3日目

「いってきまーす!」


「またこんな時間に?ちゃんと17時には帰るのよ!」


「わかったよ!」






 日曜日、今日も朝日と例の場所で待ち合わせだ。



「なぁ晴翔。オレたちよく考えたら落ちてくる瞬間を見てないよな。」


「確かに」


「今日は落ちてくるところをちゃんと確認して、それから写真を撮ろう!」


「わかった!」


「移動しているという説が合ってたら16時10分頃、ここら辺のはずだ」



 昨日の空き地より少しはずれたところにボク達は立つ。


 じっと空を見上げる。

 

 まばたきもしちゃいけない気がする。



「晴翔、あれなんだ?」


「あれ??」


 なんだか雲が増えてきた気がする。さっきまであんなにいい天気だったのに。


 雲の隙間。一瞬、何かが光った気がする。


「ラピュタだ……」


 朝日がそう呟いた瞬間。


 頭に衝撃を感じた。


「いてっ!」


 と共に、また、空から、魚が、降ってきた。




「晴翔!写真!魚の写真を撮れ!」


 魚が当たった頭が痛くてさすりたいが、我慢して必死に写真を撮る。何枚も、何枚も。


 朝日も写真を撮っているようだ。

 しかしボクと朝日2人で撮る必要あるんだろうか?




「晴翔見ろこれ!」


 そう言って朝日はボクにスマホの画面をつきつけてきた。

 朝日が撮っていたのは空の写真だった。


 雲の隙間に。







「なんだこれ?」


「ラピュタの写真!オレ撮ったんだ!!ノーベル賞だぞっ!」


「や、やったね朝日!ボクも魚の写真撮れたよ!」


「よし、じゃあこのままオレの従兄弟の兄ちゃんとこ行こうぜ!」


「え、今から?」


 スマホの時計を見ると16時50分。

 もう帰らなきゃいけない時間だ。


「そんなこと言ってる場合か?ノーベル賞だぞ?!そしたら門限やぶっても母ちゃん許してくれるよ!」


「そ、そうだな!」






 朝日の従兄弟の兄ちゃんの家は、歩いて15分くらい。とっくに17時過ぎてしまった。


 朝日がインターホンを押す。



『はい』


「あ、ちょうどよかった、兄ちゃん。朝日だよ!例の写真撮ってきた!」


『ほ、ほんとに??』



 ガチャっと通話が切れてバタバタと走る音が聞こえる。


「よ、ようこそ」



 朝日の従兄弟の兄ちゃんは、朝日と正反対のタイプに見えた。


「兄ちゃん!オレの友達連れてくって言ったのにまたそんな穴あいたジャージ着て!恥ずかしいだろ?」


「で、でも。動きやすいし」



 大学生と聞いていたけど中学生くらいに見える。



「は、初めまして。晴翔です」


「あ、ど、どうぞ。と、とりあえず入って」


 従兄弟の兄ちゃんはボクと目を合わさず中に入っていった。










「早速だけど、写真、見て!!!!」


 ボクと朝日は自信満々にスマホの画面を従兄弟の兄ちゃんに向ける。

 きっとめちゃくちゃ驚くだろう!


 反応を待っているが一向に従兄弟の兄ちゃんは言葉を発しない。


 そしてやっと言ったのが。



「えっと……どれ?」


 えっ?


 ボクと朝日は顔を見合わせる。


「兄ちゃん何言ってんだよ。ここ、雲の隙間に」


「い、いや、雲なんてないし。すごくいい天気の写真にしか見えないよ」



 そんなわけない。はっきりと分厚い雲が写っていて、その隙間に…………………


城だ。



「あ、じゃあボクの写真は?」



 従兄弟の兄ちゃんにボクのスマホを見せる。

 昨日よりも大量に道の真ん中に落ちている魚だ。



「えっ…と。何も変哲のない道路の写真だよ?」



 嘘だ。

 ボクと朝日にははっきりと魚が写って見えているのに。




「嘘つくなよ兄ちゃん!じゃあ今から一緒にこの場所に行こう!」


「えっ、い、今からぁ?ちょっともう暗くなってるし危ないよ」


「危ないって、兄ちゃんもう大人だろ?保護者として来いよっ」



 朝日は従兄弟の兄ちゃんの手を引っ張って、ボク達は急いで例の場所に向かった。









「…何もないね」



 確かに何もなかった。


「もしかして時間がたつと消えちゃうのかな」


「近所の人が片付けてるのかも」


「聞いてみよう!」


「えっ!そ、そ、そんないきなり聞いて変に思われるよっ」


「兄ちゃんは黙ってて!」



 とりあえず空き地に背を向けて建っているおうちのインターホンを押す。


『はい?』


「あの、オレたち笹山小の5年生なんですけど、ちょっと教えてほしいことがあって」


『?今行くわね』



 出てきたのはお母さんよりも少し上っぽい女の人だ。



「昨日とか、今日とか、裏の空き地の道路に魚が落ちてるの見ませんでしたか?」


「え?パートの行き帰りに毎日通ってるけどそんなの見たことないわよ?」


「あの…この写真見てもらえませんか?」



 ボクは恐る恐るスマホをおばさんに見せる。



「あそこの空き地ね。何かあったの?」



 見えてないんだ!

 もしかしたら、大人には見えてないのかもしれない!!!



「そ、そうでしたか。ありがとうございます」



 そういってボク達はおばさんの家を出た。



「ほ、ほら急に変なこと聞くからおばさんも困ってただろ」


「おかしいな」


「おかしいね。もしかしたら大人には見えてないのかもしれない」


「じゃあさ兄ちゃん!明日一緒に落ちてくる瞬間を見よう!明日16時にこの空き地に集合な!」


「ええっ?!わ、わかったよ…。気になるっちゃ気になるし…」


「じゃあ晴翔!また明日な!」



 そう言ってボク達は解散した。

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