第二章第14話 鬼が出るか蛇が出るか

「反社会勢力、ですか?」


クリスさんが私の出した推測に驚きの声を上げる。


「だって、それくらいしか考えられないじゃないですか。この国の裏社会を取り仕切るボス、的な立ち位置組織だったら、国や大聖堂の偉い人にパイプを持っていておかしくないですよね。それに、反社会勢力と噂の聖女様が会うと知れたら大騒ぎになります」

「そんなはずは! 王国では考えられません! それに神殿とそのような輩が手を組むなど!」


やはり清廉潔白を信じる脳筋聖騎士様には許せない事なのかもしれない。でも実際、そうじゃない貴族も実際いたわけだしね。


「王国でもメイナード伯爵やアルホニー子爵家のバカ息子たちの例もありますし。それに、ここは共和国なので選挙で偉い人が選ばれます。お金があって外面のいい、そして口先だけの悪人が選挙に当選するかもしれませんよ?」

「それは……そうかもしれませんが……」


それに中世における宗教の腐敗なんて洋の東西を問わずいくらでもあるわけだしね。


「でも、この部屋に直接会いに来ないってことは、迎賓館全体の警備を誤魔化すことはできない、ということだと思うんです」

「なるほど! だからこのように手紙を渡すというやり方を取った、と」

「あたしも筋は通っていると思いますけど、どうすればいいんですか?」


そう、それが問題だ。イルミシティではよりにもよって逗留していた伯爵家の長男が犯人一味で、夜中に襲われて痛い目を見た。今回は相手にしっかり準備する時間があるのだからしっかりと罠が張られている可能性だってある。


「ただ、私にこれをわざわざ渡してきた目的がわからないんですよね」


そう、私たちは訪れる先々で奴隷の解放を宣言している。そしてルーちゃんというエルフは従者であり、奴隷とされた家族を探している、ということを公言している。そしてこれはそれに対する最初の反応なわけだ。


だが、悩ましい。


反社会勢力だったとして、この手紙を送ってきたのが奴隷売買を行っている当事者なのか、それともその敵対勢力なのか、まずそこの違いで対応は随分と変わるだろう。当事者なら、和解、口止め、始末、攪乱あたりだろうか。敵対勢力なら、密告して弱体化を狙う、ぐらいかな? 第三者が何かすることはあるだろうか? うーん、ちょっと思いつかない。


「ルーちゃんはどう思いますか?」

「え? あたしですか? うーん、とりあえず話を聞きに行ってから考えれば良いと思います」

「フィーネ様、私も同意見です。罠ならば、私が全て切り伏せて見せましょう」


うん、クリスさんは相変わらずだね。いっそ清々しいかもしれない。


ただ、いくら悩んでいても解決しなそうだ。最悪の場合クリスさん無双に期待すれば良いだろう。まさか、これだけ話題になっている聖女様ご一行が川に浮かんでいたなんてことはさすがにないだろう。ないと信じたい。


「わかりました。じゃあ、そうしましょう」


よし、方針は決まった。鬼が出るか蛇が出るか、ひとつ敵の懐に飛び込んでみることとしよう。


****


翌日、行く先々で大歓迎を受けつつも観光し、そして私たちは大聖堂へとやってきた。


「ようこそおいでなさいました。フィーネ嬢。そして聖騎士クリスティーナ。そして従者の方。私が主教をしておりますパウロ 13 世でございます」

「はじめまして、主教様。フィーネ・アルジェンタータと申します。こちらが聖騎士のクリスティーナ、そしてこちらが仲間のルミアです」


主教様なる人が入り口で出迎えてくれた。教皇様は宗教のトップだということは知っていたけど、主教様っていうのは偉いのかな? 同じ宗教のくせに場所で呼び名が変わるのはやめて欲しい。


私たちは主教様に案内されて大聖堂内を見学した後、応接室へと通された。少し緊張しながら部屋に入ると、正面には天使の像があり、その右手には修道服を着た女性が立っている。私と目が合ったその女性はニッコリと微笑んだ。私も微笑み返したつもりだが、きちんと笑えていただろうか?


****


そして、主教様との会談は和やかに終わった。これと言って目新しい話もなく、いつものように奴隷売買の組織の話やミイラ病の件をお話して、ルーちゃんの家族探しの協力をお願いして終わりだ。主教様はこの後急ぎの用事があるらしく、お見送りができずに申し訳ない、と言って部屋を後にした。


こうも都合よく主教様に急ぎの用事が入るということは、やはりそういう事なのだろう。私は覚悟を決めて口を開いた。


「そちらの方、お手紙の件でお話をお聞かせくださいますか?」

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