第十章第40話 急げ!
「フィーネ様! あれが伝説の炎龍王ですか!?」
「ええと、多分そうなのではないかと思います」
「なんと! では急ぎ戻ってこのことを報せなければ!」
「それよりもフィーネ殿。あの竜は南西に飛んでいったでござるな」
「そうですね」
「南西には何があるでござるか?」
南西? ええと、西はホワイトムーン王国があるから……。
「あ! ブラックレインボー帝国! サラさんが! 早く戻りましょう。それで船を出してブラックレインボー帝国に行かないと!」
「フィーネ殿。落ち着くでござるよ。まず、今から空飛ぶ竜を追いかけたところで追いつけないでござる」
「う……」
「まずはダルハに戻り、ルマ人たちをダルハから逃がすのが先決でござるよ。あのままでは彼らは飢え死にするでござる」
それは、そうだ。ワープでもできない限りあの竜に追いつくことはできないだろう。
それにアービエルさんたちだってあんな状況では蓄えている食糧が尽きたら餓死してしまうはずだ。
うん。シズクさんの言うとおりだ。
「そうですね。分かりました。急いでダルハに戻りましょう」
私たちはサラさんとブラックレインボー帝国にいる人たちを案じつつも、ダルハへと急いで戻るのだった。
◆◇◆
ダルハに戻った私たちはランベルトさんとアービエルさんたちを船に乗せ、大急ぎで出航した。
だが、行き以上にスピードが上がらない。
「クリスさん。もう少しスピードは出せませんか?」
「申し訳ありません。こればかりは風次第でして、今は向かい風ですのであまりスピードが出ないのです」
「そうですか……ん? 追い風になればいいんですか?」
「え? はい。そうですね。追い風になればこのようにジグザグに進む必要はありませんので」
「分かりました。ルーちゃん!」
「はい? なんですか? 姉さま」
「マシロちゃんにお願いして、追い風を吹かせることはできませんか?」
「え? マシロに? はい。頼んでみますっ」
ルーちゃんはマシロちゃんを召喚した。相変わらずの真っ白でもこもこの大きな毛玉だ。
「マシロ。風でこの船、押せる?」
するとマシロちゃんはいきなり強風を吹かせ始めた。
「フィーネ様! お待ちください。まずは無風にしていただいて帆を追い風用にしなければ」
おっと、そうなのか。
「ルミア。もう少し弱い風で頼む。あまり強いと船がもたない」
「はーい」
一度マシロちゃんに風を弱めてもらい、その間に帆を張った。そして再びマシロちゃんが風を吹かせ始める。
先ほどとは違ってやや強めくらいの風が吹き始め、グイグイと船を押していく。
「おお! これはすごい! フィーネ様! 画期的です! まさかこのような船の進め方があるとは!」
クリスさんはかなり驚いているが、私なんかがすぐに思いついたんだからどこかで誰かがやっていそうな気がするのだけれど。
「人間の風属性魔術師ではこうはいきません。このような風を吹かせていればすぐに魔力がなくなってしまいますからね。さすが、風の精霊です」
あ、なるほど。そういうことか。
「ルミア。マシロ。ありがとう。これで早く進めるぞ」
「はーい」
喜ぶクリスさんにルーちゃんはなんとも気の抜けた返事をしたのだった。
◆◇◆
エイブラの港までの航海はたったの四日で終了した。来るときは一週間かかったので、ルーちゃんとマシロちゃんのおかげで三日も短縮できたということになる。
そしてエイブラの港の跡地に拝借した船を係留し、私たちはイザールへと足早に向かった。イザールへの道のりももはや自重などせず、結界の上を全員で歩いてもらった。
そのおかげで本来は四日かかる道のりを三日で踏破した。一日しか減っていないと思われるかもしれないが、ルマ人の皆さんがいるのだ。旅慣れていない彼らを連れているにもかかわらず日程を短縮できたのだから、それだけでもかなりの成果だと思う。
そうして大急ぎてイザールまでやってきた私たちを見て、門番さんは驚いたようだ。
「聖女様!?」
しかしそんな彼の驚きに構っている余裕のない私はすぐさまナヒドさんへの面会希望を伝える。
「すみません。至急、ナヒドさんとお会いしたいのです」
「は、ははっ! かしこまりました! 少々お待ちください」
すると門番さんは大慌てで中へと走っていったのだった。
そのまましばらく待っていると、門番の人が上司らしい人を連れて戻ってきた。
「聖女様。お待たせして申し訳ございません。ただいま馬車を回しておりますので、もうしばらくお待ちください。して、彼らは?」
「生き残りの人たちです。彼らも私と共にホワイトムーン王国へ渡ることを望んでいます」
「……かしこまりました。では、彼らについては聖女様とご一緒に出国なさるということで手配させていただきます」
「ありがとうございます」
それからしばらく待っていると、ホワイトムーン王国の紋章の入った馬車がやってきた。私たちがイザールへ来るために利用していた馬車だ。
その馬車に乗ると、私たちはそのままナヒドさんの待つお屋敷へと向かったのだった。
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