第19話 マラソン

「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・つ、疲れたヨ~!!」

「俺ら、結構なペースで走っているのに・・・どうして聖女様は、離されずについて来れるんだ!?」

都までの険しい山道を何時間も走り続ける簡辛とチェンの後ろを離されることなく聖女様がついて来る


「・・・ん~・・・空気が美味しいですね。」


・・・な、何でだ?

聖女様は、何故、武闘家の俺らの脚力について来れるんだ!?


直ぐに諦めて、帰ると思ってたのに・・・



―――遡る事、数時間前―――


「・・・うぅ・・・暗いヨ~!・・・まだ眠いネ!!」

「この時間帯から出れば、夜までには、都へ着けるかな?」

寝惚け眼を擦る簡辛と一緒に夜明け前の山小屋から都へ向かう準備を始める


「お待ち下さい。簡辛様、チェン様!どうか、わたくしも、ご一緒に同行させて頂いても宜しいですか?」

『―――ダメだ!遊びじゃないんだ!!』

俺らの道中への同行を志願した聖女様をロンが拒絶する


ロンも別に聖女様の事が嫌いだから言っているんじゃない!

格闘技経験のない聖女様が俺らと一緒に旅をするのは、あまりに危険だからだ!!


これからの旅路は、野盗や武装警羅隊に狙われ、襲われ続ける可能性が高い!

そんな状況下で聖女様を無事に守れるかどうかもわからないからな・・・


「・・・シスター感謝してるネ!・・・別れは、寂しいヨ!!」

「・・・・・・簡辛様。」

涙を浮かべながら抱き合う、簡辛の後ろに立ち、ハグの順番待ちのようにチェンがそわそわしながら並び始める


『何をもたもたしてる?早く、行くぞ!!』

ロンにより、強制的に都へ向けて歩かされる


―――あぁぁぁーーー!!


合法的に女の子へ抱き着けたのに・・・!!


「・・・いってらっしゃいませ、2人の旅路に御武運を!!」

聖女様がチェンと簡辛の無事を願い、祈りを捧げる


聖女様は、最初から最後まで本当に良い人だったな・・・


何でもない普通の旅行なら一緒に連れて行きたいぐらいだが・・・


―――これは、違う!


身の安全の保障もない!

生死を賭けた旅になる!!


そんな危ない橋を心優しい聖女様に渡らせる訳には、いかない!!


「・・・・・・」


・・・でも

本当に、これで良かったのか?


元気になるまで看病してくれた女性とこんな薄情な別れ方をして・・・!?


受けた恩を返さずに己の野望もないだろう!!


「・・・・・・ロン!」

『・・・ハァ~・・・人間の感情は、理解出来ん!!』

チェンと簡辛の心情にロンが呆れ返る


『・・・処女!・・・来たきゃ、勝手にしな!!』

「・・・・・・えっ!?」

ロンからの予想外の一言に聖女様が驚きの声を上げる


『―――ただし、ついて来れたらな!』

「はい、ありがとうごいます。」

聖女様が笑顔でお礼を言い、走り出す簡辛とチェンの後ろをついて行く



―――それから数時間後―――


「・・・ゼェゼェ・・・ゼェゼェ・・・ゼェゼェ・・・チェ、チェン!・・・少し休もうヨ!!」

脇腹を押さえ、汗だくの簡辛が休憩しようと頼み込む


「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」


・・・た、確かに

足場も悪い、山道を長時間、走り続けたんだ!


少しぐらい休憩したい!!


「・・・また、休憩されるのですか?」

聖女様が戸惑いの声を上げる


―――なのに


・・・何故

聖女様は、汗をかくどころか息一つ切らさずに平気な顔をして走れるんだ!?


「あの~・・・簡辛様、チェン様、もしかして、わたくしの事を気に掛けて休憩を多めに取ってくれているのですか?」


・・・はぁ?


「わたくしにペースを合わさずに走って頂いて構いませんよ。遠慮せずに走って下さい。」


・・・ウ、ウソだろ!?

何でただの聖女様がこんなに体力と脚力を持っているんだ?


鍛えている簡辛のこの反応が普通だ!

いや、むしろ良く走ってくれている方だと思う!!


「・・・ハァハァ・・・シ、シスター!・・・シスターは、何で・・・ハァハァ・・・そんなに走るの早いネ?」

「・・・考えたこともないですね。自分を誰かと比較などしたことないので・・・―――神様の御加護かもしれませんね。」


それ本気で言ってんのか冗談で言ってんのかわかんねーんだよ!!


『そんなちんけな加護しかくれないなんて・・・大した神だな・・・!!』

ロンが下半身に力を入れて地面を踏ん張り、一気に駆け出す


「・・・オイ、ロン!何てスピード出してんだ!?大人気ないぞ!!女の子相手にムキになって全力なんか出して・・・」

『戯け!これが全力な訳ないだろう?リハビリだよ!リハビリ!!』

地面がえぐれる程の速さで走り出した、チェンが簡辛と聖女様を置き去りにして走り抜ける


ま~速い速いっといっても・・・


それは、聖女様の中での話!

俺らと比べるのは、可哀想だ!!


「―――ですよね?わたくしも、これが全力の走りだとは、到底、思えません。」

「『―――なっ!!?』」

完全に2人を置き去りにした筈なのに聖女様が平気な顔をしながら並走してついて来る


・・・え?

一体どういうことだ!?


そんな動きづらい服装に、走りづらい靴を履いたまま、瞬時に追い着き、このスピードについて来れるなんて?


「やはり、わたくしの配慮不足ですね。少し考えれば解りそうなものなのに・・・」

「・・・・・・?」

一緒に並走する聖女様が申し訳なさそうに喋り続ける


「そうですよね?わたくしが後ろや横にいては、気を使い全力を出せないですよね?―――次は、わたくしが前を走りますね。」

そう言い終えると同時に聖女様が簡単にチェンを抜かし、前を走り出す


「オイオイオイオイ・・・!!―――本当マジかよ!?」

『―――上等だ!!』


・・・ん?

これは、どういうことだ!?


俺らは、手を抜かずに走っているのに聖女様との差が縮まらずにどんどん開いていく!


いくら病み上がりとは、いえ!ロンの力を借りて走っているのに・・・


―――何なんだ?この脚力は!?


聖女様は、武術の達人?

もしくは、悪魔デビルズ刺青モンモンを・・・・


「チェン様!ここは、少し溝がございますのでお気をつけて・・・」

前を走る聖女様が忠告してくれる


「・・・ちょっ!?・・・ちょ、ちょっと待て!止まれ、ロン!!前を見ろ!道がないぞ!!」

聖女様の後ろをついて走っていたのに突如、目の前に大きな崖が現れる


「・・・・・・っ!!」


・・・せ、聖女様の姿がない!!

まさか、谷底へ落ちてしまったのか!?


『―――うるさい!前を見るのは、貴様だ!!』

「・・・・・・あっ!!?」

崖の反対側へ視線を向けると聖女様の走る後ろ姿が微かに見える


・・・ウ、ウソだろ?

この何十メートルもある!崖を跳び越えたというのか!?


そんなの人間の出来る芸当じゃないだろ?


・・・やはり

聖女様の正体って!?


「・・・一度、止まれ!簡辛と合流するぞ!!」

追跡困難と感じたチェンが引き返そうと提案する


『我を舐めた罪だ!懺悔させてやる!!』


・・・ま、まさか!

俺らも、この崖を跳び越える気じゃねーだろうな?


「・・・ま、待って、ロン、無理だって!無理無理無理無理・・・!!―――ギャァァァーーー!!」

ロンが何の躊躇もなく、崖を跳び越えようとする


・・・ダ、ダメだ!

全然、飛距離が足りてない!!


このままだと谷底へ落ちてしまう!?


『・・・舌噛むぞ!!』

ロンが谷間に吹き乱れる風を支配して、風を足の裏へと凝縮させて、ジェット噴射の勢いで一気に崖を跳び越える


『―――よー処女!』

「流石、武闘家様は、お早いですね。尊敬します。」

独走状態で走り続ける聖女様の元まで一気に追いついたチェンに驚き、聖女様が賛美を贈る


・・・し、死ぬかと思ったけど!

追いついて良かった!!


「―――それでは、わたくしも少し本気で走りますね。」

「・・・・・・へ?」

聖女様の聞き捨てならない一言に言葉を失い、今までとは、比べ物にならない速度で走り出す


・・・ウ、ウソだろ!

今までの走りは、全力じゃなかったのか!?


「・・・・・・くっ!!」


・・・ダ、ダメだ!

全然、追いつけない!!


ドンドン引き離されて行く!!


『―――龍人化りゅうじんかだ!!』

「バカ野郎!そんなホイホイ龍人化なんかしてられるか!!」


・・・それに

今更、龍人化しても追いつけるかどうか・・・


―――一方、その頃、簡辛は―――


「みんなドコ~!!あれ~?崖になって行き止まりネ!ワタシを置いてドコ行ったアルかぁぁぁーーー!?」

山の中で1人迷子になった簡辛が大声で叫んでいた

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