第十章第44話 王都へ
私たちを乗せた船は順調に航海を続け、およそ五日間かけてイザールからセムノスへと到着した。
航海の途中で多くの魔物に襲われはしたものの、私の結界が破られることは一度もなかった。
またルーちゃんとマシロちゃんによる風の操作は結界を使っていたとしても有効だった。おかげで常に追い風の状態を保つことができ、前回と比べてもかなりの時間短縮に繋がった。
そうしてセムノスの沖合へとやってきた私たちの船をホワイトムーン王国の軍船が取り囲んだ。
「そこの船! 所属と目的を明らかにせよ!」
「我々の船籍はイザール首長国、船名はアリーヤ号だ。聖女フィーネ・アルジェンタータ様の護送を仰せつかっている!」
「なんだと!? そもそもイザール首長国などという国があることを我々は認識していない」
ああ、なるほど。最近独立したからまだイザールはイエロープラネット首長国連邦の一部だと思われているようだ。
「何を言うか! 我々は聖女様を無事にセムノスの港に送り届けるという使命があるのだ!」
「そちらこそ何を言うか! 臨検をさせてもらうぞ!」
「ふざけるな! 聖女様の船になんたることを!」
あれ? 何やら険悪な雰囲気になっているぞ?
だがこんなところで揉めている場合ではない。急いで王都に戻らなければいけないのだ。
「あの? こんにちは?」
私は大声で怒鳴っている船員さんの隣に立つと、横づけしようとしてきているホワイトムーン王国の船の船員さんに声をかける。
「あ? なんだ? え? ……クリスティーナ様!? ではまさか本当に聖女様なのですか!?」
いつの間にか私の隣に立っていたクリスさんを見て、ホワイトムーン王国の船員さんたちの態度が一変する。
うーん。やっぱりクリスさんは有名人だね。
「し、し、失礼いたしました!」
「お前たち。すまないが急ぎ陛下に奏上しなければならないことがあるのだ」
「ははっ! もちろんです! 我々が港までご案内いたします!」
完全に手のひらを返したホワイトムーン王国の船に導かれ、私たちはセムノスの港へと入港したのだった。
◆◇◆
クラウディオさんへの挨拶もそこそこに、私たちは大急ぎで王都へと出発した。もちろんイエロープラネットで起きた一連の出来事は全て説明し、その緊急性を理解してもらったうえでの行動だ。
ちなみに、一緒に来てもらったルマ人の皆さんのお世話はまたしてもクラウディオさんにお願いしておいた。このお願いをするのは今回で二回目だし、きっと上手くやってくれることだろう。
それから、近隣の町や村にも植えて欲しいとリーチェの種をいくつか渡しておいた。これもきっと上手くやってくれるに違いない。
そんなこんなで馬車を飛ばし、私たちは王都が見える場所へと戻ってきた私の目に飛び込んできたのはあの巨大な赤い竜が王都向かって飛んでいる姿だった。
「え? そんな! 炎龍王が王都に!?」
思わず馬車から身を乗り出した私を騎士の人たちが慌てて制止する。
「聖女様。危険です。おやめください」
「そんなことを言っている場合じゃありません。急いで王都まで行ってください!」
「え? な? まさか、あれは竜ですか!? 危険です。竜と戦うなど!」
騎士の人たちも竜に気付いたのか、慌てて馬車を停車させてしまった。
「え? ちょっと! 何をしているんですか!? 早く行かないと!」
「とんでもございません。聖女様を竜の前に立たせるなど!」
「フィーネ様。動かないのであれば走ってでも向かいましょう!」
「そうですね」
「な! クリスティーナ殿!?」
「フィーネ様は聖女であらせられる。それに我々もついているのだ。たとえ竜が相手であろうとも守るのが我々聖騎士の成すべきことだ」
「……かしこまりました。それで飛ばします。しっかり
騎士の人たちも覚悟を決めた様子で、馬車を全速力で走らせてくれた。いくら高級馬車といえども、このスピードで走るとドシンドシンと揺れる。おかげで少しお尻が痛くなりそうだが、それでも私は外の様子が気になって仕方がない。
それに王都には親方と奥さんもいるのだ。なんとしてでも守らなければ!
私は馬車の外から戦況を見守っていると、ついに戦闘が始まった。
弓矢や魔法で攻撃を仕掛けたようだが炎龍王には効果がなかったようで、たった一発のブレスで何十人もの騎士が一瞬にして倒されてしまった。
それから炎龍王は見たこともない禍々しい黒いブレスを吐き出した。そのブレスは対峙している騎士たちを飲み込み、そして王都の南部にまで到達した。
あ! あのあたりにはジェズ薬草店もあるのに!
さらに驚いたことに炎龍王は衝撃波のようなものを発生させ、魔物を生み出したではないか!
「クリスさん! 今! あいつが魔物を! 見ましたか?」
「すみません。私の目ではあれほど遠くまでは……」
「ギリギリ見えたでござるよ。しかし、魔物を生み出すとは驚きでござるな。ん? 騎士たちの様子がおかしいでござるな。一体どうしたでござるか?」
「え?」
シズクさんに言われて騎士たちのほうに集中しようとしたところで視界が途切れてしまった。
丘を下りきり、平地となってしまったため南の平原までの視界が見通せなくなってしまったのだ。
「何があったんですか?」
「いや。前線に出ているというのに騎士たちが何かに怯えていたように見えたでござるよ」
「怯える? でも、やっぱりあれだけ大きな竜の前に立てば誰だって怖いのではないですか?」
「いや、そんなことではなく、心底怯えていたように見えたでござるよ。ただ、拙者はフィーネ殿ほどは目が良くないでござるからな。見間違いかもしれないでござる」
「この王都を守るのは第一騎士団だ。ユーグ殿の叔父であるアラン殿が率いる精鋭部隊なのだぞ? 守るべき者たちを背に怯えて動けなくなるなど、あるはずがない」
「そうですよね」
なんとなくモヤモヤした感じは残るものの、私たちは全速力で王都を目指すのだった。
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次回更新は通常どおり、2021/12/12 (日) 19:00 を予定しております。
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