第三章第20話 イァンシュイの休日(後編)
「姉さまっ! お昼にしましょう!」
どうやらルーちゃんは私のために色々と買ってきてくれたらしい。結界を解除するとルーちゃんを私の隣に招き入れる。
「羊の串焼き、揚げラクダ肉のイァンシュイソースがけ、肉豆腐と野菜の餡かけ麺、それに豚肉のマントウです!」
「ルーちゃん、ありがとう」
次々と屋台グルメを敷き布の上に並べていくルーちゃんに私はお礼をいう。
「ルーちゃんは食べ歩きに行ったんじゃなかったんですか?」
「いっぱい食べてきましたけど、姉さまにも美味しいものを食べてもらおうと思って買ってきました!」
「そう、ありがとう。でもこんなに食べきれないからルーちゃんも一緒に食べてくれますか?」
「はいっ!」
ルーちゃんは素敵な笑顔を浮かべて元気よく返事をしてくれた。
私はルーちゃんチョイスの絶品屋台グルメを味わう。どれもなかなかの味だ。マントゥと聞いてノヴァールブールでのイマイチな味を思い出したが、ここのマントゥはとても美味しかった。きっとノヴァールブールのものもこちらから流れてきたのだろう。
「姉さま、何の書物を読んでいたんですか?」
「四龍王の伝説の本を読んでいました。他にも色々買いましたが、ルーちゃんも読んでみますか?」
「美味しいものがたくさん載っている書物はないんですか?」
「え? いえ、それは買っていませんね。これを食べたら見に行きますか?」
「行きますっ!」
「お料理の本も買いましょうか?」
「え? もしかして姉さまがあたしに料理を作ってくれるんですか? 嬉しいですっ!」
ちょっと待て、どうしてそういう発想になった?
「そういうわけではなく……」
ん? いや、待てよ? 料理に魔法の効果を付与出来たら面白いかも?
「あ、意外と面白いかもしれませんね。試してみましょうか」
「やったぁ! 楽しみにしていますねっ!」
****
それから私たちは書店に再び向かい、追加でいくつかの書物を購入すると宿へと戻ったのだった。
そして買ってきた書物を読んでいるとクリスさんが大慌てで部屋に飛び込んできた。
「ああ、良かった。フィーネ様。公園にいらっしゃらなかったので肝を冷やしました」
「あ、そういえば……。心配をかけてごめんなさい。ルーちゃんがお昼を持ってきてくれて、そのまま一緒に宿まで帰ってきてしまいました」
「いえ、ご無事で何よりでした」
確かに、黙っていると伝えた場所からいなくなるのは良くなかった。
「そうそう、クリスさん。クリスさんにこれを買ってきましたよ」
そう言って私は入門書を手渡す。
「これは?」
「聖属性魔法の入門書です。今日、書店で見つけました。クリスさんも聖属性魔法で浄化が使えるようになれば幽霊も怖くなくなるんじゃないですか?」
「……フィーネ様っ!」
クリスさんが感極まったような表情をしている。
「この職業大全という書物に聖騎士のことも載っていました。これによると、聖騎士に適合するスキルは【剣術】【槍術】【馬術】【魔法剣】【聖属性魔法】【身体強化】と書かれています。これまで【魔法剣】と【聖属性魔法】を使ったところは見たことないのでクリスさんはまだだったのかなって思いまして」
「フィーネ様っ! ありがとうございます! 精進して必ずや【聖属性魔法】を使えるようになってご覧に入れますっ!」
「はい、頑張ってくださいね」
クリスさんはやる気満々な様子だ。案外近いうちに習得できるんじゃないか?
「姉さま、その職業大全にはどんな職業が載っているんですか?」
「有名なのは大体載っているみたいですね。ルーちゃんは弓士でしたよね?」
「そうですっ」
「【弓術】のスキルレベルを 3 に上げると上位職の狩人になれて、狩人になると【隠密】【気配察知】【身体強化】のスキルが追加で適合するみたいです」
「おー、すごいですっ!」
「私の治癒師の上位職は司祭だそうですが、司祭になると私の場合は【身体強化】が新しく覚えられそうです。司祭になるには【回復魔法】のスキルレベルが 3 あれば良いみたいです。あれ? ということは私って実はもう転職できる?」
「フィーネ様、前にもお話したかもしれませんが転職するにはレベルを 20 まで上げる必要があります」
ああ、そう言えばそんなことを前に教わった気がする。今の私はレベルいくつだっけ?
ステータスを開いて確認すると、レベル 15 となっていた。
「そうでした。私はレベルが 5 足りませんね。残念です」
「あと 5 ですね。それでしたら、そろそろ身体強化の練習を始めても良いかもしれませんね。今度お教えします」
「ありがとうございます」
「その代わりと言っては何ですが、よろしければ【聖属性魔法】を教えて頂けませんか?」
「え? あ、はい。参考になるかはわかりませんが私でよければ」
「えー、いいなー、あたしも姉さまに何か教えて欲しいですっ!」
ルーちゃんが謎なことを言い出した。
「でも、適合する職業じゃないとスキルは覚えられないみたいですよ?」
「それでも何か教えて欲しいんですっ!」
「じゃあ、料理を……」
「それは姉さまに作ってほしいんですっ」
料理を作らないということに関して妥協する気はないらしい。
まあ、そうは言ったものの私もそんなに料理が得意なわけじゃないからあまり高度なことを期待されても困るわけだが。
「じゃあ、あたしが食材を取ってくるから姉さま作ってください。共同作業です!」
あれ? いつの間にか趣旨が変わっているぞ?
「あたし、副職業を漁師にします。だから、姉さまは付与師の修業が終わったら調理師にしてください」
「ええっ?」
ルーちゃんが職業大全を見て漁師を指さす。
ええと、なになに、「漁師は船に乗り海産物を獲る職業です。【操船】【漁業】【水産物鑑定】【水泳】【船酔い耐性】のスキルが適合します」だそうだ。
なるほど。ルーちゃんが船酔いに強くなるのは良いことかもしれない。
「付与師の次は魔法薬師なので、仮に調理師にするにしてもその後ですよ」
「わーいっ、約束ですよっ!」
いや、調理師にするかどうかは決めていないのだが。
とはいえ、当分先だしまあ良しとしよう。
そんな会話をしていると部屋の扉が開かれた。
「おお、三人とも戻っているでござるな。明日は早めに出発したほうが良いかもしれないでござるよ」
最後に戻ってきたシズクさんは開口一番、そんなことを言いだした。
どうやら何か良くない情報を掴んできたようだ。
そう思って身構えた私たちだったが、シズクさんの口から語られた内容に唖然としてしまったのであった。
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