第7話誰かと私のそれからの日々
カシャ
俺はカメラのシャッターを切った。
どうか、これからの話を聞いて欲しい。これは、俺のついている「嘘と罪」の話だ。
俺は、ある国に仕える一人の警官だ。そこで女の子が一人、行方不明になった。何年も前のことだ。
彼女は、写真が好きで撮影することに長けていた。
俺は実家がその子の家から近かった為ということもあり、彼女の捜索を何人かの同僚と共に行った。しかし、1年近くも何の情報も得られなかった。
捜査は難航を極め、とうとう俺は遠く離れた国の友人に愚痴を溢した。当時わかっていた情報と、手掛かりとなりそうな女の子が過去に撮影した写真たち。それを友人と共有した。
別にこれが罪だということではない。上司からも許可を貰ったし、結果的に大きな成果を得ることができた。
行方不明の女の子とネットで繋がっていた少女を、偶然見つけることができたのだ。
行方不明となった後に彼女に送られてきていた無数の写真たち。そこに写った景色を参考に、俺たちは女の子の足取りを追った。
そして、事件は解決した。
彼女は深い森の中にある小さな小屋に監禁されていた。彼女の家から程近い所に広がる森。彼女はその中を逃げ惑い、捕まり、小屋に押し込められた。遠い彼女の友人に送られた写真の通りに。
彼女はネットを通じて友人に助けを求めたのだろう。文字を打つこともできない状況の中で彼女がしたことは、ヒントとなる景色にシャッターを押し、送信することだったのだ。
犯人は、その森に住む若い男性。
俺の、幼馴染みだった。
結果だけ言おう。
行方不明の女の子は生きて家に帰ることはなかった。
ああ、本当に申し訳ない。
女の子の帰りを心から待ち望んでいた人たち。
何よりも、彼女からのメッセージを、写真を待ってくれていた異国の幼い友人である少女。
俺たちは、俺は。彼女の命を守ることができなかった。
俺の、幼馴染みの犯した罪のせいで。
カシャ
俺はカメラのシャッターを再びきった。
これらの写真は、いなくなった女の子の友人へと送るものだ。いつものように、ありきたりなメッセージを添えて。
二人の少女の国を越えた繋がりはまだ続いている。メールのやり取りは終わっていないのだ。
大丈夫。きっとバレることはない。
これは、一人の女の子がいなくなった後の俺のつき続けている「嘘」の話だ。
大丈夫。この嘘はつき通してみせる。
俺は今日も写真とともに、遠く離れた国に待つ一人の少女へとメッセージを送る。
「こっちはいい天気よ」
ねえ、私に嘘をつく誰かさん?
わかっているのよ?あなたがあの子じゃないことくらい。
あれから私はたくさん勉強した。たくさんたくさん勉強した。
だから、わかるの。
今、送られて来ている写真はあの子の撮った写真じゃない。あの子はほんの少しレンズを左に傾ける癖がある。
あの子だったら同じ被写体でも違う角度から撮る。
だから、「この」写真はあの子の撮った物じゃない。
今、私の元には同じアカウントから二種類のメールが届いている。
ひとつは短い文が添えられた写真。あの子ではない誰かの撮った写真と、毎回違った私を気遣う文が添えられたメール。
誰かがあの子のフリをしているの。何かを隠している。でも、私はそれを知らないフリして返事を返す。
それともうひとつ。私の元にはメールが届く。
あの子の撮った写真が、今でも届くの。文のない、写真だけのメール。
ねえ、あなたは今どこにいるの?何をしているの?
私は今、遠く離れた所にいるであろう二人の「友人」とネットを介して繋がりを持っている。
あなた、誰?
私と写真を見せあう、あなたはだぁれ?
どちらも、その質問には答えてくれないだろう。
でも、それでいいんだ。
いつか、自分の力でその質問の答えにたどり着いてみせるんだから。
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