91~100  つまるところ、あなたにとって本とは。

091. この人の薦める本なら読んでみたい、そう思う有名人を教えてください。

▼先行する質問で答えたものと重複しますが、基本的に「この人が薦めるなら」という意味合いで全幅の信頼を寄せる方はいません。有名な作家や書評家が唸った作品、また絶賛のクチコミで溢れた本でさえも「うーん」と感じることももちろんあります。「本を薦める」というのはあくまで提案であって、絶対に強制を意味しないものです。ジャンルによらずどんな本でも楽しむための読書術をそこそこ心得ている自分ではありますが、本当に自分が読んで楽しめる本というのは自分しか知らないものであるとも思っています。これは自分が他者に本を薦める場合も同じです。すなわち本は、それが仕事でない限り無理して読むものではないということでありますが、読まなければ面白さがわからない作品も当然あるのが事実。実際はどうあれ理想として根底にあるのは「つねにオープンな気持ちであれ」ということです。


092. 映像化してほしい本はありますか?

▼2020年にNetflixで映像化された『クイーンズ・ギャンビット』が、役者の演技や人間関係のありよう、時代背景、小道具の使い方など微に入り細を穿つ作風で、「ナボコフが観たら賞賛していたかもしれない」作品だと感じました。それを踏まえた話なのですが、『クイーンズ・ギャンビット』で主役のベス・ハーモンを演じたアーニャ・テイラー=ジョイが、ナボコフの『カメラ・オブスクーラ』(原題:Laughter in the dark)の映画化作品の主演を務めることに意欲を出しているようで、いまからとても楽しみです。またブルガーコフの代表作『巨匠とマルガリータ』も映画化する話があるようで、そちらもかなり期待して待っています。ロシア本国の連続ドラマ版を観たことがあるのですが、どう考えても2時間そこそこで収まる内容ではないのをどうやって収めるのかもかなり気になります。


093. テレビ化・映画化で成功したと思う作品を教えてください。

▼映像作品として面白いと思ったのは先の質問で挙げた『クイーンズ・ギャンビット』です。また、あまり国内小説を読まないので原作との比較は難しいですが、角田光代さんの『八日目の蝉』や朝井リョウさん『桐島、部活やめるってよ』、最近だと『来る』(原作は澤村伊智さんの『ぼぎわんが、来る』)などがとても面白いと思った映像化作品です。じつは小説が原作の映像作品はあまり食指が動かないので浅学であります。ドラマやその映画化作品、劇場オリジナル作品はしばしば観ているのですが、この違いはおそらくその作品の内容や雰囲気を知っているか知らないか、または知っている必要があるかないかの差だと思います。海外の映像化作品に関しては原作の有無をそもそも気にせずなんでも観てしまうので参考になりませんが、パトリシア・ハイスミス『キャロル』に関しては映画を観てから原作を買いに走ったほぼ唯一の小説作品です。


094. 本の中に再現したいと思う(実際に再現した)場面はありますか?

▼本のなかの出来事を再現したいと思ったことはありません。たとえば旅行記など読んで「ここに行ってみたいなあ」と思ったことはあります。


095. あなたにはどうしても読みたい本があります。その本は既に絶版・品切。さあ、どうしますか?

▼まずはインターネットで該当の古本を取り扱っているところがないか探します。その後、メルカリ等のフリマアプリを巡ります。最終手段としては国会図書館に出向く、といったところでしょうか。関東から離れてしまったので国会図書館へ行くにもひと苦労になってしまいましたが、それほど読みたい作品を見つけてしまったなら休みを取って行きます。


096. 本という存在に対して、文句はありますか?

▼無限に面白い本を読み続けることができないという儚さ。


097. 心に残っている言葉・名台詞は?(原典も明記してください)

▼伊坂幸太郎さん『グラスホッパー』内の「死んでるみたいに生きたくない」です。初読のときから忘れられずいまに至っています。ちょっと洒落臭い感じもしますが、伊坂幸太郎さんはキレのある名言を作るのが上手だと思います。


098. あなたにとって、本とおなじくらい蠱惑的なものは何ですか。

▼映画です。小説と同じく虚構の創作物であり、小説が全ての文字で物語世界を形象するのであれば、映画は映像全体でもってそれを形象しているものと考えます。媒体は違えど描こうとしているものは同じであるというのが、小説と同じくらい映画も好きな理由だと思います。


099. 出版業界にひとことどうぞ。

▼採算度外視で良質な本を提供してくださる中小出版社や編集部の方々にはいつも頭が下がります。ですが、現状の出版業界としてはやはり日々厳しい立場に置かれつつあると思います。大々的に宣伝を打ったところで、相応の部数を用意できるわけでもなければ、それによって売れることが保証されているわけでもありません。いまの書籍市場での売り上げが見込めるのは有名作家の新刊、軽妙さが売りのエンタメ作品、もしくはクチコミが拡がった場合がほとんどで、そもそも内容的に重苦しいものであったり、作者独自の技巧が光る作品というのはなかなか人々に見い出されないのが現状です。また、大手出版社は販路が広く取り扱う作品も幅広いのでその点柔軟に対応できますが、出版業界の7、8割を占める中小出版社にはそれも少なく、出版に携わる方々のひたむきな営為こそがこの業界を成り立たせているのだと思います。自分は一読者にすぎませんが、いっしょに頑張りましょう。


100. つまるところ、あなたにとって本とは。

▼あんな薄っぺらい小さな紙が束になっているものに、時として、ひとりの人生が経験する以上の示唆が詰まっていたり、ここではない世界が広がっていたり、見たこともない生き物が息づいていたり、社会を動かすほど人々の感情を揺り動かしたり。それでいて持ち運びは便利なのに保管するとなると場所を取るし数が嵩むと重みで床が危ないしで、「可愛さ余って憎さ百倍」と「憎さ余って可愛さ百倍」という言葉がぴったりの代物だと思います。


つまるところ、自分は本が大好きです。

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