第九章第13話 魔物の暮らす村

2021/07/08 誤字を修正しました

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「おおい。聞こえているかニャン?」

「え? あ、はい。聞こえています。まさか猫? が喋るとは思わなかったものでつい、びっくりしてしまいました」

「ニャン? 猫じゃないニャン。アチシはジャイアントジャガーだニャン」

「え?」


 ええと? 魔物? 随分と小さいような?


 ジャイアントジャガーって、ブラックレインボー帝国で見たときは5メートルくらいなかったっけ?


「あ。ええと、もしかして、赤ちゃんのジャイアントジャガーは喋るんですか?」

「ニャ? アチシは大人だニャ。失礼だニャ」

「そ、そうでしたか。すみません。失礼しました」


 うーん? これは一体?


「それより、あんたは誰ニャ?」

「え? ああ。ええと、私はフィーネ・アルジェンタータといいます」

「何しに来たんだニャ?」

「実は船が沈没してしまいまして、それでこの島まで流されてきたんです。どうにか帰る方法を探しているんですが……」

「それは大変だったニャ。ここはアイリスタウン。見ての通り何にもない町だニャ」

「はぁ」


 町というには小さいような?


 って、あれ? 立札の「ァィリヌ夕ゥソ」って……。


 はぁ。何だか脱力してきた。


 これは気にしたら負けな気がする。


 何しろ第一村人発見かと思ったらしゃべる魔物だったのだ。


「ゆっくりしていくといいニャ。アチシはこのまま日光浴の続きをするんだニャ」

「はぁ」


 するとこの小さなジャイアントジャガーは私に向けていた頭をこてんと倒すとそのまま目を閉じた。


 ええと? ゆっくりしていってと言われたんだし、入って良いんだよね?


 気持ちよさそうにお昼寝するジャイアントジャガーを起こさないようにそっと歩きだす。


 作物が育てられていない畑の間を歩いていると木の柵で囲われた場所が見えてきた。そしてその柵の隣にはオークが立っている。


 オーク……だよね?


 どうにも体が小さい気もするが、あれはオークのはずだ。背丈が私と同じくらいしかないが、二足歩行しているのだから間違ってもただの豚ということはないだろう。


 そしてオークのそばにある木の柵で囲われた場所の中には……数頭の豚がいる。


 ええと? オークが豚を飼っているの?


 私は近寄って声を掛けてみた。


「あの、こんにちは」


 私の声に気付いたオークは私のほうへと向き直った。


「あ、あ、あ、あ、こ、こ、こ、こん、こん、こん、こんに……」


 何だか、ものすごくどもったあとそのまま固まってしまった。


 でもこれはきっと挨拶を返そうとしてくれたんだよね?


「私はフィーネ・アルジェンタータです。船が沈没してしまい、流されてこの島にやってきました。少しの間お世話になります」

「あ、あ、あ……」


 オークは何かを言おうとしたがそのまま固まってしまった。


 ええと、どうしよう?


 このまま立ち去るのも何となく間が悪いような気もするけれど……。


 そんなことを思っていると目の前のオークから寝息が聞こえてきた。


 いつの間にかオークは目を閉じており、鼻提灯を膨らませている。


 おお、すごい。こんなに見事な鼻提灯は初めて見た気がする。


「ええと、おやすみなさい」


 立ちながら眠るという器用なことをやってのけたオークの前からそっと立ち去ると、そのまま集落の中へと進んでいく。


 すると今度は広場のようになっている場所にやってきた。犬が三匹かけずり回っている。どれも私の膝くらいの背丈なので中~小型犬といった大きさだ。


 一匹はシベリアンハスキーのような毛並みで残る二匹は普通の狼のような毛並みだ。


 ということは、この子たちも狼の魔物で喋るのかな?


 私は思い切って声を掛けてみる。


「こんにちは」


 私の声に反応したのか、追いかけっこをしていたワンちゃんたちがビクンとなって止まって私のほうを見た。


 次の瞬間、シベリアンハスキーのようなワンちゃんは目を見開くとものすごい勢いでこちらに向かって走ってきた。


「え?」


 ものすごい、尻尾を振っている。


「くーんくーんくーん」


 このワンちゃんはまるで甘えるかのように鼻を鳴らし、後ろ脚で立ち上がると私の太ももに前脚をついてのしかかろうとしてきた。


「ええと? はい。よしよし」


 私は屈んでその首をぎゅっと抱きしめて撫でてあげようとしたが、そのままこの子は顔を近づけるとペロペロと私の顔を舐めまわしてくる。


 うわっぷ。そんなに舐めまわさなくても……。


 もしかするとこのワンちゃんたちは魔物ではなく普通の犬なのかもしれない。


 そんなことを考えていると残る二匹が私のほうへと歩いてきた。


「お客さんにいきなり飛びかかるのは良くないんだワン」

「そうだバウ。離れるバウ」


 あ、やっぱり喋った。


 だがテンションが上がっているのか、ハスキーのようなワンちゃんの舐めまわし攻撃は留まるところを知らない。


 そのまま顔中をべとべとにされたところでようやく私は攻撃から解放されたのだった。

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