森から避難を始めたようだ。
それに、森の入口のほうからは大声で退避を呼び掛ける係員の声がかすかに聞こえてくる。
全員を助けられるわけではないし、うまく避難してくれることを願うしかない。
そうして森の中を歩いていると、草をかき分け歩く二人の選手を見つけた。
「アニキ、逃げたほうがいいんじゃないっすか?」
「うるせえ。こういうときこそチャンスってなもんだ」
どうやら避難せずに狩りを続けるつもりのようだ。
「姉さま。あいつらの行く先に魔物がいるそうです」
「あ、はい」
私はとりあえず彼らの前に防壁を作り出し、その進路を遮った。
ごつん、という音と共に前を歩いているアニキと呼ばれた男が盛大に顔面をぶつけ、その場に蹲った。
「ア、アニキ?」
「ぐおぉぉぉ、いってぇ。なんだこりゃ? ここになんかあるぞ? こんのっ!」
見えない防壁を触って確認したアニキさんは顔面をぶつけた怒りをぶつけるかのごとく、思い切り防壁を蹴り飛ばした。
「いってぇぇぇぇぇぇ! なんだこりゃ?」
つま先を押さえ、アニキさんは地面をのたうち回る。
「あの、すみません」
「あ゛あ゛!?」
ものすごい形相でアニキさんはこちらを睨んできた。
「すみません。これ以上進むと危険です。この森の中には正体不明の魔物がいるようですので、早く会場に戻ってください」
「なんだぁ? 俺が優勝すんのが気に食わ――」
「アニキ! ヤバいっすよ! この人、聖女様っすよ!」
「あ? はぁぁぁぁぁぁ!? なんでそんな偉い聖女様がこんなとこにいんだよ? おかしいだろうが!」
「せ、聖女様。アニキがすいやせん」
そう言ってブーンからのジャンピング土下座を決めた。
勢いは良かったけど、フォームが崩れすぎている。五点かな。もう少し基礎練習からしっかりやったほうがいいと思う。
「ほら! アニキも!」
「お、おう……」
アニキさんも渋々といった様子でブーンからのジャンピング土下座を決めた。
勢いもなければフォームもダメダメだ。これでは予選落ちだろう。まずはやる気を見せるところからスタートしたほうがいいのではないだろうか?
そうだね。三点かな。
「神の御心のままに」
いつもどおりの言葉で私は彼らを立たせてやるのだった。
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次回更新は通常どおり、2022/05/08 (日) 19:00 を予定しております。
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