しょうかくしけん 1


 まず初めに音々は安堵した。

 この『しょうかくしけん』なる勝負は殺し合いでもなければそもそもバトルですらない。学力試験だ。

 周囲には数々の額当てをした忍者風の人々が往来し眼前の建物に入っていく。

 先程訊いてもいないのに勝手に話し始めた忍者によると、この中で試験が行われるらしい。

(四問正解で合格…嫌だわぁ、学が無いのバレちゃうじゃないの)

 そもそも人外は教育機関に通わない。一応人並みには独学で知識をつけていた音々ではあるが、もし大学入試クラスの問題内容であれば合格するのは難しいかもしれない。

(まあ打つ手もあるにはあるけど…ん?)

 ともかく入らないことには始まらない。茶色の長髪を手で払い足を前に進めようとした時、ふと横合いから視線を感じた。

「おっと。ハロー!髪の毛すごいね、切らないのそれ?」

 随分小さな金髪の少女が初対面で親しげに話しかけてくる。

 他の忍者達とは違う身なり、装い。すぐにこの少女が異世界の対戦相手だとわかった。おそらく相手も同じだろう。

「そっちも可愛いヘアスタイルしてるじゃない。敵じゃなければ抱き締めてるところよ」

 ぶっちゃけストライクゾーンだった。音々にとって小さくて可愛らしいものは全て入るのでかなり広いゾーンではあったが。

「へへっ、ダーンケ!私舩坂静っていうの。あなたは?」

「音々よ」

 苗字を名乗らなかったことをどう思ったか(そもそも姓を持たないのだが)、静はふーんと返してまたすぐ笑顔を見せた。

「テストだってね?私もっとこう、バーンってやってドンドーンってやりあうの想像してたのに!ざんねーん」

(ってことはドンドンバーンってってことか。アルみたいなのが他にもいるとは…)

 異世界も中々野蛮だな、と。率直に思う音々だった。

「じゃあとりあえず入ろっか。あーやだなー試験とかテストとか。自分でヴェーレンできたらいいのにー」

「……」

 試験自体は音々と静以外にも大勢受ける。あくまで二人はその中に混じっての点数勝負をするようだ。

 どちらもこの世界の世情には疎い身。どんな問題が出るかわからない以上は底辺争いになるだろう。

 そうなると決して高くはない勝率を違うやり方で操作する必要が出てくる。

 なんらかの方法を用いての反則行為。そうでなければ、

(そもそも勝負の舞台に上がらせない。たとえばこの場で会場に出れない状態にする…とかね)

 無邪気に無防備に背中を向けてずんずんと試験会場へ向けて通路を進む小柄な少女。

 この世界でどうなったところで元の世界で死ぬことはない、という話だった。

 

 音々は可愛いを愛する。その中にこの少女は当然入る。

 だが私情は挟まない。

 敵なら、倒すべきものなら。

 魔獣は本来持つ陰惨さを隠さない。

(…ま。その手に出るのはまだ早いか)

 茶髪の隙間から眇めていた両目を元に戻し、音々は大人しく少女のあとを付いて行く。

 試験開始まであと僅か。

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