第112話翼の指摘

神保町駅で都営三田線に乗り換える時も、心春は必死な顔で、翼について歩く。

「ほんま、マジに大都会です」

「あかん、キョロキョロします」

「文化の違いが・・・やはり遠く離れた金沢とは違います」


翼は、そんな心春に、少し指摘。

「あのね、心春さん」


その諭すような声に、心春は押された。

「あ・・・何でしょう」

キョロキョロ顔が、真顔になっている。


「金沢が遠い、と言っても、それほどではないと思うよ」

心春は、コクリと頷く。

「あ・・・はい・・・」


「沖縄とか北海道からも来ている」

「あるいは日本各地でも、交通の便が良くない場所からは、金沢市街より時間がかかる」

「それ以上に、日本に来る世界各地からの留学生も多い」

「それなのに、金沢が遠いとか、どうなの?」


心春は、指摘されて顔が赤くなるし、正論と思う。

「その通りやと・・・思います」

確かに、自分と同じ年ごろの金髪の少女が、三田線にも数人乗っている。

「あの女の子も、うちよりよほど遠距離ですわ」

「親元離れて・・・半端じゃない距離で」

「甘えとりました」

「オタオタし過ぎでした、ほんま」


翼は、そんな心春に微笑む。

「少しきつい話でごめんね」

「悪気は無い」


心春は、その微笑みに、震えた。

「あかん・・・可愛い・・・指摘された後に、天使の笑顔?」

「このまま、むしゃぶりつきたい」

「アパートなら、無理やりしたい」

しかし、さすがに公衆の面前、それができないのが悔しい。


翼は、話題を変えた。

「帝国ホテルまで行くなら、その後、銀座に行くかなあ」


心春の顔が、パッと明るくなった。

「え?マジです?」

「じゃあ、母との話は、10分でいいです」

「銀座に行きましょう」


翼は、また笑う。

「接客業は、客の期待を裏切らないこと」


心春は、また下を向く。

「母より銀座のほうが、面白そうです」


そんな会話をしていると、心春のスマホにメッセージ。


「ロビーでお待ちしています」

心春の母からだった。


心春は、すぐに返信。

「その後、銀座に行くから、話は手短に」


心春は、そんなやり取りを翼に伝えた。


すると翼

「話が合えば、お母さんも連れて行くかな」


心春は、「は?」と、戸惑っている。



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