第20話 ドラゴンは棲んでるよ

「なあ、魔法って出来ないことってあるのか?」

 ふと疑問に思い、奏汰は読んでいた科学雑誌から顔を上げて訊いた。

 ベッドに寝転びつつ、まったりとした夜の一時。そんな時、妙な疑問が浮かびやすいものだ。

「そりゃあ、あるよ」

 同じベッドで寝転びながら書類を見ていたルシファー、万能なわけないじゃんと答えは早い。

「例えば?」

「存在しないものは作れない」

「ん?」

 いきなり独特なやつからきたなぁ。奏汰は首を傾げる。

「だからさ、例えば漫画に出てくるような空想の生き物。ピ○チュウでもドラ○もんでもアン○ンマンでもいい。そういうものは作り出せない」

「ああ、そういう。意外としっかりした制約だな」

 奏汰はぽんっと手を打ったが、作れそうなのにねと思ってしまう。

 というか、ついこの間までの奏汰だったら、悪魔だって今の例えに出てきた連中と同じ空想の生き物だった。

「悪魔はいるじゃん。だってみんないるって思ってるのに」

 そんな奏汰の感想に、変だなあとルシファーは首を傾げている。

「いや、ううん。俺って純日本人で仏教なわけよ。悪魔って身近じゃないから」

 そんなルシファーに、奏汰は根本的なところが間違っているんだよなと指摘。

「あっ、そうか。信じているものが違うから悪魔がいないと思っていたのか。なんたる不覚。しかし、日本のアニメ漫画小説、どれを見ていても悪魔って当たり前に出てくるのに」

「いや、それはファンタジーだから」

「くぅ。俺様はピカチ○ウじゃないぞ」

 ルシファー、怒りの方向がおかしくないか。

 ってか、こんなキラキライタリア人なピ○チュウがいたらドン引きだよ。

「まあいいや。取り敢えずアレか。キリスト教に絡んでくるものはこの魔界や天界に存在しているってことだな」

「ああ、そうそう。しかし、仏教か。今度、そっち方面の奴らはどうなっているのか確認しておかないとな」

「いや、大丈夫。人間界に絡んでこないから」

 何を心配してるんだよと奏汰は呆れる。

「そうなのか。神にしても悪魔にしても積極的に勧誘するのに」

 ルシファーはおかしいなあと腕を組んでいる。

「だから、それこそ文化の違いだよ。仏教は悟りを開くためにあるんだよ。そりゃあ、仏の教えを守ると人生いいことあるよって説いて回るけど、無理に信者にしたり無理に修行に誘ったりしないって。そういうのをやるのは・・・・・・日本だと新興勢力のやつだし」

 奏汰は大学で見かけた、謎の宗教集団を思い出していた。ああいうのって、意外と大学生の間で広まったりするよなあ。

 有名どころのオ○ム真理教も多くの大学生が参加していたとか。信教の自由とはいえ、見極めは大事だ。

 悪魔に好かれている奏汰が言えた立場ではないけど。

「はあ。日本ってのは難しい国なんだな。どうりで悪魔信仰の奴らがなかなか見つからないわけだ」

 ルシファー、いちいちユーロから円に替えるの面倒なのにと言い始める。

「探せばいるだろうけど、ルシファーが思ってるのとは違うだろうしね」

 って、何の話をしていたんだっけ。完全に話が行方不明になってしまう。

「ううん。魔界ってどんな生物が住んでるんだ?」

 行方不明のついでと、奏汰はそんなことを訊く。

 この俺様悪魔に振り回され、サタンやベルゼビュートなんていう悪魔とも知り合ったが、根本的な部分を未だに知らないままだ。

「どんな? ドラゴンはいるぞ」

「マジか」

「ああ。たまにこの辺飛んでるし、大きなやつは山に住んでる」

「ははぁ」

 そういや見たことあるような。悪魔が飛んでるのかとも思っていたが、やっぱりドラゴンだったか。

 奏汰はやっぱりファンタジーじゃんと思う。

「後はゴブリンとか巨人とかもいるなあ。その昔、西欧において悪として葬り去られたあらゆるモノがいるって感じかな」

 ルシファーはそんな奏汰の呆れには気づかず、色々と住んでいるからなあと顎を擦る。

「もう、こうなってくるとスライムもいるんじゃないの?」

「それはいない」

「いないのかよ」

 期待を込めて聞いたのにと、奏汰は唇を尖らせる。

「だって、スライムは過去の西欧で倒されたことがない」

「ですよね」

 しかし、ルシファーの意見を聞くと納得と頷くしかなかった。

 ああ、そうか。悪魔やゴブリンや巨人がたとえスタートは人間の空想だったとしても、必死に倒した奴がいるってことだもんね。

 難しいなあ。

「日本でいうところの幽霊みたいなもんなんだろうか」

 人の思いが形作るというので思いつくのは幽霊だが、でも、これは人間が死んでなるものか。

「日本だったら妖怪じゃないのか」

 そこにルシファー、勉強したぞと威張ってくる。

 ああ、なるほど。妖怪ねえ。

「日本にいったらうようよと妖怪がいて、悪魔にスカウトしようと思ってたのに、いなくてショックだった」

 そしてルシファー、日本への期待が裏切られたとシーツを握り締める。

 何に期待してんだよ。この半分オタク悪魔は。

「日本の妖怪は、あれって半分くらいは科学で説明が付くからなあ」

 奏汰がそう指摘すると

「はあ、これだから人間は。ロマンを残しておかないから妖怪が絶滅しちゃうんだ」

 と変なことを言ってくれるルシファーだ。

 いや、ロマンで妖怪がうようよしていても困る。

「あれじゃないの。悪魔みたいに、妖怪もどっかに引っ込んでるんじゃないの?」

 仕方なく妥協してみると、ルシファーはそうか、そう考えることも出来たかと納得した。

 意外と単純だ。

「そうだな。日本人は異世界を作り出すのが得意なんだ。どこかで保護されているかもしれない」

 ルシファー、それならばどうやれば会えるんだろうとウキウキしている。

 何なんだ、この悪魔。

「勝手に探してくれ。俺は寝るぞ」

 馬鹿な会話をしていたら、もう深夜じゃん。奏汰は布団に潜り込む。

「ええっ。奏汰は妖怪に興味ないのか?」

「いや、そもそも悪魔が実在することも知らなかったからな」

「くぅ」

 そうか。俺様を知ってもらうのが先か。

 ルシファーは実験に疲れてすぐにすやすや眠っちゃった奏汰を見て

「豪胆だもんなあ。妖怪がいても見過ごしているのかも」

 と疑ってしまうのだった。



「うおっ!」

 昼間、ダイニングで奏汰は驚いた。

 別に裸の悪魔が転がっていたわけではない。いや、それより驚くものだ。

「なにこれ?」

 でんっと置かれた大きな物体に、奏汰はただただ驚く。なんか、茶色地に紫のしましまでデカい物体なんですけど。

「ああ、奏汰。素晴らしいだろ。ドラゴンの卵だ」

「は、はあ!?」

 そこに颯爽と現れたルシファー、でかいそれはドラゴンの卵だという。

「この間、二日連続でやったら出なくなると怒ってただろ?」

「あ、ああ」

 そりゃあ、誰だって二日連続でやれば出ないよ。男にだって限界があるよ。アレを製造する日ってのが必要だよ。絶倫でもない限り。

「で、昨日、ドラゴンの話になった時に思い出したんだ。ドラゴンの卵は超強力精力剤ってことに!」

 そこでルシファー、握りこぶしを作ってどうだと笑顔だ。

 一方、奏汰はフリーズ。

「これを使えば奏汰のアレが枯渇することはない。すぐに蓄えられ、うふふっ」

「ぶ、不気味な笑いをするなあ!」

 うふふっ、じゃねえよ。

 俺をどんな状態にしようとしているんだ。奏汰は頭を抱えて悶えてしまう。

「大丈夫だ。毎日出来るっていうだけ。いやあ、これを手に入れるの、大変だったんだぞ。なんせドラゴンには言語が通じないからなあ。分けて貰うなんて出来ないし。わざわざハンターに頼んで取ってきてもらうんだぞ」

「そ、そりゃあ、そうでしょうよ」

 奏汰、改めて卵に近づいてみて、しげしげと眺めてみる。

 確かに色は奇妙だが、卵だ。ダチョウの卵をさらに大きくした感じだ。

「あれかな。岩場にでも住んでいるのかな」

「そうだ。どうして解ったんだ?」

 奏汰が岩場に住むドラゴンと当てたので、ルシファーはびっくり。

「いや、卵に色が付いている場合、大体は外敵から守る必要があるからなんだよね。となると、このドラゴンは茶色に見せるのがいい環境にいるのかなあって」

「ほう。卵の殻でそんなことが解るのか」

 やっぱり奏汰は着眼点が違って面白いなあとルシファーは感心。

 こういうところでも素直な悪魔だ。

「まあ、鳥の卵の出来かたを知っていただけだけどね。で、これがその」

「超強力精力剤だ」

「ま、まあ、黄身に含まれる滋養は凄そうだけど」

 奏汰はまずこれ、食い切れないよなあと思ってしまう。ダチョウの卵だって目玉焼きにすると十人前は出来上がるのだ。これだと、さらに上を行く五十人前とか出来そうじゃないか。

「食べきれない。まあ、一度に食べる必要はないさ。ベヘモスに頼んで料理とお菓子にしてもらおう。クッキーにでもすれば日持ちするし」

「ああ、そういう」

「大体、こういうものは長期的に食べないと意味がないだろ。即効性もあるけど、でも、それじゃあ、三日連続は駄目って言われちゃうし」

「・・・・・・要するに、毎日やりたいってわけかよ」

「イエス」

 いい顔でイエスって言うんじゃありません。

 それにしても、ドラゴンの卵も健康食品みたいなものなのか。毎日の摂取が大切ですってか。

 それはそれでどうなんだよと思っちゃう奏汰だった。

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