第七章第35話 砂漠を往く
2021/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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アービエルさんと話をした翌日、私たちはヒラールさんに事情を説明して希望者をそのまま連れて行くことを伝えた。ヒラールさんの表情はかなり引きつっていたが、さすがに昨日の交渉があるため反対まではされなかった。
ただ、「穢れの民を船に乗せることはできない」と言われてしまったので、私たちは砂漠の縦断を余儀なくされてしまった。
「やはり、子供や老人もいるゆえラクダが必要でござるな」
「そうですね。お願いできますか?」
「任せるでござるよ」
「あとは……あ、地図ですかね?」
「海岸沿いを北に進めばシャリクラに着きますから、ここで無理をして地図を手に入れる必要はないでしょう。食料はアイロールで買い上げた物があるので問題ありませんが、水はフィーネ様お一人の【水属性魔法】に頼るわけには参りません。今のうちに用意したほうが良いでしょう」
「それもそうでござるな。それならフィーネ殿も一緒に来て、水を入れた樽を収納に入れて欲しいでござる」
「分かりました」
こうして私たちはルマ人たちを連れ出す準備を着々と進めたのだった。
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「聖女様。この者たちが聖女様とサラ様と共に参りたいと希望する者たちでございます」
そうして紹介されたのはおよそ 100 人前後で、子供と女性の割合が多いように見える。
「男の人は、あまり希望しなかったという事でしょうか?」
「……はい。ここでの仕事がある者はすぐに移住ということは難しく」
「ではアービエルさんも?」
「はい。ワシはこの場に残ろうかと思います」
「そうですか」
そう言ったアービエルさんは少し悲しそうな様子だが、その眼には力強い意志が宿っている。
きっと、取りまとめる立場になると責任のようなものもあるのだろうし、いくら酷い環境でも長年暮らした場所を去るというのは難しいのかもしれない。
「聖女様。どうか、皆をよろしくお願いいたします」
「はい。それでは皆さん。出発しましょう」
こうして私たちはルマ人の皆さんを連れてダルハの町を出発した。そこにはハーリドさんと、そして私たちと一緒の船に乗っていた兵士が数人が一緒について来ている。
これはきっと私の護衛という事なのだろう。
砂漠を縦断するとは思っていなかったであろうハーリドさんには悪いとは思う。だが知ってしまった以上、私はこの人たちを放っておくことなどできるわけがない。
昨日手配したラクダの背に小さい子供や体の弱っている人を乗せ、私たちは砂漠の海岸線を一歩ずつ、しっかりと歩き続けるのだった。
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「せいじょさまっ!」
「イドリス君。こんにちは」
「こんにちはっ!」
休憩の時間にイドリス君が元気に挨拶をしてくれた。イドリス君の隣には少しだけ顔色の良くなったお母さんの姿がある。
「イドリス君のお母さんも、少しお元気になられたようで何よりです」
「そんな! こんなにして頂いて! 神に感謝を」
イドリス君のお母さんがブーンからのジャンピング土下座を決める。やはりずっと体調が悪かったせいか動きにキレがない。 5 点かな。
って、今はそんなことをしている場合じゃない。
私はいつものセリフで立ち上がらせる。するとそれを見ていた周りの人たちがバラバラとブーンからのジャンピング土下座を次々と決める。
うん、バラバラだしこれはちょっと点数が、って、だから違う!
私が皆さんを立ち上がらせていると、シズクさんが声をかけてきた。
「おーい、焼けたでござるよ?」
変なことをしている間にいつの間にやら肉の焼けたいい匂いが漂っている。
「わぁ、いいにおい!」
いつの間にかシズクさんのところに駆け寄っていたイドリス君が目をキラキラと輝かせている。
「こらこら。あまり近づくと危ないでござるよ?」
そう言いながら、シズクさんは焼けたビッグボアのお肉をお皿に盛るとイドリス君に手渡す。
「え? これ、たべていいの?」
「もちろん。これは全部食べて良いでござるよ」
「わーい!」
そうしてそのまま手でつかんで口に放り込むと幸せそうな表情を浮かべた。そしてそれを見た周りのルマ人たちがシズクさんのところへと殺到しようと動き出す。
「結界」
私は事故を避けるためにかなり広く結界を張って彼らの動きを阻害する。
「え?」
「な? 見えない壁が?」
「そんな!」
落胆の表情を見せる人もいれば結界に驚いている人もいるが、こんなところで将棋倒しの事故を起こさせるわけにはいかない。
「みんな、落ち着くでござるよ。十分な量の肉はある故、一人ずつ並ぶでござる」
そう言ってシズクさんの隣に積まれた肉の山を見せると彼らはようやく落ち着きを取り戻したのだった。
ちなみにこの肉は全てアイロール産のビッグボアのお肉だ。全てあの時の
その時は折角狩ったのにお金がもらえないハンターが可哀想だと思ったのと、食べられるものを捨てるのはもったいないと思っての事だったのだが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
人生、何が起こるか分からないものだ。まあ、私は吸血鬼だけどね。
こうして腹を満たした私たちは、シャリクラを目指して再びゆっくりと砂漠を北上するのだった。
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