第八章第22話 ラヤ峠の戦い
それから数日が経過し、シャルはようやく以前の調子を取り戻してくれた。
きっと、ユーグさんを取り戻すということで何とか気持ちを奮い立たせているのだろう。
シャルの気持ちを思うとなんとも胸が締め付けられる思いではあるが、それでも塞ぎこんでいる姿は見たくない。
「フィーネ。峠の砦を攻めますわよ」
「え? サラさんはまだ来ていませんよ?」
「いえ、待つ必要はありませんわ。フィーネと貴女の聖騎士たちがいるのなら心配は無用ですわ。むしろアルフォンソが出てきた場合、普通の兵士は足手まといにしかならないのではなくて?」
「それは……」
私もそんな気はしていた。死なない兵士、じゃなかった黒兵だけを相手にするのなら普通の兵士たちでも何とかなるだろう。だが、相手にシズクさんやクリスさんのような強者がいた場合は無駄に死者が増えるだけなのではないだろうか。
そしてシャルたちがやられたときの状況を考えると少なくともユーグさんが操られて再び私たちの前に立ちはだかったとしても不思議ではないだろう。それにユーグさんがホワイトムーン王国で戦った相手もアルフォンソの切り札として残っている可能性がある。
「そう、ですね。少し様子見をしてみましょう」
「ええ。威力偵察ですわ」
シャルはそう言うとテキパキと指示を出していくのだった。
****
そして翌日、私たちは 30 人ほどの兵士を引き連れてラヤ峠へとやってきた。
そこには堅固な砦が峠の鞍部をせき止めるかのように鎮座しており、ネズミ一匹通さないというブラックレインボー帝国の強い決意を感じさせる。
そんな砦の前に私たちは堂々と姿を現す。すると砦からは矢が射掛けられてきた。
もちろん私は結界でその矢を防ぐ。
雨あられのように矢が降り注いでいるが、この程度は全く問題にはならない。
あれ? これってむしろ矢を大量に貰えてラッキーまであるのでは?
矢に呪いが込められていたり毒が塗られていたりするかもしれないので浄化、解呪、洗浄の三点セットできれいにしてから次々と収納に放り込んでいく。
「フィーネ? 一体何をしているんですの?」
「どうせなら矢を回収しようと思ったんです。ちゃんと洗ってから収納しているので問題ないと思いますよ?」
「……まあ、そうですわね。敵の武器を消耗させることは正しいですわね」
そういってシャルは呆れたようにため息をついた。
あれ? これってそんなに非常識なのだろうか……。
それからしばらくして矢が尽きたのか、砦から黒兵の軍団が出撃してきた。
その数はおよそ 200 くらいだろうか?
私たちに向かって一直線に進んできた。そしてある程度距離が詰まったところでシズクさんが飛び出すと瞬く間にそれを蹴散らした。
あとは私が倒れた黒兵をサクッと浄化してやると 200 ほどいた黒兵は文字通り塵となった消滅した。
うーん。対処方法が分からなければ大変だろうが、こうなってしまうとはっきり言って普通の兵士の方が強いんじゃないだろうか?
浄化するのは私じゃなくても良いわけだしね。黒兵にはあまり理性があるようには見えないということもあり、浄化魔法が付与された剣を装備していればサラさんの兵士たちであっても何の問題なく倒せるのだ。
そうしていると今度は砦の扉が固く閉ざされた。
「籠城するつもりのようですわね」
「扉を斬れば良いでござるよ」
「え?」
シャルは何を言っているのか理解できない様子で聞き返したが、シズクさんは単身で扉の前に突撃すると目にも止まらぬ連撃を放ち扉を粉々に切り刻んだ。
「な……」
シャルは口をあんぐりと開けて絶句する。
「シズクさんはああいう人ですから」
「そ、そうですのね」
「はい。うちの自慢の攻撃担当です。さあ、私たちも行きましょう」
私たちはこうして砦の内部に突入すると、待っていたシズクさんと合流して黒兵たちを次々と塵へと変えていく。
クリスさんも砦の中ではエタなんとかを使って黒兵を倒していく。
連れてきた 30 人の兵士たちも浄化が付与された剣を手に黒兵たちを倒していき、そのままあれよあれよという間に砦の内部を制圧してしまった。
こうして私たちは一切の被害を出さずにラヤ峠の砦を占領することに成功したのだった。
あ、あれ? 偵察のつもりだったのに?
いや、うん。まあいいか。
ほら。ええと。何と言うかその、シズクさんって反則だよね。
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