第十章第30話 ベルードvs.炎龍王
ベルードは一瞬にして距離を詰めると目にも止まらぬ速さの一撃を炎龍王に向けて放った。その一撃は完璧に炎龍王の首を捉えたかのように見えたが、その鱗に阻まれ乾いた金属音を立てて弾かれてしまった。
「なんだ!? この硬さは?」
「GRYUAAAAAA!!!」
至近距離からの炎のブレスをすんでのところで躱したベルードに、巨大な尻尾による追撃が襲い掛かった。
「なんの!」
ベルードは黒い靄を身に
「GRYU?」
受け止められたことが意外だったのか、炎龍王は一瞬硬直する。
「動きを止めるなど!」
ベルードは剣に黒い靄を纏わせ、横に一閃した。すると黒い靄は斬撃となって炎龍王を襲う。先ほどの攻撃では傷すらつかなかった炎龍王の鱗だったが、この斬撃を受けた場所の鱗にヒビが入った。
「なるほど。やはり魔法剣でないと通らないということか。ならばこれでどうだ!」
今度は水を剣に纏わせる。
「GRYUAAAAAA!!!」
炎龍王は咆哮と共に再び炎のブレスを吐いた。だが今回は先ほどまでは違い、ベルードが避けたとしてもすぐに次のブレスが飛んできている。
どうやら、一度だけでは躱されるということを学習したようだ。
「チッ。厄介な。ならばこれでどうだ!」
ベルードは移動しながら水の球を次々と炎龍王にぶつけていく。だが炎龍王に怯んだ様子はなく、相変わらずに次々と炎を吐き出し続けている。
「ならば!」
ベルードは突如加速すると炎龍王の足元に潜り込み、すり抜けざまに強烈な一撃を喰らわせた。その一撃は炎龍王の足を切り飛ばす。
「GRYU?」
しかし炎龍王にはこれといって痛がる様子もなく平然としている。それどころか切り飛ばされたはずの足はすぐに元通りに再生してしまった。
「なんだと!?」
「ベルード様! あれは間違いなく進化の秘術を使っております! 我々にあの瘴気を完全に滅する
再生する瞬間を見たヘルマンが慌ててベルードのそばに寄ってきて撤退を提案した。
「だが! こいつをこのまま放っておけば!」
「構いますまい。いずれ勇者が現れ、倒すはずです」
「だが!」
「良いではありませんか。これを機に瘴気の発生源を少々減らせると考えれば悪くはありません」
「……いや、限界まで戦うべきだ。アレが進化の秘術の産物なのだとしたら、どこまでできるのかを確認する意味はあるはずだ」
「……かしこまりました。ですが、どうかご無理はなさらぬよう」
「誰に言っている」
「左様でございましたな」
そうして一礼をしたヘルマンは下がり、炎龍王が生み出した魔物の相手を始める。
「さあ、炎龍王よ。この私が沈めてやる」
そう宣言したベルードの周囲に大量の黒い
「こんなもの!」
ベルードは黒い靄で体を覆うとそのままブレスに向かって突っ込むと、そのままブレスを突っ切った。
黒い靄はベルードの剣に集中し、やがてその刃は黒く輝き始める。そしてその刃は炎龍王の首を完璧に捉えた。
ベルードの一太刀で炎龍王の首は半分ほど切断されたのだが、それでも炎龍王に効いた様子はない。
「なんだと!? これでも効かないというのか?」
「GRYUAAAAAA!!!」
咆哮を上げた炎龍王は翼を広げて大きく羽ばたいた。すさまじい突風が地下のホールに吹き荒れる。
「ぐっ、くそっ」
ベルードは剣を地面に突き立て、飛ばされないように体を支える。そうしている間に炎龍王の体全体が熱を帯びていく。それから大きく息を吸い込み、上に向かって真っ赤な極太のレーザー光線のようなブレスを放った。
そのブレスはそのままを天井に命中した。だが何かが落ちてくる様子もなければブレスが天井を這ってホール中に充満することもない。
やがて炎龍王がブレスを吐くのを止めると、なんとブレスの当たっていた場所から明るい光が差し込んできた。
「まさか……?」
そう。炎龍王はたった一発のブレスで天井に穴をあけてしまったのだ。
炎龍王は翼を広げて飛び立つと、自らが空けた穴から飛び立った。
「ま、待て! まだ勝負はついていない!」
しかし炎龍王はベルードには見向きもせず、そのまま大空へと姿を消したのだった。
◆◇◆
炎龍王の生み出した魔物を退治したベルードとヘルマンはノーラとゲンデオルグの様子を確認した。どうやらかなり激しい戦闘を繰り広げていた様子で、二人とも肩で大きく息をしている。
「いい加減に目を覚ませ! この馬鹿者が!」
「グガァァァァ!」
ゲンデオルグはノーラに向かって一直線に突進していく。
「ノーラ。よくやった。後は任せろ」
身構えるノーラとゲンデオルグの間に入ったベルードはノーラにそう声を掛け、突進してきたゲンデオルグの顎に見事なアッパーカットを突き刺した。
「ガッ!?」
ベルードの強烈な一撃を受けたゲンデオルグは上へと殴り弾き飛ばされた。ゲンデオルグはそのまま炎龍王の空けた穴を通って上空に打ち上げられ、そしてきれいな放物線を描いて地面に落下していく。
ドン、という大きな音ともゲンデオルグは頭から地面に激突し、再び足だけを上に出して砂漠に突き刺さったのだった。
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