自分語りをしてみませんか(読書文化史編)蓬葉様企画

うちは両親ともに読書家です。

居間に行くと、畳敷きに大小の座椅子を隣り合わせに並べ、父と母が読書をしている。

テレビはBGMの役割です。

点けてはいるけど、二人とも見ていません。

それが我が家の風景です。

父は新聞も舐めるようにして読みますが、母は新聞には興味がない。

ニュースには関心がないようです。


母は鬼平犯科帳などの時代ものと、松本清張のような推理小説を好んで読みます。

テレビもサスペンスドラマなら見ています。「放送開始後10分以内に人が死なんと、見る気になれん」そうですよ。

こんな人が私の母です。

父は雑学系が好きですね。ちくま文庫のヘビーユーザー。


また、母は子供の私達に、特にこれといった教育はしなかったと言いますが、ある程度の年齢になるまで絵本の読み聞かせは、していたそうです。


私も小学校低学年から『ファーブル昆虫記』をシリーズで読み始めました。

それが自主的読書の最初の記憶。

田舎育ちなものですから、盛夏になると、学校帰りの通学路は田んぼを囲んだ用水路。アスファルトの上なんて歩きませんよ。暑いから。

靴と靴下を脱いで、裸足でざぶざぶ。涼を求める小学生たち。


そして用水路には、たくさんの生き物が生息している。

ザリガニの持ち方は上級生から伝授されます。

蛙だってむんずと掴む。

中でも青蛙は可愛らしいから、指先にくっつけて愛でました。

てんとう虫もダンゴ虫も等しく可愛い。

掌にそっと握り込み、虫の脚が怪しくうごめく感触にゾクゾクしていた小学生たち。

こうして書くと結構エロい。

なんだか本ではなくて虫語りが止まらなくなってしまいました。


だから今でも、NHKの教育番組『香川照之の昆虫すごいぜ』が大好きです。


こんな、ふわ~っとした感じで私が読書を始めると、父がものすごく分厚い辞書を買ってくれました。父は子供達それぞれに一冊ずつ買い与えました。

しかしながら、活用されたのは私の辞書だけ。

同じ環境で育っても、本を読む人は本を読み、読まない人は読みません。

この個体差の根底にあるものって何なんでしょうね。


そんな私の読書は雑食。

堀辰夫の『風立ちぬ』を読み、恋愛小説にハマり始めた一方で、太宰治、坂口安吾、壇一雄など、無頼派と呼ばれる薄暗い小説にも、なぜだかときめく。


三島由紀夫の、やたら漢字を多用しただけの昼メロ小説とか。

明治から昭和初期にかけての文豪と呼ばれる作家の作品は、ひと通り読みました。

読んでおくべきだという観点からです。ワクワクするとか面白いと思えたものは少なかった気がします。


恋愛小説つながりで、一時期短歌にもハマリました。

車のCMで話題になった『柔肌やわはだの熱き血潮に触れもみで寂しからずや道を説く君』の与謝野晶子。吉井勇。


あとは、高校の古文の先生が、源氏物語の魅力を熱く語ってくれたので、古文の試験勉強の題材として、原文での読破を目指しました。

ですが原文では、いろんな場面がすっ飛ばされて書かれている為、何だかイージー。


帝の寝所にはべる女官の中でも、桐壷きりつぼという位の低い女人にょにんと帝の間に男御子、のちの光源氏が誕生した。けれども「出自の卑しい女のくせに!」と、他の女官から妬まれ、いじめられ、いつのまにか死んじゃって。

そうして光君ひかるきみと称されるまでに成長した美貌で多感な少年の前に、藤壺ふじつぼという女人が現れ、入内した。

つまり父帝の側室そくしつ(愛人)になっちゃった。

母を知らない光君は、その藤壺が亡き母にそっくりだと言われ続けたせいもあり、やがて父親に寵愛される側室の藤壺の宮に恋してしまう。


この有名な序章が実にさら~っと書き流されてて、情緒もへったくれもありゃしない。読んでもときめかないので止めました。


古文では古典太平記とかも読みました。

鎌倉時代、帝と貴族が政権を奮う建武政権に背いた武家の足利尊氏が、室町幕府の初代将軍となっていく戦記もの。

こういった戦記ものも好きで、わりと読んでいた。

ですので、自然に時代ものの小説を書くようになったのかもしれません。

理数系は全滅でしたが、現国と古文だけは飛び抜けて成績が良かったです(自慢)。


こうして、あっちゃこっちゃ気が向くままに本を読み、最後に辿り着いた本。

それは父が買ってくれた辞書でした。

あ行から順に読んでいく。

へー、こんな言葉があるんだー。みたいな発見が面白い。


その辞書は若干古典よりで、現在ではあまり用いられない言葉や使い方の例文が乗っていて、「へー。ほぅ。ふーん……」と、興味深く読みました。

この辞書こそが、最も私に影響を及ぼした『一冊の本』になりました。

物語の面白さを教えてくれたのは、間違いなく母なんでしょうけれど。私がなぜか残酷描写が得意というのも、母の資質によるものなのかも。


以上。誰の何の役にも立たない私の読書文化史です。

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