第二章第24話 救出作戦
ゴーン、ゴーン
午前 10 時の鐘が鳴る。エルムデンの町にあるバティーニュ商会とアミスタッド商会の関連施設、そしてランベール・バティーニュの本邸、それと郊外にある別邸に一斉に衛兵たちが突入した。私たちも観光のふりをして何食わぬ顔で本邸の前に乗りつけ、衛兵たちと一緒に突撃した。
「な、なんだ! 貴様ら! ここがバティーニュ様のお屋敷と知っての狼藉か!」
「衛兵隊だ。無駄な抵抗はやめろ! ランベール・バティーニュには違法に奴隷を買い取り、使役している疑いが持たれている。そして隷属の呪印を解呪頂くために聖女様もご同行頂いている。全員動くな!」
「……何……だと……」
「突入!」
衛兵たちが門を蹴破り敷地内へと突入する。突入した衛兵たちは瞬く間に庭を制圧すると、全ての門を塞ぐ。そして正面玄関を蹴破ると屋敷の中へと一気に突入する。私たちもその後に続く。
「全員動くな。衛兵隊だ。違法奴隷売買および使役の罪で家宅捜索する!」
屋敷の中ではあちこちから悲鳴が上がる。あまりの出来事に驚いて泣き出すメイドさんもいる。
「そこのメイド、ランベール・バティーニュ容疑者の下へ案内しろ!」
「は、はいぃ」
突入隊の中でもちょっと偉そうな人――突入隊長と呼ぶことにしよう――がたまたま居合わせたメイドさんに命令して案内させる。メイドさんはびくびくと怯えた様子ながらも私たちを屋敷の奥へと案内する。
私たちは豪華な内装を施された階段と廊下を抜け、三階の奥までやってきた。
「お待ちください。旦那様は今お休み中でございます。準備ができるまでお待ちください。いきなり押しかけるなど失礼でございます!」
「容疑者の家を捜索に来るのに事前通告するバカがいるわけないだろう。庇い立てするというなら貴様も犯人隠避の疑いで拘束する!」
執事さんっぽい服装の人の抗議を突入隊長が一蹴する。そりゃそうだわな。事前通告したら証拠隠滅し放題だもの。
執事さんはすごい目で私たちを睨むが、私たちに道を空ける。
いやいや、そんな目で睨まれても奴隷なんて買う方が悪いんじゃないかな?
買うアホがいるから誘拐して売るようなクズが出てくるわけで。
私もイルミシティで未遂だけど乱暴されかけたし、被害者の気持ちはわかっているつもりだ。
──── 女性の尊厳を踏みにじるような真似は許さないよ?
「こちらでございます」
メイドさんに案内されて辿りついた先は豪華な扉の前だ。扉の向こう側からくぐもったような男性のうめき声が僅かに聞こえてくる。
──── ここにルーちゃんのお母さんが……
「……姉さま」
不安そうに私を見るルーちゃんの右手をぎゅっと握り、大丈夫だよ、と頷く。
「突入!」
突入隊長さんの指示で扉を開くと、衛兵たちが一気に突入していく。
「動くな! ランベール・バティーニュ、貴様を奴隷売買及び使役の罪でたい……ほ……?」
「ああ、ああっ、女王様、お願いです! もっと……もっと叩いてください!」
「あらあら? 豚が何をぶーぶー言ってるのかしら? もっと大きな声で――」
バタン。私たちは扉を閉めて部屋の外へと出る。
うん? なんだか聞こえてはならない声が聞こえたような?
そーっと扉を開けてもう一度中の様子を覗き見る。
「女王様! お願いします! もっと、もっと激しく鞭で叩いてください!」
パシーン、パシーン
情けない絶叫の後に鞭が肉を打つ音、そして男のうめき声が聞こえる。
バタン。私は再び扉を閉じるとルーちゃんを見る。
「ああ、お母さんここでもやってたんですね……」
ルーちゃんが複雑な表情をしながら呟いた。
そうだよね。自分のお母さんが無理やり変態プレイをさせられているなんてショックだよね。
おのれ、許すまじ。
って、ん? ここで「も」?
「お母さん、死んだお父さんといつもああいうことしていたんです。あれは愛し合う夫婦がする行為で、子供ができるって聞きました。隷属の呪印で逆らえないとはいえ、見ていられません。お願いします。早く助けてあげてください」
おいおい、エルフの性教育はどうなっているんだ?
気を取り直して再度部屋に突入する。
「あなた、目隠しした上にパンツ一枚で縛られて鞭で打たれるのが趣味なんて、この豚! 変態ね!」
パシーン
痛そうな音が響くと同時にうめき声が上がる。ベッドは奥まった場所に置かれているため私の立っている場所からはその様子を直接見ることはできないが、声と音だけで想像がつく。
「ああ、そうなんです! 変態なんです! なのでもっとお仕置きしてください」
パシーン
ええと、どうしよう?
「だからお待ちいただくよう申し上げたのです。あの女エルフが来てからと言うもの、旦那様はあのように狂ってしまいました。しかもあの女が一人で二十人分の食事を食べるので家計も苦しく。我々使用人一同としては早く引き取って頂きたいくらいでございます」
「ええぇ」
執事さんから発せられた言葉に私は絶句した。
なんだかもう、エルフのイメージが……
「旦那様、女王様、衛兵の方たちがお見えです。どうか一度おやめください」
「ああぁぁ、鞭で打たれるところを見られるなんて――」
パシーン
う、この匂いはまさか……。
「あの、ええと、外で待っているので落ち着いたら呼んでください」
どうにも居たたまれなくなった私はそう告げると部屋から逃げ出したのだった。
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