第二章第33話 封印されしモノ
「まずは、この里の成り立ちについて話すとするかのう」
そう言うとインゴールヴィーナさんは不思議な香りのするお茶を口に含む。この里で採れるハーブを使ったお茶で、リラックスできる作用があるらしい。
「この里はのう、元々はエンシェントドラゴンが一柱、冥龍王ヴァルガルムを封印するために作られたのじゃ」
「なっ! 冥龍王ヴァルガルム!?」
クリスさんが驚いている。
「クリスさん、知っているんですか?」
「もちろんです。今から三千年程前に暴れまわったと言われている伝説の存在です。なんでも闇属性を司る龍の長で、世界中に闇とアンデッドを撒き散らして災厄をもたらした恐ろしい存在です。伝説によると、当時の勇者達によって討伐されたとされていましたが」
「ふむ。おおむね正解じゃ。じゃが、討伐はできなかったのじゃ。儂も当時の聖女も奴を消すだけの力がなくての。それでこの極北の地に封印し、儂がその封印守として残ったというわけじゃ」
おっと、さらっと三千歳を超えてます発言を頂きました。エルフの寿命まじヤバい。
「ええと、その仕事というのは?」
「うむ。最近結界がゆるんできておってのう。あまり放っておくと分体くらいは出てきてしまうかもしれんのでそろそろメンテナンスをしようと思っておったのじゃ」
「つまり、結界のメンテナンスを手伝え、と?」
「その通りじゃ。とりあえず、ビョルゴルフルと一緒に様子を見てきてほしいのじゃ」
「わかりました」
私はそう言うとインゴールヴィーナさんは満足そうに頷いた。
****
「この階段を降りれば封印の祠だ」
私たちはビョルゴルフルさんに案内されて封印の祠があるという洞窟へと潜った。クリスさんとルーちゃんは一緒に着いてきたが、リエラさんは家を整えると言って里に残った。
里からは歩いて 30 分ほど、洞窟も一本道なので迷うことはなさそうだ。私たちは足元に注意しながら長い階段を降りる。
階段を降りた先には半径 30 メートルはゆうにあろうかという巨大なドーム状の空洞となっており、その中心に小さな祠が立てられている。さらにその祠を囲う様に一辺が 30 メートルほどの正方形の石畳が整備され、その四隅には石柱が立てられている。
そして、その石柱の一つに体長 4 メートルくらいはあろうかという黒いドラゴンがかじりついて壊そうとしていた。
あれ? ヤバいんじゃない? 封印解けてるっぽいんですけど?
「なっ、もう冥龍王が出てこられるほどに封印がゆるんでいたとは!」
わー、馬鹿! 大声出したら気付かれる!
私は慌てて大声を上げたビョルゴルフルさんの口を抑えたが時すでに遅かった。冥龍王はこちらを見ると大きく息を吸い込み、そして咆哮を上げる。
「うっ」「ひぃっ」「くっ」
三者三様の声を上げる。ビョルゴルフルさんとルーちゃんは完全に怯えて尻もちをついてしまっている。クリスさんは少し震えているようだが、聖剣を抜き構えを取っている。
「今のは一体?」
「フィーネ様、平気なのですか? 今のは
「あー、うるさかったですもんね」
「うるさいで済ませるフィーネ様は流石です」
まあ、【状態異常耐性】のスキルレベル MAX ですからね。
「それよりもビョルさんとルーちゃんを何とかしないと」
「一旦撤退しましょう」
そうクリスさんが言った瞬間、冥龍王が口を開く。
「まずい、ブレスが!」
クリスさんが叫んだ瞬間、黒いブレスが私たちに向けて放たれる。
「防壁!」
私は急いで【聖属性魔法】の防壁を展開する。黒いブレスが私の作った防壁とぶつかり突風が巻き起こる。30秒ほどブレスを防ぎ続けると、ブレスが止んだ。
そしてもう一度咆哮を上げる。
「ひ、ひいぃぃ」
ビョルゴルフルさんが役に立たない。冥龍王を封印した人の息子だというのに。震えてないでなんかしてくれ。
「姉さま、ごめんなさい。もう大丈夫です。あたしも戦います!」
ルーちゃんも震えてはいるが、立ち上がって弓を手に持っている。
すると、私たちの様子をジッと見ていた冥龍王の体から黒い霧のようなものが吹き出してきた。そしてそれは徐々に形を作り、黒いスケルトンとなっていく。凄まじい数だ。ざっと 50 匹はいるのではないだろうか。人、獣、トカゲ、様々なスケルトンが私たちを見ている。
「浄化!」
私はこの空間いっぱいに浄化魔法を展開する。私の放った光はスケルトン達をまとめて浄化して消し去った。
「う、MP が……」
さすがにこの数をまとめて浄化すると MP の消費が激しい。私は久しぶりに MP 回復薬を呷る。最近は出番がなかったが、王都での修羅場を思い出す懐かしい味だ。
私のその様子を見ていた冥龍王はもう一度大量のスケルトンを作り出した。これで完全に振り出しに戻ってしまった。
「厳しい、ですね……」
そう、このまま消耗戦をしていては負けが見えている。どうにかして本体を叩かなければ!
焦る心を押し殺し、恐怖を振り払うように私は冥龍王を睨みつけた。
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