第八章第3話 護衛騎士
「フィーネ、聞きましたわよ? あなた、イエロープラネットから民を何万人も連れてきたそうですわね?」
作戦会議が終わり、出発に備えて自由時間となった私にシャルが弾んだ様子で話しかけてきた。
「え? 3,000 人もいませんよ?」
「大勢連れてきた事には変わりませんわ。既に貴族たちはあなたに恩を売るために奔走してましてよ? 同じ救うにしてももう少し考えて行動してほしいものですわ」
「あはは。すみません」
「まったく。わたくしはあなたの心配をしているんですわ。あなた、国中の貴族たちから狙われているのを忘れたんですの?」
ごめんなさい。その時は全く考えていませんでした。
そんな私の表情から察してくれたのか、シャルはふにゃりと表情を緩める。
「まあ、あなたが考えなしなのは前からですものね」
それについてはぐうの音も出ない。ミイラ病だってシャルがいてくれなければどうにもならなかったしね。
「ところでシャル。そこの二人の騎士さんは?」
「ああ、そうでしたわね。紹介しますわ。わたくしの左の彼はリシャール、右の彼女はエミリエンヌですわ。二人ともガティルエ家の騎士でわたくしの護衛騎士ですわ」
そうシャルが紹介すると二人は私に跪いて騎士の礼を取った。
「聖女フィーネ・アルジェンタータ様。シャルロットお嬢様の護衛騎士、リシャールでございます」
「同じく、護衛騎士のエミリエンヌでございます」
「フィーネ・アルジェンタータです。よろしくお願いします」
それから私は二人にクリスさんたちを紹介したが、どうやらクリスさんの事は知っていたようだ。何やら楽し気に会話を交わしている。
「シャル。護衛騎士というのは何ですか?」
私がそう尋ねると一瞬驚いたような顔をして、それからいつもの表情に戻る。
「フィーネはこういった事には疎いんでしたわね。わたくし達貴族はいつ誰に狙われるかわからないので、専属の護衛を雇うのですわ。その護衛たちのうち王国の騎士団に所属する者が護衛騎士ですわ」
うん? よく分からないけど、国が貴族の人を護衛する騎士を貸し出してくれているってこと?
「ああ、その顔はよく分かっていない顔ですわね。何が分からないんですの?」
「ええと、どうして王国の騎士なのに貴族の専属の護衛なんですか?」
「それはこの国の騎士団が元々は貴族たちの私兵だったからですわね。それを国王陛下のもとにまとめたのが今の騎士団なのですけれども、貴族と騎士の間で交わされた誓いを破ることはできませんわ。そこで、一部の騎士は護衛騎士として主と見定めた貴族の身の安全を護る役目を担うことが伝統になっているんですの」
「なるほど。じゃあ、リシャールさんとエミリエンヌさんはシャルが子供のころからずっと護ってくれていたんですか?」
「もちろん。わたくしの自慢の護衛騎士たちですわ。ユーグ様が聖騎士となってわたくしを選んで下さるまでずっとわたくしを護ってくれていたのですわ」
そこまで一気に言うとシャルの顔が曇ってしまった。やはり、ユーグさんの事が心配でたまらないのだろう。
でも、いや、だからこそこうして昔の護衛騎士の二人が再びシャルのところにやってきてユーグさんを奪還する手伝いをしてくれているのだろう。
聖騎士であるユーグさんが敗れた相手と敵地で戦うかもしれない危険な任務なのにこうして嫌な顔一つしていないのはやっぱりすごいと思う。
うん。やっぱりシャルは愛されているよね。
****
「拙者はシズク・ミエシロ。聖女フィーネ・アルジェンタータ様の剣でござる。いざ尋常に、勝負!」
「騎士リシャール、参る!」
リシャールさんは剣を抜くとシズクさんへと突進する。そして目にも止まらぬ速さのシズクさんの抜刀からの一撃がリシャールさんを捕らえた。
「なっ!? がっ」
リシャールさんは一切反応できずにその場に崩れ落ちた。
「リシャール!」
「峰打ちでざるよ」
慌てて駆け寄り治癒魔法をかけるシャルにシズクさんがそう言うが、あまり大丈夫そうに見えない。
まったく、シズクさんは。
あ、ちなみにここはお城の訓練場だ。シズクさんが二人と手合わせをしたいと言い出し、そしてリシャールさんもものすごく乗り気だったのでこの場所を借りて試合をしたのだ。
したのだが……まあ、なんというか予想通りの結果になった。
でもさ。シズクさんとまともに戦える相手なんてもう人間にはいないんじゃないかな?
だって、あの強い将軍と戦って勝った時よりも更にレベルアップしているんだよ?
最近は本気のシズクさんを目で追うことすらできないし。
やっぱり存在進化というのはすごいチートだと思う。いくらステータスが半分近くになるとはいえ、レベル 1 からやり直せるというのはあまりにも大きい。
「う、お嬢様。ありがとうございます。シズク殿、私の完敗です。よもやここまで差があるとは……」
シャルの治癒魔法で何とか回復したリシャールさんが悔しそうにそう言った。
「いや、でも踏み込みは中々だったでござるよ? また手合わせを願いたいでござるなよ」
「は、はは。お手柔らかにお願いしますよ?」
シズクさんは楽しそうに言うが、リシャールさんの顔は引きつっていた。
まさかここまで差があるとは思っていなかったんだろうね。
ちなみにこの後にエミリエンヌさんもシズクさんと手合わせをしたのだが、今度はシズクさんが攻め込んで一瞬で勝負がついてしまった。
やる前から分かってはいたとはいえ、あまりにも一方的な結果に終わってしまった。
二人とも自信を喪失していなければいいけれど。
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