第八章第24話 ワイナ・エンテスの戦い

2021/03/30 誤字を修正しました

2021/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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それから一週間後、私たちは 500 の兵士を引き連れてラヤ峠の砦を出発した。このままマライ攻略を行うためだ。


ラヤ峠からマライまではこのペースで五日ほどの道のりだという。


本来であればベレナンデウアを攻めるホワイトムーン王国の艦隊ときっちり示しを合わせて行動したほうが良いのだろうが、電話などという便利なものがないためそれは難しい。


だが、逆算するとおよそこのくらいの時間に出発すればベレナンデウアにホワイトムーン王国の艦隊が攻め込むのと私たちがマライの町に到着するのが同じくらいになるのだそうだ。


私にはそういった細かいことはよく分からないので、まずはマライを取り返す戦いに集中したいと思う。


あの非道なアルフォンソを野放しになどしておけない。そのためにはサラさんに皇帝となってこの国を立て直してもらわなければ困るのだ。


それに何より、ユーグさんを取り返すのだ。私のたった一人の友達の婚約者にちょっかいを出したことを必ず後悔させてやる!


そんな決意と共に私は街道を進む。


いくつかの登り降りを繰り返しながらも進むたびに少しずつ高度が下がっていき、徐々にではあるが高く成長した木も見かけるようになってきた。


そうして三日ほど歩いた私たちは少し早いが森の中で野営を行うこととなった。なんでも、この先は少し険しい地形となっており、ワイナ山とエンテス山という二つの山の間の峠越えという難所が待ち構えているそうだ。


この難所を越えればマライの町まであとは坂を下るだけらしく、とても重要な場所でもある。


「順調ですね」

「はい。愚兄もまさか自分が撤退してすぐに砦が抜かれてるなどとは思ってもいないのではないでしょうか?」

「……だといいですけど」


これがフラグにならなければよいのだが。


そんな会話をしつつも天幕がテキパキと張られていき、私たちは食事の準備に取り掛かろうとしたちょうどその時だった。


「敵襲!」


誰かの鋭い声が聞こえてきた。それからすぐに先頭の方で剣のぶつかる音が聞こえてくる。


「状況は?」

「それが、何者かの襲撃を受けているようです」


サラさんが近くの兵士に状況を確認させているが、どうやらきちんと状況を把握できていないようだ。


「んー、囲まれてるみたいですっ」


どうやらルーちゃんは精霊に確認したようだ。そして次の瞬間、迂回したと思われる敵部隊が私たちをめがけて突撃してきた。


「おっと?」


私はとりあえず彼らの前に防壁を設置した。すると突然現れた防壁に進路を塞がれた形になった敵部隊は思い切り防壁に激突し、いつか見たような将棋倒しが発生する。


うん。いきなり止まるのは危険だよね。


そして私は将棋倒しになって倒れている彼らに浄化魔法を放つとそのまま塵となって消滅した。


残るは後ろで将棋倒しに巻き込まれなかった黒兵だけのはず……。


おや? 何人か消滅していない兵士もいるようだ。


「ば、ばか、な……」


将棋倒しに巻き込まれた兵士の一人がそう言いながらよろよろと立ち上がる。


どうやら黒兵をあっさりと倒されたことが信じられないのだろう。呆然と立ち尽くす敵兵はあっという間に私たちの兵士によって取り押さえられ、残りの黒兵たちも浄化魔法を付与した剣の前に塵となって消滅した。


「フィーネ殿。また呪いがあるかもしれないでござるよ」

「ああ、そうですね。解呪」


すると確かに手応えと共に呪いが解かれ、呪いが解けた敵兵はそのまま気絶した。


「はあ。どういう呪いなのかはわかりませんが、本当にアルフォンソは性格が悪いんですね」

「……愚兄が申し訳ございません」

「いえ、サラさんのせいではないですよ。サラさんはこうして頑張っていますから」

「……ありがとうございます」


サラさんは複雑な表情でそう返事をしたのだった。


◆◇◆


それから三十分ほどの時間が経った。戦闘はまだ続いているが、どうやら私たちが押しているらしい。


私たちを襲ってきた敵部隊はおよそ 1,000 ほどで、その九割以上が黒兵だったらしい。


黒兵が相手であれば私たちの兵士の方が戦闘能力でいえば上なのだ。しかもこちらは私とシャルが怪我人を片っ端から治療しているため倒れた兵士が再び前線に復帰してくるというあちらのお株を奪うゾンビ戦法ができる。


それに対してあちらの自慢の黒兵は浄化魔法によってあっさりと塵と化す。


当初は倍近い兵力に押され気味だったもののその差は徐々に埋まっていき、やがて逆転した。


こうなれば後はこちらが一方的に敵兵を蹂躙していくだけだ。


さらに三十分ほどの時間が経つと私たちを襲ってきた敵部隊は全滅し、生き残った敵兵も私が呪いを解いてやるとそのまま気絶したのだった。


ちなみに私たちの被害は重傷者 21 名に軽症者が 83 名だったが、私とシャルで手分けをして治療したため実質的に被害はゼロだった。


◆◇◆


その後ルーちゃんが森の精霊にお願いして周囲を確認してもらい、敵兵の姿が無いことを確認した私たちは捕まえた敵兵の尋問を行った。


とりあえず私たちは捕虜を収容している天幕の外で聞き耳を立てているのだが……。


「聖女は力を使えないって話だったのに。くそっ! 騙された」

「一体どうなってるんだ!」

「すんげぇ美人をヤれるって聞いてたのによぅ」


なるほど。どうやらこいつらは自発的に私とシャルを攻撃することに加担していたらしい。


「不愉快な輩ですわね」

「そうですね。アルフォンソは呪いが上手くいったと思っているんでしょうね」

「申し訳ございません。あの者どもにはきちんと罰を受けさせます」

「サラさんが謝ることではないですよ」

「……ありがとうございます」


きっと、あんなのでもサラさんにとっては自分の民ということなのだろう。私がもし同じような状況になったとき、サラさんのように振る舞えるかと問われればその自信は無い。


やはり人の上に立つ人というのはそうあるべくして人の上に立っているのだろう。


アルフォンソにしろ、イエロープラネットの人たちにしろ、サラさんのああいう姿勢を見習ってほしいものだ。


その後も尋問は続いたがこれといった情報は得られそうもなかった。きっと、ただの捨て駒だったのだろう。


こうして私たちは彼らと話すことなくそれぞれの天幕へと戻ったのだった。

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