第九章第22話 ヨタヨタ鳥
2021/07/08 誤字を修正しました
=========
森の中を探検していると、何やら不思議な生物に出会った。
鳥っぽい気もするのだが、その頭には毛がまったく生えていない。しかも翼らしくものはあるものの明らかに小さいのでとても飛ぶことはできなそうだ、そんな鳥のような生き物が、私たちの目の前を警戒心もなくヨタヨタと歩いている。
「クウ。あれは何ですか?」
「あれはヨタヨタ鳥だワン。いつもヨタヨタ歩いていて、鳥のくせに飛べないんだワン」
「はあ。飛べないんですか?」
「そうなんだワン。あの小さな翼じゃ飛ぶのは無理なんだワン」
「それもそうですね」
「あと、あの鳥は毎日卵を産むんだワン」
「はあ。毎日ですか」
「そうだワン。でも雛が孵るのはたまにだから、ヨタヨタ鳥はしょっちゅう巣を変えるんだワン」
「はぁ」
まあ、確かに毎日卵を産むのにヒナが孵らなかった腐るだろうしね。
って、ん? 毎日卵を産む?
ってことは、このヨタヨタ鳥を飼っていれば毎日卵が食べ放題?
「決めました。このヨタヨタ鳥を捕まえて村で飼いましょう」
「え? この鳥を食べるのかワン? 前に食べてみたけど美味しくなかったワン」
「違いますよ。卵を食べるんです」
「えっ? 卵? 卵って食べられるのかワン?」
「食べられないんですか?」
「だって、いなくなった巣に残っていた卵は腐った匂いがしていたワン」
「……それは、腐っていたのでは?」
「えっ?」
「だって、ヨタヨタ鳥がいなくなった巣に残っていた卵なんですよね?」
「そうだワン」
「ということは、孵化しないで残っていた卵なんですから、腐っているに決まってるじゃないですか」
「そうなのワン? フィーネは賢いワン!」
「ええぇ」
◆◇◆
そんなこんなで私たちは生きているヨタヨタ鳥を捕まえて村へと戻ってきた。
「おかえりー、あれ? ヨタヨタ鳥なんか捕まえてどうしたんだニャ?」
「ちょっとこの子を飼ってみようと思うんです」
「ニャ? 食べられないのに飼うニャ? フィーネは物好きなんだニャ」
「ふふ。ちょっと考えがあるんです」
「ニャニャ。そうなのかニャ? でもフィーネの考えならすごいに決まってるニャ」
「うまくいったら教えてあげますね」
「楽しみだニャ」
それからカリンやクウと別れて自宅へと戻った私は、家の中にヨタヨタ鳥を放すと扉を閉めて庭へと回った。
そしてヨタヨタ鳥が逃げ出せないように庭を囲っている柵の目を細かくする。ここでも【土属性魔法】が大活躍だ。レベルが1なせいで一度に変形させられるのは握りこぶしくらいしかないが、有り余る MP のおかげでサクサクと進んでいく。温泉づくりをしていたときで作業自体に慣れていたのも大きいかもしれない。
こうして夢中になって作業を進め、あっという間に柵の改修工事を終えた。
「はい。出てきていいですよ」
扉を開けてしばらくすると、ヨタヨタ鳥がよたよたと歩いて出てきた。
うーん。こんなによたよたと歩いていて、野生の鳥としては大丈夫なんだろうか? 卵を狙う小動物とかいなかったのかな?
◆◇◆
翌朝、目が覚めた私は早速庭へと出てみた。庭ではヨタヨタ鳥がよたよたと庭を散歩していた。
庭に生えていた雑草を食べた形跡があるのでエサは与えなくても大丈夫かも知れない。
一安心した私は、昨晩ヨタヨタ鳥が丸まっていた庭の隅を調べてみた。するとなんと! そこにはニワトリの卵を二回り大きくしたような卵が転がっていた。
手に持ってみるとずっしりとした重さを感じるが、クウの言っていたような腐った匂いはしない。
うん。これなら生で食べるのは無理でもゆで卵や目玉焼きには使えるんじゃないかな?
そう考えた私は早速村の共同かまどへと向かう。
「フィーネ。おはようゴブ」
「おはようございます」
「それは何ゴブ?」
「昨日捕まえてきたヨタヨタ鳥が産んだ卵です」
「ヨタヨタ鳥の卵? あれは腐った匂いがして食べられないゴブよ?」
「そんなことないですよ。ほら」
差し出した卵の匂いをヴェラがくんくんと嗅いで、不思議そうな表情を浮かべた。
「ゴブ? これは腐った臭いがしないゴブ。どうしてゴブ?」
「新鮮な卵だからですよ。今日は試しにこれでゆで卵を作って食べてみようと思います」
「ゆで卵……美味しいゴブ?」
「それは食べてみないと分かりません。でも、ニワトリのゆで卵は美味しいですよ」
「そうゴブか」
そして私はヴェラと一緒に共同かまどへとやってきた。
ここには村の共同財産として私の提供した鍋や包丁などの調理器具が置かれているのだ。
その中から私はお鍋を一つ取り出して洗浄魔法できれいにし、その中へ【水属性魔法】で水を入れてかまどの上に置く。お鍋の中に採れたての卵を割れないように静かに入れたら後は【火属性魔法】で火をつけたかまどの上に乗せて待つだけだ。
「どのくらいで出来上がるゴブ?」
「うーん? どうでしょうね。沸騰してから十分くらい、ですかねぇ」
「そうゴブか。楽しみゴブ」
それから十分が経った、かどうかは時計がないので定かではないが、何となくもう良いような気がしたので卵を取り出した。
「できあがりゴブ?」
「多分。あとは水で冷やしてっと」
「どうして水で冷やすゴブ?」
「え? これから食べるのにこのままじゃ熱くて持てないじゃないですか」
「それもそうゴブ」
そして十分に冷えたら後はこの卵を割って、お塩を付けて食べるのだ。
私は卵を持ち上げると近くの岩に叩きつけた。
すると、「ゴン」と何か硬いものと硬いものをぶつけたような鈍い音がした。
え? ゴン?
慌てて卵を確認してみる。
するとなんと! 卵にはヒビが入るどころか、表面に傷すらついていなかった!
な、なるほど。これだけ硬い卵なら他の小動物に食べられる心配はないだろう。
「フィーネ?」
「いえ。思ったよりも硬かったのにびっくりしただけです」
「そうゴブか。それで食べられるゴブ?」
「今度はちゃんと割りますよ。えい!」
ガン!
先ほどよりは強く叩きつけたのだがやはり割れる気配はない。
ならもっと強く!
ガン!
かなり強く叩きつけたつもりだったのだが、やはりまったく傷ついていない。
だったら全力で!
「えい!」
ベシャッ。
「あ……」
「潰れたゴブ……」
やりすぎてしまったらしい。せっかくのゆで卵がぐっしゃりと潰れてしまった。
ま、まあでも割れたしね。
そう気を取り直して手に持ったゆで卵を確認してみると、何と殻の厚さが1cmほどもあった。
なるほど。これは硬いはずだ。次からはのこぎりを用意したほうが良いかもしれない。
ちなみに潰れたゆで卵は普通のゆで卵の味がした。
これなら食用にできるんじゃないかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます