第七章第39話 疑問

「ここです!」


サラさんがまたも筋肉魔法、じゃなかった【土属性魔法】で壁を殴って破壊した。その先にはぽっかりと空洞が口を開けている。


「私の占いによると、ここを左に行けば出られるようです」

「流石ですね」


私達は浄化魔法の明かりを頼りに暗闇の中を進んでいく。ここは人が掘った跡があるので人工的に作られたもののようだ。天井も低いので背の高いシズクさんとクリスさん、そしてサラさんは腰をかがめなければいけないのでかなり大変だろう。


そんな狭い道を歩き続けていると、遠くに階段が見えてきた。


「出口、ですかね?」

「かもしれません」


そして私たちは警戒しながらゆっくりと階段を登る。耳を澄ますが階段の上の方からも後ろからも音は聞こえない。


「大丈夫そうでござるな」

「はい」


そうして階段を登りきると何かの建物の中に出てきた。周りの壁は全て日干し煉瓦で出来ている。


「どうやら、町の外に出たでござるな」


あれ? どういうこと?


「フィーネ様。おそらく、私たちが今通ってきた通路は大統領や首長が緊急時に脱出するための通路だったのだと思います」

「なるほど。占いというのはすごいですね」

「いえ、いつもはこれほど当たることはないのですが。その、何故か聖女様のお力になるための占いだけはよく当たるのです」


え? 何それ? もしかしてあのハゲたおっさんが何かしているのかな?


「それだけフィーネ様は神の寵愛を受けていらっしゃるという事なのでしょう」


いや、あのハゲたおっさんの寵愛はちょっと……。


ま、まあ助かったんだけどさ。ただどうにも良い印象がないと言うか。向こうも良い印象はないだろうしね。


「フィーネ殿。何やらルマ人達が妙なことになっているでござるよ」

「どういうことですか?」


外を確認して戻ってきたシズクさんに思わず私は聞き返す。


「外に危険はない故、出て確認すると良いでござるよ」

「はぁ」


私はシズクさんに促されて建物の外に出た。


ああ、ええと、うん。何であんなに人数増えてるの?


そう。かなりの余裕を持って張ったはずの結界の中はルマ人たちですし詰め状態になっていたのだ。


まあ、確かにルマ人以外は通り抜けられない結界を、と思って張ったけどさ。あのルマ人達は一体どこから来たんだろうか?


そしてその周りを兵士たちが取り囲んでいる。私の結界を壊そうと攻撃している者もいるようだ。


「ええと、あれどうしましょう? やっぱり」

「フィーネ様。私たちには点にしか見えません。一体何が起きているのですか?」

「え? ああ、そうでした」


私は見えていないであろう 3 人に状況を伝える。


「なんと。そのような状況になっているのですか」

「とりあえず、行ってみるしかないのではござらんか? 見捨てるという選択肢は無いでござろう?」

「そうですね。出来れば穏便に済ませたいんですけど……」

「難しいでござろうな……」

「でしょうね」


私の言葉にシズクさんとクリスさんは渋い表情を浮かべる。


「えー? 全員やっつけちゃえばいいんじゃないですか?」

「ルーちゃん、さすがにそれはちょっと……」

「え? 何でですか? あいつらはエルフの女性を無理矢理奴隷にしてましたし、ルマの人達にも酷いことをしているじゃないですか。悪いことをしている魔物を殺すのは良くてどうして悪いことをしている人間は殺しちゃいけないんですか?」

「それは……」


確かに、ルーちゃんからしてみれば人間も魔物も異種族だ。しかもルーちゃんは父親を殺されて無理矢理奴隷にされ、家族をバラバラに引き裂かれている。


ええと、どうしよう。


私が答えに窮しているとサラさんが代わりに答えてくれた。


「ルミア様。人間が人間を殺めるという事は神によって罪であるとされています。それに何より人間同士が社会を作って生きる以上、人間が人間を殺す事を容認しては社会が成り立ちません。そのため私たち人間は王を頂き、道を踏み外した者のみを処刑するのです」

「え? じゃあ人間がエルフを殺すのは良いんですか? あたしのお父さんは人間に殺されたのに!」

「いえ。そういう事ではありません。人間の社会に生きる以上は人間のルールに従う必要があるのです」

「でもあの人達はルマの人達を殺して土地を奪ったんですよね? どうしてあの人たちは良いんですか?」

「それは、もうエイブラは新しい王を頂き新しいルールが作られたからです」

「じゃあ、ルマの人達がエイブラの人達を殺して新しい王様になればいいんですか?」

「それは……」


何だか珍しくルーちゃんが執拗に食い下がっている。もしかすると、ルマ人たちの境遇とエルフの置かれている状況を重ねて見ているのかもしれない。


「ルーちゃん。今エイブラの人達を殺してしまえば余計な遺恨を産むことになりますし、今の人達はバルトロさんが生きていた時にはまだ生まれていません。まずは、ルマ人の皆さんを連れて逃げることを第一に考えましょう」

「むうぅ。姉さまがそう言うなら分かりました」


ルーちゃんは納得していないという表情をしているが、私だってやりきれない思いだし何が正解なのかは分からない。


ただ、なるべく人が傷つかないように、血が流れないで済むようにはしたいと思う。


そんな事を思いつつ、私たちはルマ人達のもとへと急ぎ向かうのだった。

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